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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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夕星

七夕のお話を書きたいと思いつつ、二人は短冊にどんな願いを書くんだろうと考えるのが毎年の楽しみです。
  

2017.7.7投稿




「…何しに来たんだよ」
 夏の陽射しを避けて一日中エアコンの効いた部屋で読書に耽っていた弘樹は、藍色の駒絽に白い帯を締めて涼しい顔で上がりこんだ母親を不機嫌な顔で迎えた。

 本を積み上げたリビングをさっさと通り抜けてキッチンへ向かった母親は、カウンターの上へ持ってきた風呂敷包みを置いてあからさまにがっかりした顔をした。
「野分くんはいないのね」
 取り出した箱を差し出して首をかしげる。
「まあでも素麺ならヒロちゃんでも料理できるわよね」
「だからヒロちゃんって呼ぶな。俺を何歳だと思ってんだよ」
「子どもなんて何歳になっても同じよ。心配されたくないんなら、もう少しちゃんとした食生活しなさい」
「してるだろ」
「野分くんがいる時だけでしょ」
「う、」
心当たりがありすぎて黙りこんだ弘樹に西瓜ばっかり食べてたらお腹壊すわよ、と追い討ちをかけた母親は来た時と同じように慌ただしく玄関に向かった。
「送らなくていいわよ」
「買い物に行くついで」
「雨でも降らないといいけど」
 笑いながら一緒にエレベーターに乗った母親の視線が顔や身体に注がれているのを感じて、眉をひそめる。
「ンだよ」
「痩せた?」
「別に」
「あなたは昔っから夏バテしやすいから」
「バテてねぇし」
 一階で止まったエレベーターのドアが開くと、むわっと湿った熱気が押し寄せた。
「野分くんがいなくなったらどうするの」
「え?」
 エントランスを抜けたところで浴びせられた眩しい太陽の光と思いがけない言葉に立ち止まる。
「いつまでも甘えてちゃダメよ」
 待たせていたタクシーに乗りこみながら、ニッコリと笑った母親はまるで小さな竜巻のように去って行った。


  

◇◇◇◇



 タクシーを見送って歩き出した弘樹の頭の中を同じ言葉がぐるぐると回り続ける。


野分がいなくなったら


 深い意味はないのだろうとわかっていても、声に出された言葉は重く沈みこみ、心の隅にあるもやもやをかき乱す。会える時間は少なくても一緒に住む部屋には野分の気配があって、ちゃんと繋がっているという安心感に満たされている。それはお互いの気持ちが同じだから、なのだと信じているけれど。


 誰かを好きだと想う気持ちは、いつかは変わるものだということを俺は知っている。


もしも、野分の気持ちが変わってしまったら、俺は野分の手を離さないといけない。
ちゃんと笑って。


…俺は笑えるんだろうか。


 野分のいない生活を考えただけで、炎天下の中を歩いているのに身体の芯が寒々とする。機械的に足を進めているうちにいつものスーパーの前に着いていたが、わざわざ来たのに何を買う予定だったのかも思い出せない。
 ぼんやりとしたまま中へ入った弘樹の目に飛びこんできたのは大きな七夕飾りだった。
 出入り口そばの空いているスペースに置かれた笹にはたどたどしい文字のかわいらしい願い事から、大人の書いた願い事まで、色とりどりの短冊が下がっている。その下に置かれた机の上に短冊やペンが用意されていて、買い物に来たついでに願い事を書くことができるようになっているらしい。
 ペンと紙を手にした何人かの子どもに混ざっている大きな背中を目にした途端、弘樹は身体がふわりと温かくなった。
 目立つ長身、少しはねた黒い髪、広い背中、使いこんだリュック。野分だ、と改めてその存在を確かめるように見つめる。
 さっきまで野分のことを考えて沈んでいたはずなのに、目の前に本物の野分がいるだけで、沈んでいた気持ちが浮き上がってくる自分に笑えてくる。
 弘樹に見られてるとも知らず、仕事帰りで疲れているはずなのに野分は子どものように真剣に書いている。その姿にむくむくと悪戯心が湧き、弘樹は足音を忍ばせてそっと近づいた。


「何書いてんだよ」
ひょいと横から覗きこむ。
「うわっ」
驚いた声を上げた野分ににんまりとした弘樹だったが、野分の手元にある書きかけの短冊に息を飲んだ。
『ヒロさんともっと一緒に』
かぁっと頬に血がのぼる。
「野分…てめぇ、おかしなこと書いてんじゃねぇよ」
「あ、ヒロさんも書きますか?」
 ニコニコと嬉しそうに新しい短冊を渡してきた野分をぎりりと睨みつけ、筆ペンのキャップを外した弘樹は迷わず筆を走らせた。
『野分のバカが治りますように』
さらさらと書き上げた短冊に野分が困ったような顔をした。
「俺のヒロさんバカは治りませんよ」
「治せ!」
「でもせっかくだから、並べておきますね」
 手を伸ばした野分に高い枝へとくくりつけられた二人分の短冊はぴったりとくっついて揺れている。恥ずかしさにいたたまれなくなった弘樹は買い物カゴを掴むと売り場の中へ進んで行った。
「何を買いに来たんですか?」
「麺つゆ。ババァが素麺くれたから」
「良かったですね」
「良くねぇよ。相変わらずうるせぇし」
「何か言われたんですか?」
「…別に。なぁ、麺つゆはコレだっけ?」
「そうです。あと野菜も買いましょう」
弘樹の手からカゴを取り上げた野分が茄子や胡瓜を入れ始めた。
「何作るんだ?」
「茄子の揚げ浸しと胡瓜のサラダと、」
「美味そう」
「あ、にんじんを星型に」
「すんな」
「せっかく七夕なのに」
「ガキじゃねぇんだ。星は食わねぇ」
「今日は一緒に星が見られますね」
「晴れたらな」
 
 織姫と彦星を今夜は素直に祝福してやろうと思いながら、久しぶりに会えた喜びを噛みしめた。

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さるり
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女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中

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