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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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忍ぶれど  ③

野分が働き始めました。



「手際が良くて助かるよ」
 店頭に置くミニブーケを作っていると、店長さんが嬉しい言葉をかけてくれた。
 草間園にいたころから器用だとは言われていたし、何かを作ったりすることは嫌いではなかったけれど、宇佐見家で専門的に働いている人に色々な仕事を教えてもらったことは俺にとって貴重な財産だとしみじみ思った。

 宇佐見家の中での研修期間を終えた俺は、いよいよ忍者としての仕事を始めることとなった。
最初に宇佐見さんから「息子専属」と聞いて、てっきり相手は小さな男の子だと思っていた。けれども実際には俺より四つも歳上で、T大の法学部に通っている人だった。大学入学と同時に家を出て一人で暮らしているという。渡された写真の顔は驚くほど整った顔をしていた。さらには高校生の時に小説家としてデビューしているという。まるで芸能人のような経歴と生まれの良さ。子どもの頃から四六時中俺のような忍者が何人もついて守られているのは当然だと思った。
 宇佐見家の忍者は基本的には忍者であることを隠し、宇佐見家とは関係のない人として宇佐見家の人々の生活圏内で暮らす。ボディガードのように一日中横について歩く黒服の人たちもいるらしいけれど、それとは別に、本人には知られないようにその生活圏内に何人もの忍者が点在することで一人ひとりを見守るシステムが組まれている。特定の人がつきっきりになることがなく、目立たずに守ることができるというメリットがある。しかし、そのためには周りの人にはもちろん、守っている相手にも自分が忍者だとは気づかれないように自然な形で暮らさなければならない。
 俺の忍者としての仕事は『息子がたまに行くカフェの向かいにある花屋でのバイト』だった。つまり俺は普通に花屋で働いていなければならない。そして彼が近くに来た時にはさりげなくその動向を見守る。何か変わったことがあってもなくても定期的に屋敷に報告書を送る。
 他人の生活を覗き見する気がして、少し気が咎めたけれど、24時間張り付くわけでもなく、近くに来た時だけ目を配るのだからと割り切ることにした。
 そうして見守り始めた息子さん「宇佐見秋彦」という人は、資料から想像していたよりももっとずっと静かで、そして孤独な人だった。
 彼はいつも一人だった。
 花屋の店先で鉢植えに水をやりながら向かいのカフェの中にいる宇佐見さんへと視線をやる。
 窓際の席に座った彼は本を手に、今日も一人で静かにコーヒーを飲んでいる。
「野分、それが終わったらコーヒー頼む」
「わかりました」
 水やりを終わらせ、ポットを手にカフェへと向かう。
「いらっしゃいませ」
「コーヒーをお願いします」
顔馴染みになった店員さんにポットを渡し、コーヒーを待ちながらさりげなく宇佐見さんの方をうかがい、彼が飲んでいるものとテーブルの上に置いてある本の題名を確かめた。
 周りの席では何人もの人が宇佐見さんに熱い視線を注いでいたが、悪意のようなものは感じられない。単に目を奪われているといった様子だ。
 華があるって、こういう人のことをいうんだろうか。
 不審な人物がいないか警戒しつつ、そんな他愛もないことを考えていると彼が携帯電話を手に立ち上がった。
「……きか、ちょうどよかった。例の本が手に入ったんだ」
 通話をしながら俺のすぐ横を通っていく彼の声はとても低く、それでいてどこか優しく響いた。
 電話の相手は友達だろうか。本を手にカフェを出て行く顔がいつもより明るくみえる。彼にも心を許せる人がいるなら、それは嬉しいことだ。
「フラワーアートさん、お待たせしました」
「ありがとうございます」
コーヒーポットを受け取って店へと戻りながら、今日の報告書へ書く内容を忘れないように反芻した。

○月○日
友人らしき人より電話連絡あり。
購入書籍は『パンダヒッチハイクガイド』
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