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frown

当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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巡り合わせ

純情ミニマムact.7の野分とヒロさんの出会いより、妄想。

2014.10.16    pixiv投稿



「ヒロさん、今日何か予定ありますか?」
今日は珍しく野分と一緒に朝食を食べていた。といっても、こいつはさっき病院から帰ってきたばかりだ。
「ん?どうした?」
俺はせっせとトーストにマーガリンを塗りながら聞いた。
「いや、せっかく俺一日休みをもらったんで。ヒロさんとどこかへ行ったりしたいなぁって思って。」
野分は目玉焼きを箸でつつきながらそんなことを言ってきた。
それが、10日ぶりに家に帰ってきたやつのいうことか?
お前、目の下にベッタリとクマくっつけてるぞ。
「俺は出かける用事があるから。お前は少し寝てろ。」
トーストを齧りながらそう言って野分を見ると、ションボリした顔で俺のことを見ている。
 「ヒロさん、どこへ行くんですか?」
「ああ、ちょっとな。」
目を逸らしてトーストを飲み込むと、窓の外には澄んだ青い空が広がっているのが見えた。
もし、二人で出かけることができるなら。
「ちょっとって、どこですか?俺に言えないようなとこですか?」
箸を置いた野分は、真っ黒い瞳で見つめながら聞いてきた。そんなときの野分の瞳はなんだかいつもよりも大きく、さらに真っ黒に見える。
 俺は目を逸らすこともできずに、黙ってマグカップに手を伸ばした。
野分はまだ俺のことを見ている。
コーヒーを一口飲むと、諦めて言った。
「、、実家に取りにいくものがあるんだよ。」
途端に野分の目が大きく見開かれた。
「やっぱり、一緒に行きたいです。だめですか?」
言ったら、きっとそんなことになると思っていた。だから言いたくなかったってのに。
「、、、わかったよ。連れて行ってやる。」
「本当ですか?」
嬉しそうに目玉焼きを食べ終わって、トマトに取りかかったかと思ったら、また、野分の箸が止まった。
心ここに在らずといった顔で口に入れたトマトを咀嚼している。
コイツ、もしかして。
「野分、何考えてんだ?」
「あ、どのスーツがいいかなと思って。」
やっぱり、、か。
俺は飲み終わったマグカップをテーブルの上に置いた。
「一応言っておくけど、今日は、実家に行っても、親はいねーからな。」
「え?」
「朝から遠方の結婚式に行ってるんだよ。俺は、置いてある本を取りに行くだけだぞ。」
「あ、そうなんですか、、。残念です。せっかくご挨拶ができるかと思ったのに。」
「野分、、挨拶って何だ?」
「それはもちろん、息子さんを下さ」
最後まで言わせずに、俺は拳骨を野分の頭に落とした。
「アホっ!」
頭をさすっている野分をおいて、食器をシンクへ下げると、洗濯機の方へ行く。出かける前に洗濯物を干してから行こう。せっかくいい天気なんだし、野分の持って帰ってきた洗濯物も結構な量だ。

ポトン

洗濯機に入れる前に軽く振った野分の服から飴玉が落ちてきた。
「野分、ポケットに飴入ってたぞ。」
「え?あっ、すみません。」
食べ終わった野分がキッチンから返事を返してきた。
「休憩の時にもらって、ポケットに入れたままでした。」
「ったく、危なく洗うとこだ。気をつけろよな。」
「ごめんなさい。」
俺は飴玉を自分のポケットに入れると、洗濯機のスイッチを入れた。


[newpage]

時折吹いてくる強い風が、昨日の台風の名残を感じさせる。しかし余計なものは全て昨日の強風に吹き飛ばされたせいなのか空はどこまでも青く高い。
「夢みたいです。」
野分が突然呟いた。
「何がだ?」
並んで歩く野分の顔を見上げると穏やかに笑っている。
「こうして、ヒロさんと二人でゆっくりできるのも、ヒロさんの実家に行くのも、嬉しすぎて。」
あいかわらずのストレートな物言いに、意識していなかったことまで意識するはめになり、俺は急に落ち着かない気持ちになってきた。
「お前、大袈裟なんだよ。本を取りに行くだけだぞ。」
「それでも、ヒロさんと一緒に行けるなんて、夢みたいです。」
そんなことをいうなら俺だって、本当はちゃんと野分を実家に連れて行って、そして、、。。
俺は小さく息を吐いた。
道路に面した小さな公園が見えてきた。それを見た野分が突然足を止めた。
「どうした?」
「あ、いえ、何か、この公園に見覚えがあるような気がしたんですけど、、。」
古いブランコと滑り台のある公園は、割と実家の近くではあっても俺にとってはそれほど馴染みのある公園ではない。
「お前、この辺に来たことあるのか?」
「いえ、ないと思います、、。気のせいですかね。」
そう言って、周りを見回した後、また歩き出した。
実家の近くとはいっても、久しぶりに来たせいか、なんだか街並みも随分と変わってしまったような気がする。まるで知らない街に来たような気さえする。
そういえば、ずいぶん帰っていない。少しは顔を出したほうがいいんだろうか。
何も悪いことをしているわけではない、と思う気持ちと、少し後ろめたい気持ちとが、頭の中を行き来する。
忙しいから、仕方ないんだ。
自分の中で、そう結論づけていると、秋彦の家が見えてきた。
この辺だけは、ちっとも変わらない。
秋彦の家の敷地が馬鹿でかいせいで、変わりようがないのだろう。いつ見ても、庭と言うには広すぎて大きな公園にでも囲まれているような屋敷だ。
 突然現れた緑溢れる一画に驚いた野分が
「ヒロさん、ここは、、何ですか?」
ともっともな質問をしてきた。
俺が横目で言葉通りの豪邸を見ながら
「秋彦の実家だよ。」
と軽く言うと、野分は驚きを通り越して、あきれたような顔をした。
「宇佐見さんの家ですか?」
と言って、家なんか見えないくらいに緑に囲まれたまるで林のようなそこを見つめている。
秋彦の家だといっても、そこから門まではなかなかたどり着かない。延々と林のような敷地の境界が続いていく。そこをたどるように歩きながら
「俺の実家がすぐそこだから、一応お向かいさんってやつだ。」
俺は見えてきた実家を指差した。
「え?あれがヒロさんの家なんですか?」
「そうだけど、、。」
あいかわらずの古い日本家屋だ。最近こんな門構えは流行らないだろうに、変わらない。板塀を廻した先に屋根瓦の乗った門が待ち構えていた。
「まるでお屋敷ですね、、。」
野分の言い方が可笑しくて、笑いながら門の引き戸を開けた。
「単に古い家なんだよ。ほら、入れよ。」
「おじゃまします。」
なんとなく、門から入る野分を見て、俺なんかより、こいつの方がよっぽどこの家の雰囲気に合ってるなんて思ってしまった。
 和服を着てたら、さらにぴったりだろうな。
そう思いながら、玄関の鍵を開ける。
「ただいま。」
誰もいないと分かっていても、習慣でそう言いながら入っていく。
玄関の上がり框に上がって振り向くと、野分は玄関の中に突っ立っている。
「野分、本当に本だけ取って帰るけどいいか?俺の部屋に行くだけだから、お前リビングにでもいるか?」
そう聞くと、我に返って
「ヒロさんの部屋に一緒に行きます!」
慌てて靴を脱ぎはじめた。揃えて並べると
「おじゃまします。」
と言って俺の後ろからついてきた。
野分は廊下に飾っている絵を眺めたり、あちらこちらに視線を向けている。いつもより落ち着かない様子に驚いて見ていると、俺の視線に気づいたのか、すこし照れたような顔をした。
「すみません。俺、子どもの頃、友だちの家に遊びに行ったりとかしたことなくて。なんか、友だちの家に遊びに来たみたいで嬉しくなっちゃいました。」
首を少し傾げて照れたように笑っている。
そういえば、野分の子どもの頃の話はほとんど聞いたことがなかった。せいぜい家出をしたときに、知らない子に飴をもらったとかいう話を聞いた位か。
こいつは、一体どんな子どもだったのだろうか。
今からじゃ、想像できない、小さかった野分。

もし出会っていたら、俺たちは友だちになれていたんだろうか?

廊下を歩きながらそんなことを想像して、俺は一人で口元だけで笑った。
「ここだよ。」
自分の部屋の戸を開ける。使ってないせいでなんとなく空気が重いような気がする。窓を開けて風を入れた。
ここを出てから何年も経つのに、部屋は高校生の頃に使っていたままだ。
学習机も本棚も。
本棚が壁に並んでいるのは、マンションの部屋と変わらない。違うのは中身が子ども時代に読んでいたものがほとんどということ。そして、
「ヒロさん!このアルバム、見てもいいですか?」
そう、卒業アルバムやアルバムの類は、ここに、全部置いてあることだった。
「ダメだ。」
俺がアルバムを取り上げようとすると、野分はアルバムを持った手を上に高く上げて、逃げ出した。
「見たいです。ヒロさんの子どもの頃の写真。」
「何でそんなもん見たいんだよ!返せっ!」
俺が必死に取り返そうと手を伸ばすと、野分は当たり前のような顔で言った。
「好きだから。もっとヒロさんのことを知りたいです。」
その言葉に、追いかけていた俺は足がもつれて転びそうになった。
「ダメですか?」
しょんぼりとした顔をして、俺の許可を待っているけれど、どうせもう、何を言っても見るに決まってる。
「勝手にしろ。」
俺はそう言うと本棚の方を向いて、今日持って帰る本を探し始めた。
自分の作業をしながら、時々野分の様子をそっと覗き見ると、畳の床の上であぐらをかいて、卒業アルバムのページをめくっている。
そういえば、あいつ、自分のアルバム持ってたか?
俺は何年も一緒に暮らしているのに出会う前の野分を全く知らないことに気がついた。
なんとなく、今と変わってなかったんじゃないかと勝手に思い込んでいた。だけど、俺だって、野分に会う前は、、、いろいろなことがあった。野分にもあってもおかしくはない。
でも、
俺にとっては、今の野分がいてくれたら、それだけで。
自分の考えに驚いて、頭に血が上っていった。思わず頭をぶんぶんと横に振った。
こんなところにいるから、感傷的になっているんだ。
俺は持ち帰る本をまとめると急いで鞄に入れた。
「野分。もういいぞ。」
声をかけると、野分はアルバムを見て固まっている。
「どうした?」
どこか遠いところを見ているような瞳にギョッとして、思わず肩を揺すった。
「野分?」
もう一度肩を揺すって名前を呼ぶとぼんやりしていた目の焦点が合って、俺の覗きこんだ目と野分の視線がようやく合った。
「どうした?」
野分の見ていたのは俺の小学校の卒業アルバムで、ちょうど制服を着てクラスで写した集合写真のページが開かれている。
「これ、、ヒロさんですか?」
指差しているのは、制服を着て、カメラマンを睨みつけているとしか思えない俺。
「そうだけど、よくわかったな。」
「何才のヒロさんでも俺はわかります。」
冗談とも本気ともつかないようなことを言いながら、じっと写真を見ている。
「その写真がどうかしたのか?」
「いえ、ちょっと、何かを思い出しそうで、思い出せなくているんです。」
眉を顰めて記憶を辿っている様子の野分に、俺は首を傾げながら声をかけた。
「野分、そろそろ帰るぞ。もう昼だし。」
「はい。」
野分がまだ悩みながらもアルバムを閉じて元の位置に戻している間に、俺は部屋の窓を閉めた。またしばらくはここに来ることもないだろう。
学習机の上の棚にある古びた辞書が目に入り、思わず手にとった。
辞書はなんでも知っている、、か。
なにげなく開いて、ページをめくる。
我ながら使い込んでいる辞書は膨らんでしまっている。
たしかに俺はいろいろなことを辞書から教えてもらった。だけど、辞書には載っていないことが世の中にはたくさんあることも、あの頃の俺は学んだ。
開いたページの間から、この部屋を出る時に残していったいろいろな思い出が漂ってくるような気がしてきて、俺は辞書を閉じた。
机の上の筆立てに一本だけ入っている鉛筆をぼんやりと見た。
この部屋に入れたことのある友だちなんて、ほとんどいやしない。
ここでは、いつだって一人で本を読んでいるか、、二人で、本を読んでいるだけだった。
ひんやりとした辞書の表紙を撫でた。
「ヒロさん?」
いつの間にか俺の横にいた野分が俺の顔を覗きこんでいる。
いつものように、真っ黒な瞳で俺をみつめて。
こいつの日本語は、あいかわらず、いつだって言葉が足りなくて、何のことを言ってるんだか分からないようなメールをくれることもしょっちゅうだけど。
 だけど、飾りたてた言葉なんかじゃなくて、全身で俺に想いを真っ直ぐに伝えてくれる。
その手で、その瞳で、その表情で。
俺を呼ぶ声で。
「ヒロさん、どうかしましたか?」
今だって。
「野分。」
俺は手を伸ばして、そうっと野分の頬を触った。
「やっぱりお前はあったかいな。」
俺の手に自分の手を重ねながら野分が俺をみつめている。
「ヒロさん、、寒いんですか?」
「うん?そう、、かもな。」
そう言った途端、野分の顔が近づいてきて、唇が重ねられた。
最初は啄むように繰り返し触れていたけれど、お互いの舌を絡め始めたら、今度は口腔の奥深くまで味わいたくなってきて、俺は自分から野分の後頭部に手を回すと強く掻き抱いた。
静まり返った部屋の中で、俺たちの少し荒い息遣いだけが聞こえる。
息が苦しくなってきて、野分と俺の唇が離れると、野分が俺を抱きしめながら肩口に顔を埋めて唸るように言った。
「ヒロさんの部屋でこんなことしてるかと思うと、、俺、どうにかなりそうです。」
さっきより熱い手のひらの熱を感じながら俺も野分に自分の身体をあずけるように凭れかけた。
「俺だって、この部屋でこんなことしたの、、初めてだ。」
俺は野分の背中に手をまわすと、指先にも野分の体温を感じながらそう言った。
「嬉しいです。」
野分の俺を抱きしめる力が強くなった。
「野分。」
「はい。」
俺は壁に飾られている表彰状を見ながら言った。
「今度お前と一緒に来る時は、、俺もスーツ着て来るから、、、。だから。」
「はい。」
「悪ぃ。」
「俺、ちゃんと待ってますから。」
腕の力を抜いて少し身体を離すと、野分は俯きかけた俺の顔を持ち上げてきて、俺たちは二人だけの約束を刻むように、優しく、深く、そして温かいキスをした。

 
[newpage]

俺が門の鍵を閉めている間、野分は秋彦の家を眺めていた。
俺はふと、昔、潜り抜けて入りこんでいた塀の穴はまだ残っているんだろうか、と思った。記憶を辿ってみようと緑に囲まれた塀の一角に目をやったが、穴は塞がってしまったのか、思った所には見当たらない。
そうだよな。
例え、まだそこに潜り抜ける場所が残っていたとしても、もうそこには秋彦も俺もいない。秘密基地から見える空の色は昔と同じでも、今はもうお互いの安息の地は別にある。
それは、きっと、喜ぶべきことなのだろう。
あの頃、潜り抜けた穴は、あの頃の俺と秋彦にとって必要なものだったから、そこにあっただけで、今はもう、その役目を終えてなくなったのかもしれない。

「ヒロさん。」
いつまでも秋彦の家の方を眺めていた俺の腕を野分がそっと引いた。
「行こうか。」
野分と二人、来た道を通って駅に向かう。
「お昼ご飯、どうしますか?」
なんでもないような会話をしながら野分と地元を歩いているのは、なんだか不思議な気持ちがする。

途中の公園の前でまた野分の足が止まった。
「ヒロさん、少し寄っていってもいいですか?」
ブランコを見ながらそう言う野分は眉を寄せて、何かを考えているようだった。
「別にいいけど、、。」
昼どきのせいか、公園に人影はなく、子ども用のブランコが二つ、空っぽのまま風に揺れている。そこへ向かうと野分は大きな身体をむりやりブランコに押しこみ始めた。
「お前、何やってんだ?」
あきれながら近づいていくと、笑いながら
「あはは、さすがに、小さいですね。」
と言いながらも、なんとか乗ってブランコを漕ぎ出した。
「楽しいですよ。ヒロさんも乗ってみて下さい。」
「アホか。何でこの歳でブランコになんて。」
そう言うと野分は
「誰も見てませんよ。ヒロさんなら細いから楽に座れるし。なんなら立ち漕ぎしてみてもいいですよ。」
なんて言ってゆらゆらとブランコを揺らしている。
「大人で立ち漕ぎとかってやるわけねーだろ。」
そう言いながらも俺はブランコに座ってみた。
なんだろう。この感じ。
少し揺らしてみた。
涼しい風が頬を撫でていく。
野分と並んでブランコを揺らしていたら、まるで子どもに戻ったような気持ちになってきた。
少し強く漕いでみる。
足元がフワリと浮いて、身体ごと空にもっていかれそうな感覚に、一瞬びっくりして、それから、可笑しくなってきた。
俺はもう一度さらに強く漕いでみた。
空に向かっていく。
身体が飛んでいきそうなくらいに前へ前へと引っ張られる。
「ヒロさん。」
名前を呼ばれて我に返った。
ブランコに座ったままの野分が俺を見上げている。
いつもは俺の方が見上げている野分を上から見下ろすのも、大きな身体でブランコに無理矢理座っているのも、なんだか無性に可愛く思えた。
「どうした?」
「、、いえ、なんでもないです。」
そう言って笑った野分の腹がぐうーと鳴ったのが聞こえた。
「なんだ、お前、もう腹減ったのか?」
慌てた野分が手で腹を押さえている。
でかいくせに子どもみたいなやつだ。可笑しくなった俺は笑いながら漕いでいたブランコを止めた。
ポケットの中に、朝の飴玉が入っているのを思い出して手を入れて探ると、掴んで野分に渡した。
「やる。」
野分は馬鹿みたいにびっくりした顔で俺を見ている。
「ん?それ、お前の飴だぞ。遠慮すんな。」
「ヒロさん、、。」
俺は揺れていたブランコから、ポンと飛び降りた。
「帰るぞ。」
そう言って振り向くと、思った以上に近くに野分が立っていて
「、、、やっと会えた。」
そう言って俺を抱きしめた。
突然のことに頭が真っ白になった後、俺は野分を突き飛ばした。
「おま、、アホかっ!!」
拳を振り上げながら
「ここ、どこだと思って、、。」
そう言ったけれど、見上げた野分の顔があんまり嬉しそうで、俺は振り上げた手を降ろして、横を向いた。
「、、行くぞ。」
「はい。」
並んで歩きながら、野分がさっき言った言葉の意味を考えていた。
--------やっと会えた-------
なんだそれ?
時折強く吹く風の中を駅に向かって歩く。
野分の言った言葉を頭の中で反芻してみるけれど、なんのことかわからない。野分の顔を見上げると、嬉しそうに俺を見ていて、俺は慌てて目を逸らした。
歩いて来た親子連れの子どもが肩からかけているレッスンバッグがぶつかりそうになった。かわしながら見るともなく見ると、レッスンバッグには音符の模様がついていた。
懐かしい。ピアノ教室か。俺もいつも遅くまで通ってたな。
それこそ、暗くなるまで。
一度あんまり遅くなってこっぴどく叱られたっけ。あれは、どうしてあんなに遅くなったんだろう。
あれは、、あの時、たしか、、。
強い風が吹いて、俺は思わず目を閉じた。
夜の公園で、一緒にブランコに乗っていたのは、誰だったんだ?
-----------やっと会えた---------
隣を歩く野分の顔を見る。
あの時の、あの自転車のガキ、、なのか?
思わず足を止めて、野分を見た。野分も俺が止まったのに気がついて立ち止まっている。
そうなのか?
「ヒロさん。」
「なんだ。」
「ヒロさんは、運命って信じますか?」
俺の顔を見ながら、そう言う野分の顔は穏やかながらも、真剣で。
「運命?」
「俺は、信じてます。」
「ふーん。」
俺は前を向いたまま、また、歩き始めた。
「ヒロさんは?」
「知らねーよ。ほら、行くぞ。」
俺は駅に向かって、さらに早足で歩き出した。
「ヒロさんってば。」
追いかけてくる野分に合わせて立ち止まると、顔を見上げて言った。
「野分。俺はな、確かに同じやつに同じ場所で二度も飴をあげたけどな」
「えっ!?」
「二度も同じやつに人生について語りたくなんかねえんだよ。運命とか恥ずかしいこと言ってんじゃねえ。アホ。」
「ヒロさん。」
「分かったら、もう行くぞ。」
「はい。」
早足で歩き続ける。
また、冷たい風が吹いた。
「寒っ。」
思わずそう言うと、野分はニコニコしながら俺を見ている。
「なんだよ?」
「ヒロさん、とりあえず家に帰りますか?」
「昼飯、どうすんだよ?」
「俺、今、ヒロさんと二人でいたい気分なんです。ダメですか?」
さっきまで寒かったのに、野分の言葉に耳まで熱くなってきたのがわかった。
「別に、、お前は、、仕事明けで疲れてんだから、家で休んだほうがいいに決まってる。」
「じゃあ、何か買って帰りますか。」
「好きにしろ。」
「はい。」

秋は好きだ。

高く澄んだ青い空を見上げながらそう思う。
少し寒いくらいが好きだなんて思うのは、きっと野分の温かさを感じたいからで。そんなことを思う自分も、かなり馬鹿なんだと思うけれど。
コイツの体温なしでは俺はもう生きてはいけないだろうから。
もし、俺たちが出会うことが、決められていたのだとしたのなら。そして、それを野分が運命と呼びたいなら、呼べばいい。
俺はきっと何度でも野分と一緒に生きていくことを選ぶ。

それが、運命であろうとなかろうと。


 

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