frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
「月に喘ぐ」 ①
- 2017/07/25 (Tue)
- エゴss |
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2017.7.25投稿
続く、予定です。
続く、予定です。
「久しぶりの母校はどうだね」
大学時代の恩師の言葉に改めて見渡した構内は、思い思いに昼休みを過ごす学生たちで溢れている。
「懐かしいですね」
違う学校とはいえ、大学に勤務しているのだから大学生は見慣れているが、学生時代をこのキャンパスで過ごしたという連帯感は消えないようだ。一気に時間が巻き戻されて、自分もあの中にいた頃の感覚がよみがえる。
「そうだろう。もっとも君ほど優秀な学生はなかなか現れないがね」
「そんなことは、」
不意に視界に入ってきた顔に目を奪われる。
------野分?
人より一つ飛び出した長身、真っ黒な髪の毛、整った顔立ち。
どうしてこんなところに野分が。
しかし驚くほど野分にソックリに見えたその男が隣を歩く女の子に笑いかけた途端、魔法が覚めたように俺は我に返った。
違う、野分じゃない。
「上條君?」
「すみません。知り合いに良く似ていた人がいたもので」
よく見たら黒髪を流行りのスタイルに整え、派手な服を着ているその男は明らかに野分よりも若い。きっとここの学生なんだろう。俺の視線の先の学生の群れを見て、ああ、と納得したように頷いた教授とまた歩き出す。
「兄弟や親子でここに通う人も多いからね。確かM大の高槻教授のご子息もうちにいるはずだよ」
誇らしげな言葉に相槌をうちつつその可能性に愕然とした。
兄弟・・・。
もう一度、先ほど見かけた学生を眺める。野分に良く似た整った顔だちは少し冷たいくらいで、今の野分というよりは出会った頃の野分に近い。
もしかしたら
降り注ぐ夏の陽射しの中で、じりじりと濃くなる影を一人みつめた。
◇◇◇
「ヒロさん」
「ん?」
真っ直ぐに俺を見ている野分の視線とぶつかる。
「どうかしましたか?」
「いや別に」
止まっていた箸をのばして茄子の煮浸しをつまむ。
「何か心配事ですか?」
ふわりと微笑む野分の優しさはいつもと変わらないのに、今夜はその笑顔を向けられるとひどく後ろめたい気分になる。
「今日、久しぶりにT大に行ってきた」
もしも、あの学生とお前に、血の繋がりがあるとしたら。
「そうなんですか」
「なんつーか、俺も老けたなぁってしみじみ思ったわ」
自分の兄弟がいると知ったら、野分はどうするんだろう。
「ヒロさんは変わってないですよ」
「お前はいっつもそう言うけどな、俺ももう三十路だぞ」
「年齢なんてヒロさんの可愛さには関係ないです」
「バカなこと言うな」
ニコニコと笑う野分の顔から目を逸らして、白米を頬張る。
バカは俺の方だ。
野分には誰よりも幸せになって欲しいと願っているはずなのに。
「お前、明日も仕事なのか?」
「はい。午後からですけど」
「俺も、明日は昼からだ」
遠回しな誘いの言葉を残して食べ終わった食器を持って立ち上がる。
「ヒロさん」
シンクの前で後ろから回された腕の熱さに、耳元に落とされた声の甘さに、包まれる野分の匂いに身体中がとろりと緩む。
「・・・ここじゃやんねーぞ」
「残念です」
笑いながら唇を重ねる。
俺はこの幸せを手離すことを恐れている。
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プロフィール
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さるり
性別:
女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中