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frown

当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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春の嵐

寒かったんで、ただ、イチャコラさせたかった……。ちょっと甘すぎ注意です。
ソファーの端が微かに沈み、ふわりと空気が温かくなる。
読んでいた本から目を上げなくてもわかる。
この左側だけが熱くなるような感覚。
ーー別に見られるのが嫌なわけではないけれど。
文字を追いながらも、野分の黒い瞳が自分に向いているのが感じられて落ち着かない気持ちになる。
ページをめくる音が、やけに大きく聞こえる。
「何?」
本に目を落としたまま問いかけると、返事の代わりに、耳元に手が伸びてきた。
髪の毛の先に野分の指が当たる。
大きなその手は見た目にそぐわないような繊細な動きで、毛先に触れる。
ただただ、そぅっと、髪の毛を弄ぶように触る。
それだけなのに、その微かな刺激を、そして温度を毛先から拾い上げた俺の皮膚の表面はざわりと震える。左肩が意思とは関係なくピクリと小さく上がった。
野分は、さらさらするすると、逃げるように滑り落ちていく髪の毛の手触りを楽しむように、いつまでも触っている。
栞を挟んで本を閉じるとテーブルの上に置いた。
「野分」
「はい」
「気が散って、読めねぇって」
「気にしないで下さい」
笑顔でそんなことを言う野分に、俺は仕返しとばかりに手を伸ばした。
「お前は平気なのかよ」
真っ黒なちょっと硬めの髪の毛と、それに隠された耳に触れる。
少し冷えた指先に野分の温かな体温が伝わってきた。
俺の指の動きとともに、モゾモゾと野分が体を動かす。
「くすぐったいです」
「だろ?」
そう言いながら、わざと野分の耳朶をぎゅっと強く指で掴んだ。
「ヒロさん、痛いです」
「読書を邪魔したからおしおきだ」
そう言いながら、指先に伝わる感触や温度を楽しんでいる自分がいて、
こいつは耳まであったけぇな。
そんなことを思いながら耳朶を指で弄んでいると、ゴロンと膝の上に頭が乗っかった。
「……重い」
「少しだけ」
珍しく甘えるようなことを言ってきた野分の頭を見下ろす。
十日ぶり、か?
一緒に住んでいるはずなのに。
もはや互いの勤務時間が合う合わない以前の問題だった。
野分にはどう考えても休みが少ない。
相当疲れてるよな。
普段あまり見ることのない野分の旋毛に手を乗せると、かき混ぜるように髪の毛に指を差し込んだ。
ぼんやりと髪の毛の感触を楽しむように触りながら、ふと、思いついて髪の毛をかきわけて耳を出してみる。
そうして、ムニムニと耳を指で触って遊んでいるうちに、言っていた。
「野分、耳かきしてやろうか?」
「え?」
なんとなく口から出ただけの、ほんの気まぐれめいた俺の言葉に野分が目を丸くして下から見上げてきた。
「本当ですか?」
予想外に嬉しそうな表情を向けられて、動揺した俺は、自分で言っておいて、思わず腰が引けた。
「あ、いや、その、」
「嬉しいです」
なんだか物凄く恥ずかしくなってきたけれど、もう、引くに引けないほどに野分が喜んでいる。
「じ、じゃあ、お前が用意しろよ」
そう言うやいなや立ち上がった野分がパンダのついた耳かきとティッシュを取ってきた。
「お願いします」
そう言って、また、俺の膝の上にころりと頭を乗せた。
俺はもう一度、野分の耳の周りの髪の毛をくいっとかきあげた。
「お前、髪伸びたな」
「切りに行きたいんですけど、時間がなくて」
「そろそろなんとかしねぇと、子どもたちに嫌われるんじゃねぇのか」
「ヒロさんに嫌われなければいいです」
「アホか。俺は別に・・」
余計なことを言いそうになって、慌てて口を閉じると耳を軽く引っ張った。
「ヒロさん、お手柔らかにお願いします」
「だったら、変なこと言うんじゃねぇ」
「はい」
野分の頭がゆっくりと膝に沈みこんだ。
耳の形に沿ってゆっくり耳かきを動かす。
リビングに暖かな空気が満ちていく。
そういえば子どもの頃は、こうして母親に耳かきをしてもらっていた。
野分は、どうだったんだろうか。
小さな野分を想像したら、なんだか膝の上にいるデカイ野分も可愛く見えてきた。
たまにはこういうのも悪くないかもしれない。
真剣に耳かきを動かしていると膝に野分の声が響いた。
「気持ちいいです」
日の当たるリビングで、膝の上から伝わる野分の頭の重みと体温を心地よく思っているのは俺のほうだ。
野分と暮らして何年だろう。こんなに穏やかに過ぎる時間は珍しい。
お互いに忙しすぎるのかもな。
「よし。反対の耳」
フッと耳に軽く息を吹きかけて、出来栄えを確認した俺がそう言うと、身体を反転させた野分の顔が俺の方を向いた。
耳かきを動かそうとして、手が止まった。
野分の腕が俺の腰に巻きついている。
「なあ、それじゃやりにくい」
ペシペシと巻きついている腕を叩く。
「離れろって」
「ヒロさん」
巻きついた腕の力が強くなり、野分の顔が俺の腹に押しつけるような形で密着してきた。
「んだよ、これじゃできねぇって」
「すみません。ヒロさんが一生懸命に耳かきしてくれているからずっと我慢してたんですけど」
ひょっとして痛かったか?
「悪ぃ、下手くそだったか?」
他人にやってやるなんて初めてだったから、力加減が分かってなかったんだろうか。
「違います。すごく気持ちよかったです」
「じゃあ、何」
「気持ちよすぎです」
腰に回っていた腕に力がこめられた、と思った瞬間、視界がぐるりと回った。
ソファーに座っていた俺はあっという間に仰向けにされていて、野分の顔が上から見下ろしている。
その瞳からみえる光に俺の頭より先に身体の奥が勝手に反応する。
シャツの裾から野分の大きな温かい手が入りこんできた。
背骨から肩甲骨へと這わされていくその手の感触に、背中が、肩が、腕が震える。
「野分、何して・・」
押し返そうとした手を取られて指が絡められる。
手から離れて床に転がったパンダの耳かきがこっちを見ている。
「10日分ヒロさんを下さい」
アホか
「んなことされたら俺がもたねぇ、ッん、」
唇が塞がれ、抗議の言葉と舌が絡めとられる。
二人分の重みを受け止めかねて、ぎしぎしとソファーの脚が悲鳴をあげた。
さっきまでの穏やかな空気が一転して、リビングに熱を帯びた空気が流れ出す。
やっぱりこいつは、野分は、名前の通りの台風だ。
何年たっても変わりはしない。
巻きこまれて、煽られて、乱される。
そして、俺はそれを望んでいる自分を知っている。
「野分」
俺は野分の黒い髪の毛を引き寄せた。
会えなかった分を埋めるだけ寄こせなんて、俺は絶対言わないけれど、こいつにはきっと伝わっている。
重ねた唇から絡めた舌から繋いだ手から、きっと伝わってしまっている。
「野分」
だけど、いつもいつも言ってるだろうが。
真昼間のリビングで、しかも狭いソファーの上でそういうことを始めるんじゃねぇ。
「野分、やるならベッドで」
お前に巻きこまれる俺のささやかな希望くらい聞けよ。
「はい。後からちゃんとベッドに行きます」
結局、聞いてねぇし。
・・・まあいいか。
どうせお前はそういうやつだ。
あったかくて、それでいて激しくて。
「・・好きにしろ」
言っとくけど、お前になら何をされてもいいなんて、言ってるわけじゃねぇからな。
窓の外には冷たい風が吹いている春とは名ばかりの、寒い日だから。
今日は特別に許してやる。
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