frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
Midsummer
- 2017/09/07 (Thu)
- 捧げ物 |
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木瀬さん、お誕生日おめでとうございます。パラレル、もしくは、甘々、というリクエストの答えがこれかよ、という気がしなくもないですが、お納め下さいー。
( 2016.8 初出)
( 2016.8 初出)
「お疲れ様でした」
「お疲れ。気をつけて帰れよー」
「はい」
朝刊の配達を終えて自転車をこぎだす。
少しずつ夜から朝の色へと変わっていく街の様子を眺めながら走るのは悪くない。
あと少しでアパートに着く、というところで悲鳴のような声を耳にして、野分は自転車を止めた。
路地裏から聞こえるそれは、よく聞くと悲鳴というよりは何かの鳴き声のようだったが、なんとなく放っておけなくてひょいと覗きこむと、灰色の大きな塊がすごい速さで野分の傍をすり抜けていった。
「猫?」
路地裏には少し小さな茶色い猫が1匹残されている。
「大丈夫?」
手を伸ばしても逃げ出さない様子によく見ると、どうやら足に怪我をしているようだった。
「ウチに来ますか?」
そう聞くとまるで言葉がわかるかのようにピクリと耳を動かして、猫は後退りをした。
「大丈夫。ちゃんと治してあげますよ」
そうっと抱き上げると諦めたように目を閉じた猫の重みに、なんだか嬉しくなりながら、野分はアパートへと向かった。
*****
「先ずはお風呂に入った方が良さそうですね」
怪我はたいしたことなさそうだったが、汚れてしまっている猫にそう言うと、途端にものすごい勢いで暴れだした。
「怖がらなくてもいいですよ」
空の浴槽に降ろして、ついでだからと自分も服を脱ぐ。鳴いていた猫は裸になった野分の姿に鳴きやんで、大きく目を見開いた。
「いきますよ」
湯の温度を確かめて、そっとかけようとしているのに、猫はピョンピョンと逃げ惑う。
「待ってください」
「ニャーッ」
猫と野分の攻防は思いの外長くかかったが、とうとう猫の長い尻尾にお湯がかかった。
するとその途端、もくもくとピンク色の煙のようなものが勢いよく立ち昇った。浴槽の中はあっという間に煙に覆われて何も見えなくなり、さらにその煙は洗い場をも満たし、狭い風呂場はまるで濃い霧の中にいるような状態に陥った。
むせかえるような甘い香りのするその煙を必死になって手で払っていた野分は、煙の向こうに誰かがいる気配を感じて目を凝らした。
確かにそこにいたはずの猫はどこにも見当たらず、煙が消えた浴槽の中に現われたのは、すらりとした若い男だった。
「えっ?」
服どころか何一つ身につけていないその男は、その代わりというべきか、さらさらとした茶色の髪の毛の頭にピンと三角の耳が生えていて、細い腰には長い尻尾が揺らめいている。
「ね…こ?」
「にゃあ」
喋れないのだろうか、小さく鳴く声はさっきまでいた猫と同じ声で、野分はひたすら混乱していた。
目の前の顔も身体つきも、茶色の耳と尻尾以外は、まるでそっくり同じだったから。
「ヒロ…さん?」
「にゃにゃ」
弘樹にそっくりの顔をした男は立ちつくす野分の肩に両手をかけると、背伸びをするようにつま先だって顔を近づけた。赤い舌先を伸ばしてぺろぺろと野分の頬を舐める。さらに顎へ、首すじへと舌を這わせていき、たどりついた鎖骨を強く吸い上げて赤い印をつけた。そうしてさらに厚い胸元へと、ちろちろと舐めながら少しずつ下の方へと顔を降ろしていく。
「あの、」
突然のことに戸惑う気持ちとは裏腹に、身体は正直な反応を示し始めている。
これ以上は
そう思って目を閉じて奥歯を噛み締めた瞬間に、誰かに名前を呼ばれた。
「野分!」
同時に激しく肩を揺すられて、どこか遠くに沈んでいた意識がふわりと浮上した。
「んん」
はりついたように重い目蓋をこじ開けると、呆れた顔の白衣の男が目の前にいる。
「先輩…」
「いつまで寝てんだよ」
「すみません」
見慣れた仮眠室のベッドから強張った身体を起こす。なんだかおかしな感覚だけが残っていて、頭を振って立ち上がった。
「とりあえずそのヤバイ顔をなんとかしてから来いよ」
「はい」
さっきまで見ていたような気がするのに、もうボンヤリとした摑みどころのない輪郭だけになっている夢の破片を探してみる。
何だかすごくイイ夢だったような…
「モタモタすんなよ研修医」
津森の声に慌てて白衣を羽織る。
早足で仕事へ戻る草間野分が自分の身体に残された赤い痕に気がつくことはなかった。
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プロフィール
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さるり
性別:
女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中