手首

「腕時計になりたい…」
「は？」
「ズルイです。俺がいない間にこんな」
ヒロさんの手首を掴み
「なに？どうしたんだよ急に」
腕時計の形に白く残った日焼けの跡に唇をおしつける
「何してんだよ」
「ヒロさんに跡をつけていいのは俺だけです」
「アホ」
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

夏

「ヒロちゃん、西瓜切ったわよ」
「ヒロちゃんじゃねぇ」
「西瓜いらないの？」
「食う」
「食べ過ぎないでよ」
「わかってるって」
ヒロさんは浴衣と西瓜がよく似合う
「野分、食わねぇのか？」
「食べます」
蚊取り線香の煙が夏の星に向かって昇っていった
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

かき氷

「こんなに大きいのか？」
「俺も知りませんでした。でもふわふわで美味しいです」
「ほんとだな」
「そうだ。写真」
「もう半分食っちまってるだろ」
「大丈夫です」
真剣に氷を食べる顔にスマホを向ける
「ヒロさんはかき氷も似合いますね」
「消せ！」
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

猛暑

「お前…焼けたな」
「そうですか？」
「この辺とか」
二の腕に手を這わす
「ヒロさんは焼けないですね」
「焼けたし」
「どこですか」
「教えねぇ」
「見たいです」
「見せねぇ」
まだ燻る身体で戯れあいだした俺たちを見てエアコンがうなりを上げ出した
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

パンツ

「その柄、カブトムシ？」
「セミもあります」
「…今度、俺が買ってきてやろうか？」
「いいんですか！」
「おう」
「じゃあお揃いがいいです」
「お揃い？」
「はい！ヒロさんとお揃いならTバックでも何でも」
「俺はそんなの履かねぇッ」
「レースは？」
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

汗

「あっちぃなー」
「ヒロさん、お腹冷えますよ」
「ガキ扱いすんな」
「でも…」
「汗がひいたら着るし」
腰にタオルを巻いた格好でぐびぐびと水を飲む白い喉をじっと見つめる
「何？」
「美味しそうです」
「水か？」
「汗が」
首すじを伝う汗に口づけた
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

事後

クーラーが遠慮がちに唸り、部屋の中の熱が去り始める
いっそこの熱で溶けて１つになったままでいられたらいいのに
繋がったまま抱きしめて小さく息を吐く
力なく抱き返してくれた腕を嬉しく思いつつ汗ばんだ身体を離し、微かに聞こえた甘い声に唇を重ねた
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

花火

『今夜は花火が上がるそうです』
野分から届く短い文はいつも俺を悩ませる
一体俺にどんな返事を求めているんだろうか
『そうか』は流石に冷たいが『一緒に見たかったな』は…無理だ
ベランダに出て上がり出した花火の写真を撮り『仕事頑張れ』と送り出した
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

花束

大きな手が花を掴む
あの手が器用で優しいことを俺は知っている
ばらばらだった花が野分の手にかかると大きな１つの花になる
魔法みたいだ
花に嫉妬しかけた俺に向かって野分がニコリと笑いかけた
ガラス越しに目があった俺は魔法にかかったように固まった
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

キス

遮光カーテンの中で、死んだように動かない姿はまるで眠れる森の姫だ
「少し痩せた…か？」
野分の顔をじっとのぞきこむ
「…起きんなよ」
緩く開いた唇にそうっとキスを落とす
「いってきます」
静かにドアを閉めながら、久しぶりに会えたことを1人で喜んだ
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負