frown
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たとえどんな世界でも
- 2016/07/09 (Sat)
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育さんへお誕生日の贈り物。
前に話してた黒いバラと白いバラのお話を膨らませてみました。
2016.7.9
前に話してた黒いバラと白いバラのお話を膨らませてみました。
2016.7.9
その屋敷は数多の薔薇に覆われるように建っていた。
中でも自慢の薔薇は白い花びらの中心部に仄かに朱が入っており、その品の良い形の美しさと香りの高さが貴婦人のようだと褒め称えられていた。
何代にもわたって交配を工夫した屋敷の敷地には、見たこともないような色や形の薔薇が咲くことがあったが、ある年にまるで夜の闇を溶かしたような漆黒の蕾を持った薔薇がみつかった。その茎も葉も棘さえも黒く光る薔薇を屋敷の主人にはひどく不吉なものに見えた。
「とっとと抜いてしまえ」
そう吐き捨てるように庭師に命じた。
しかし、庭師はまだ小さなその薔薇が不吉なものとはどうしても思えなかった。
「お前に罪はないものを気の毒な」
庭師は黒い薔薇を丁寧に掘り起こすと、主人の目に触れないよう、そっと屋敷の外へと植え直した。
誰にも世話をしてもらえなくなったというのに、黒い薔薇は枯れもせずに育ち、やがて大きな花を咲かせた。
黒い薔薇は、何もないところに植えられたせいで、いつもひとりぼっちだった。
時折遊びに来てくれる蝶々から、向こうにはたくさんの仲間がいるんだよ、と教えてもらっては毎朝背伸びをしてみたのだけど、囲われた屋敷の中が見えることはなく、ションボリとうなだれる毎日だった。
ところがある日、いつものように背伸びをした黒い薔薇は見たこともないような綺麗な花を見た。
真っ白な花びらは朝露をのせて瑞々しく光り、甘い香りを纏ったその花は真っ直ぐに立って自分の方を見ている。
「お前誰だ?見たことのないやつだな」
白い花にそう言われて、黒い薔薇は自分の名前を思い出した。
それは庭師が一度だけ呼んだ名前。
「初めまして。俺はノワールと言います」
「ふーん。お前名前があるのか」
「あなたはないんですか?」
「ない」
「こんなに綺麗なのに」
ノワールがそう言うと、白い花はほんのりと赤く光った。
「お前だって同じ薔薇じゃねーかよ」
ノワールはなんだか嬉しくて、ぐうっと体を伸ばして近寄った。
囲いの向こうに立つ白い薔薇も、なんだか自分の方へと葉を伸ばしているようだ。
少しでも近くにいってみたい。
そして、できれば触れてみたい。
その想いが通じたかのように、ノワールの体は日に日に大きくなり、とうとう屋敷の中に咲く白い薔薇のすぐ近くまでたどり着いた。
ところが、自分の体にはやけに大きな棘が生えていて、白い薔薇の体に刺さりそうになってしまう。
「ごめんなさい」
慌ててひっこめると、今度は白い薔薇がそっと近寄ってきた。
甘い香りがさらに強くなる。
「別に、平気だ。気にすんな」
二つの薔薇は互いの体を伸ばして、しっかりと絡めあった。
それは互いの体を傷つけあうことになってしまっていたけれど。
その晩、絡まり合って眠る二つの薔薇を季節外れの嵐が襲った。
翌朝、庭師は今年の薔薇の中でもとりわけ美しかった白い薔薇が、屋敷の外へと向かうように倒れて散ってしまっているのを見つけた。
「可哀想に」
散らばった白い花びらの中に、漆黒の花びらが混ざっていることに気づいた庭師は、首を傾げた。
「昨夜の嵐はひどかったからなあ」
そう一人で呟くと白と黒の花びらをまとめて拾い上げた。
その場所に、まるでパンダのような白と黒の花びらを持つ薔薇が咲くようになるとも知らずに。
FIN
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プロフィール
HN:
さるり
性別:
女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中