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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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春疾風

のわヒロのお花見

 2015.4.5



『今から帰ります』
そのメールが届いたのは、ちょうど上條が大学を出ようとしていた時だった。
一瞬悩んだ後、返信をした上條は、目的の場所へと向かって歩き出した。

 

『今から帰ります』
そうメールを送って歩き出した途端、慌ただしい音が聞こえてきた。
聞きなれたストレッチャーの音。指示を出す声。それに混じって、小さな子どもの泣き声が複数、聞こえてくる。
野分は振り返ると、今来た廊下を引き返していった。

◇◇◇◇◇

上條が野分との待ち合わせに指定した公園は、住宅街にあって、今の季節だけ僅かながら桜の木がライトアップされている。
このところの陽気に一気に咲き始めた桜は、満開を通り越して、もう緑の葉がちらほらと出始めている。
溢れんばかりに咲き誇る桜は薄桃色というよりは白に近い。
上條は、夜の空に仄白く浮かび上がる桜を見上げた。
花びらの中にある静けさは、夜の空に縁取られると、妖しく光り胸の奥をざわつかせる。
風が吹くたびに、満開の花びらははらはらと舞う。
今、強い風が吹いたなら、今年の桜は終わってしまいそうで、思わず手を握りしめた。
野分、遅いな
場所が場所なだけに、この時間はほとんど人も通らない。公園内の数少ない灯りの下に立ってはいるものの、桜をライトアップしている臨時の明かりが消えたなら花見どころじゃないくらいに暗くなってしまいそうで、気が気じゃなかった。
ヤバイ。もうすぐライトアップの時間が終わる。
腕時計を見ながら、諦めて帰ろうかもう少し待とうかと悩み始めた上條は、目の前に人が立った気配に顔を上げた。
「遅かっ、」
野分かと思って見上げた先にいたのは、コートを着た見知らぬ男だった。
男は上條の顔を覗きこみ、話しかけてきた。
「 どう?」
「…え?」
その表情と口調から、誰か相手を探していると勘違いされたことに気づいた上條の頭にカッと血がのぼった。
「そんなんじゃねぇ」
この歳になってそんな目に合う自分にも腹を立てて、立ち去ろうとした上條の腕に縋るように男の手がかかった。
「だって君、ずっと一人で立っていたじゃない」
「離せよ。別に俺は」
俺だって、好きで一人で立っていた訳じゃない
こんな男に自分がいったいどんな風に見えていたのかと思ったら、情けなさに目の奥が熱くなった。俯いて前髪の中に顔を隠しながら、男の腕を振り払う。
「どうせ一人ならいいだろ?」
なおもしつこく言い募ってくる男を無視して歩き出すとガシャン、と何かが倒れる音と聞き慣れた声がした。
「ヒロさんっ!」
ゆっくりと顔を向ける。
暗い公園の中を、夜の空よりも真っ黒な髪の背の高い男が走ってくるのが見えた。
ほら見ろ、俺は一人じゃない。
「・・遅ぇんだよバカ」
[newpage]
零れ落ちんばかりに咲き乱れている桜の花の下へと二人で歩いていく。
「間に合ってよかったな」
野分の顔を見ると、唇を固く結んで俯いている。
「…野分?」
「遅くなってすみません」
「仕事だったんだろ?気にすんな」
「でも、俺が待たせたから、あんな男に」
「それはもういいって。せっかく来たんだから、俺の顔じゃなくて桜を見ろよ」
その言葉に野分もようやく桜の木を見上げる。
明かりに照らされた満開の桜の花は強くなってきた風に揺らされて、次から次へと花びらを落としている。
桜の木を見上げながらも野分の視線は
落ちてくる花びらに子どものように手のひらを広げている上條の姿を追っていた。
「綺麗です」
野分が桜と上條に感嘆の声をあげた。
「本当だな」
そう言って上條もまた桜の木を見上げた。
一際強い風が吹き、激しく揺れた桜の枝から吹雪のように白い花びらが降ってきた。
「うわっ、」
風から守ろうと咄嗟に手を顔の前に出した野分は、その指の間から見えた光景に思わず息をのんだ。
茶色のコートを着て佇む上條の周りを桜の花びらが舞い上がっている。
「ヒロさん…」
言いようのない不安に駆られて上條に手を伸ばした瞬間、ライトアップが終了し、あたりに暗闇が降りた。
花びらの中に溶け込んでいくように上條の姿がぼやけていく。
「ヒロさんっ」
指先に触れた上條の手を握りしめて、ぐいっと傍に引き寄せた。
「うわっ」
驚いた声とともにふわりと体温を感じて、野分は大きく息をついた。
「お前、急になに?」
「暗いから危ないかと思って」
本当は、どこかへ行ってしまうんじゃないかと思った
野分は自分の心臓の音がうるさいほどに響き渡っているのを感じていた。
明かりの少なくなった夜の公園で、仄かに妖しく光る桜の花のようにぼんやりと白く浮かび上がる顔を見つめる。
口にしてしまったら、本当に上條が消えてしまいそうな気がして、野分は繋いだ手に力を入れた。
また強い風が吹き、花びらが舞い落ちる。
「野分」
桜の木を見上げていた上條の視線が野分の方へと向いた。
「野分、俺はお前を置いて行ったりしねぇ」
「ヒロさん」
「だから心配するな」
強い風が吹き、桜の花びらが雪のように二人に降ってくる。
「はい」
嬉しそうな顔をして、握ってくる野分の手から伝わる熱を感じながら、上條もそっと握り返した。
「ヒロさん?」
いつもと違って素直に手を繋いでいる上條に驚いて思わず見ると、真っ赤になって公園の出入口に倒れたままの自転車をを指差した。
「そ、そこの自転車のとこまでだからな」
「え、そこまでなんですか?」
「当たり前だ。自転車どうするつもりなんだよ」
「こんなことなら歩いてくればよかったです」
「バカなこと言ってんじゃねぇよ」

僅かな距離を桜を見ながらゆっくりと歩いていく。
今年も一緒に桜の花を見ることができた幸せを噛みしめながら。

おわり

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