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frown

当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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春の月

少年時代のあさいさ



2016.5.5




「…どうしたんですか?」
 自分の部屋のドアを開けた途端に見えたものに、薫の目が丸くなった。
自分のベッドの上にうつ伏せで寝そべった龍一郎が、本を読んでいる。
「暇だったから来てやったぞ」
振り向きもせずにそう言うと、足をパタパタとさせながらページをめくった。
「あの…」
「なに?」
「旦那様たちと旅行に行ったんじゃ」
 パジャマ姿でここにいる龍一郎の姿に、もしかしてなにかあったのかと慌てている薫を横目に、当の本人はいたって当たり前のような顔で言い放っ
た。
「俺だけ行くのやめた」
「やめたって、」
「めんどーだったから」
「そんな」
「俺ももう一人で留守番できるし」
呑気な言葉に薫は深いため息を吐いた。
 一人で留守番できると言っておきながら、ここに来ていることの矛盾に、気がついてはいないんだろうか…。
風呂上がりの匂いをさせている龍一郎から本を取り上げる。
「あ、それまだ読んでる」
「貸しますから、自分の部屋に戻ってください」
「なんで?」
「私はもう寝る時間ですから」
見上げてくる顔から目を逸らしながらそう伝えて閉じた本を渡した。
「もう寝るのか」
 ベッドの上をごろりと転がった龍一郎は空いたスペースをぽんぽんと叩いた。
「じゃ、薫はこっちな」
「あの、」
「なに?」
「…いえ、わかりました」
一人であの広いお屋敷で寝るのは落ち着かないのだろうと、半ば諦めて部屋の灯りを落とすと隣に身体を入れた。
 ふわりと温かな空気がまとわりついて、ほんの少しだけ触れている肩先がじわじわと熱をもちはじめる。
 目覚まし時計の秒針が刻む音がやけに大きく聞こえてくる。
微かに上掛けが揺れる。
「なあ…」
「はい」
「お前さぁ、彼女できた?」
「いいえ」
「なんで?」
「誰かのお世話で忙しいので」
「…親父?」
「旦那様には私の世話など必要ありませんよ」
「ふーん…」
ベッドのスプリングがギシリと音を立てて、触れていた肩が離れた。
「おやすみ」
「おやすみなさいませ」
真っ暗な天井をじっとみつめる。
二人で寝るには狭くなりすぎたベッドに、子ども時代の終わりを告げられているような気がした。
 それでもまだ側にいたいという願いは叶うのだろうか

 隣から聞こえてくる規則正しい寝息に、ゆっくりと自分の呼吸を重ねて、目を閉じた。
 
 

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ヒロさん溺愛中

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