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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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執事田中の日誌

宇佐見邸の執事田中さん目線で書いてみました。
どうなんだろう?と思いつつアップしてみます。
ミニマムウサギさんとヒロちゃんです。

2015.1.28



大きな門が音もなく開いた。
足を踏み入れたそこには、どこか異国の地にでも迷いこんだかと思わせるような重厚な造りの屋敷が訪問者を迎える。
その屋敷に誂えたように取り囲む、都内の一等地とは信じられないほどの緑。
ここでは通り抜ける風さえも、先ほどまで歩いていたアスファルトの上で感じるものとは異なるようだ。
風に揺れる木の葉が奏でる音が耳をくすぐる。
落葉樹も針葉樹も競うように立派な枝ぶりを誇っている
植えたもの、というよりは昔からここにある林を残したもののようだ。
歴史を感じる屋敷の趣きからも成金ではないことが伝わる。
それにしても手入れが大変だな
そう思ってしまってから、苦笑いをした。
これだけの屋敷だ。住んでいる人間自らが庭の手入れをするわけがない、専門の庭師を手配するだけのことだろう。それとてこの屋敷の主人が直接指示する必要もないに決まっている。
そのような屋敷の細々としたことを管理するために私が来たのだから。

この屋敷の執事として、宇佐見冬彦様に仕えるべく、私は屋敷の中へ足を踏み入れた


この屋敷に勤めてから、この素晴らしい庭が本当に単なる飾りだということが分かった。
個人の邸宅ということもあって年に何回かの手入れに庭師が来る以外は、庭は常にひっそりと静まり返っている
ここの主人は客を集めるような賑やかなことをさほど好まない。
家族で庭で遊ぶこともない。
庭はいつだって静まり返っている。
それでも、庭の様子を確認するのは私の日課の一つでもあり、密かな楽しみでもあった。
野鳥の囀りを聞きながら、このような緑を眺められるとは、仕事とはいえ贅沢なことだ。

そんなある日、茂みの中に見慣れないものが見えた。
ひょこひょこと動く茶色の髪の毛。
いったいどこから入りこんだんだろうか?
驚かさないようにそっと覗きこむと、そこにいたのは子ども。
それも、よりによって男の子だった。
なんということだ。
ここで子どもに騒がれたりしたら大変だ。
早々に屋敷の外へ出さなければならない。
そう思っていたのだが、その日、その子はたった一人でジッと座って空を見ているだけだった。
いったい、どこから入りこんできたんだろう?
ようやく立ち上がった男の子の後をそっとつけていくと、塀に開いた小さな穴を潜り抜けて外へと出て行った。
こんなところに穴があったとは、大至急修理の手配をしなければいけない。
しかし、この穴を潜れるのは、猫か、せいぜい子どもくらいだ。
私は急いで門へとまわり、外へ出てその子の姿を探すと、道路を渡っているのが見えた。入っていった先はすぐ目の前の家だった。

可愛い侵入者。

それは向かいに住んでいる上條家の子どもだった。
さて、どうしようか?
とりあえず主人に伝えるほどのことでもないだろう。
庭の様子を確認する日課に、新しい楽しみが増えた。

ああ、また来ている。

その子はいつも一人だった。
最初の私の予想に反して、静かに本を読んだり、寝そべったりしている。
色の白いその子がゴロンと寝そべると薄茶色の髪の毛が広がる。日差しに透けるような髪の毛はいつの間にかこの場所にしっくりと馴染んでしまっているようだ。
その頃には、庭の野鳥さえもすっかり馴染んで、この子の近くで遠慮なく鳴き声を交わすようになっていた。
どうしようか。
塀を直してしまえば問題はすぐに解決する。
しかし、この子はこの場所をとても気に入っているようだ
私自身もこの子が気に入っていた。
追い出すのは少しばかり心が痛む
しかし、このままでいいわけがなかった。
ごめんな。
いよいよ塀を直すための手配をしなければなるまい。

しかし、それからしばらくの間、私は庭に出ることができなかった。
イギリスから奥様が帰国なさったのだ。
一緒にご子息の秋彦様も帰国なさったため、部屋の準備やら、学校へ編入の準備やらに追われてしまっていた。

ようやくお二人の帰国後の慌ただしさも落ち着いた頃、私は久しぶりに庭をまわった。
野鳥の声に紛れて聞こえてきた話し声に足をとめた。

あの子だろうか?
友達を連れてきたのか?
もしそうなら、今度こそは追い出さなければならない。
みつからないようにいつもの場所を覗き込むと、今日は二人座っていた。
一人はいつもの子で、もう一人はなんと秋彦様だった。
いつの間にここへ来ていたんだろうか
お屋敷の中で遊んだらよいものを、声をかけようとした私は息を呑んだ。
野鳥に話しかけている秋彦様の顔が、笑っていた。
お屋敷の中では決して見ることのないその表情は、紛れもなく年相応の子どもの顔だった。
私は音を立てないように気をつけながら、引き返した。

あの塀を直すのは、しばらく止めておこうか。
秋彦様の居場所が屋敷の中にないのであれば、せめて、この場所は私が守って差し上げよう。

風が木の葉を揺らしながら、吹き抜けていった。

ありがとう。

私はこの庭に、そして、あの子に頭を下げると屋敷の中へと入っていった。

 

 

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