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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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秋の風

M大学文学部国文学科のあの研究室です
宮城教授のとある一日

2015.9.24



高く澄んだ空と秋の雲に、暑かった夏がようやく終わったことを感じて目を細める。
爽やかな風が開け放った窓から入りこみ、積み上げたままのプリントがペラリとめくれた。
「あかあかと日はつれなくも秋の風、かぁ」
綴じなければならないその資料の山を横目に芭蕉の句を口ずさみ、宮城は大きく一つ伸びをした。
コンコンコン
控えめなノックの音が研究室の中に響く。
「はいはーい」
文学部教授とは思えないような軽い返事を投げかけると、そっとドアが開いた。
「すみません。上條先生はいらっしゃいますか?」
聞き覚えのある声とその顔に宮城は眉を上げた。
「あー上條なら講義中だけど」
「そうですか」
「何か用?」
「あの、これを渡してもらってもいいですか?」
大学名が印刷された茶色の封筒を差し出した姿は黒いパーカーにジーンズという大学生のような服装で、初めて会ったときからあまり変わってない。
あれから何年たったかな
珍しく研究室にまで来たことにはドキリとさせられたが、落ち着いた様子からして、どうやら上條とはうまくいっているらしい、と宮城は胸をなでおろした。
上條が悩むとろくな事にならない
手を出して封筒を受け取りながら宮城は黒髪の男を見上げた。
野分、という珍しい名前を持つこの青年は宮城にとっては忘れがたい思い出とセットになっていた。
「あーそうだ、よかったらコーヒーでも」
飲んでくか?と言いかけた言葉は急に強く吹きこんだ風とともに消えた。
積んでいたプリントがさらさらと床に舞い落ちる。
「うわわわわわ」
慌てて拾い集め始めた宮城を見て、野分も手伝い始めた。
「悪いなあ」
「いえ、宮城教授にはいつもお世話になってますから」
「へ?」
きょとんとした顔になった宮城に野分がにっこりと微笑みかけた。
「うちのヒロさんが、いつもお世話になってますから」
誰が見ても好青年としか思えないであろう笑顔の中に感じた迫力に、あの雨の夜に研究室で起きたことを思い出して宮城はそっと喉を抑えた。
「あの、宮城教授」
「はい?」
「先に窓を閉めた方がいいと思うんですが・・・」
「あっ」
机の上のプリントは次から次へと風に乗って床に落ち始めている。
慌てて立ち上がった宮城の肩が床に積んでいた本に当たった。
「うわっ」
崩れた本と一緒に宮城が床にしりもちをついた。床につこうとした手がまた別の山に当たりさらに本が崩れ落ちていく。
あっという間に雪崩を起こした本と舞い上がった埃に、宮城の姿はかくれてしまった。
「いたたたた」
ようやくおさまった埃から頭をさすって表れた宮城に、見かねた野分が手を差し出した。
「大丈夫ですか?」
「ああ、スマン」
助け出されて本の山から立ち上がった宮城は、自分を支える野分の腕をまじまじと見た。
「草間君はたしか小児科、だったよな?」
「はい、そうですけど」
「ずいぶんいい身体してるなぁ」
手を伸ばして腕をペシペシと触った宮城の後ろから声が聞こえてきた。
「おいおっさん、なにしてんだよ」
棘のある声に宮城は肩を跳ね上げた。
恐る恐る振り向いたその先にいたのは、思いっきり不機嫌な顔をした忍だった。
「忍、なにしてんだ?」
宮城はやや声を裏返らせつつ、そっと野分から離れた。
「それはこっちのセリフだよ」
そう言ってズカズカ入ってきた忍は野分を見上げるように睨みつけた。
「こんにちは」
不思議そうな顔で二人のやりとりを見ていた野分が頭を下げた。
「どうも」
今にも何か言いだしそうな忍の様子に、宮城は慌てて間に入った。
「あー草間君、悪かったな。さっきの封筒はたしかに上條に渡しておくから」
「お願いします」
空気を読んだらしい野分は拾い集めたプリントを宮城に渡して研究室から出て行こうとした。
その時、ドアが開いた。
「ヒロさん!」
「えっ?お前なにしてんだ?」
眼鏡をかけて目をバチパチと瞬いた上條の顔を見た野分は蕩けるような笑顔になった。
「忘れ物を届けに」
「忘れ物?」
「封筒、玄関に置き忘れてましたよ」
首を傾げている上條に宮城が声をかけた。
「上條これこれ」
「あっ」
宮城から封筒を受け取った上條が中身を確かめて、肩を下げた。
「助かった。わざわざ悪かったな」
「いえ、ちょうど買い物にも行こうと思ってたので」
「お前、ちゃんと寝とけよ」
「大丈夫です。ヒロさんは大丈夫ですか?」
ここがどこなのか忘れたように二人の世界に入りかけている上條に宮城が楽しそうに声をかけた。
「なーんだ上條、やっぱりアレは昨夜の夜更かしのせいかぁ」
「アレ?」
「首に痕なんかつけちゃってさぁ」
「変なこと言わないで下さいよ」
真っ赤になった上條の顔を嬉しそうに眺めた宮城に向かって野分が詰め寄った。
「宮城教授」
「ん?」
「見たんですか?」
「あー、見たというか、見えたというか」
「いつ見たんですか?」
「いつって、朝の挨拶の時に・・」
答えながら宮城は自分が何か踏んではいけないものを踏んだことに気がついた。
一人で赤くなってる上條はともかく、野分からは明らかに穏やかじゃない空気が伝わってきている。
「俺は普通にしてたら見えないとこにしかつけないんですけど」
「・・・え?」
「ヒロさんのどこを見たんですか?」
「どこって、あれ?どこだったかなぁ」
はははは、と乾いた笑い声を上げた宮城を野分の黒い瞳がジッとみつめた。
「宮城教授」
静かに間を詰められ、宮城が一歩後ろに下がった。
あの雨の日の出来事が宮城の頭をよぎった。
次の瞬間、野分の頭に厚い本が勢いよく振り下ろされた。
「痛っ」
頭を抱えた野分の後ろには頭から湯気を出した上條が立っていた。
「やめろ野分」
「だって」
「だってじゃねぇっ。そもそもお前勝手に痕なんかつけてんじゃねぇよ」
「だから見えないところに」
「そういう問題じゃねぇバカ」
上條の蹴りが野分の足に飛んだ。
「ヒロさん痛いです」
「うるせぇ!俺の職場で変な事すんな」
上條に押し出されるように野分が研究室から出て行くのを見て宮城はため息をついた。
どうやら命拾いしたようだ
ホッとして頭を掻きながら煙草を出した宮城の腕を忍が掴んだ。
「宮城」
「ん?」
「お前あいつと何してんだよ」
「何って別になにも」
野分を追い出して研究室に戻ってきた上條に、宮城は必死に目で助けを求めた。
しかし上條は綴じられもせずに風で乱れたプリントの山を見つけて叫び声をあげていた。
「あーっ!教授、これ絶対にやっておくって言ってたじゃないですか!」
「あ、あー、それなー、うん、やろうと思ってたんだけど、風が強くてなあ」
「風?」
上條の眉がつり上がった。
「風が強いと資料が綴じられないなんて話は聞いたことがないです」
「そうかあ?」
上條は床に落ちていたプリントを一枚拾って宮城に渡した。
「俺は手伝いませんからね」
「えーっ、上條冷たーい」
「いいかげんにして下さい」
そう言うとあいかわらず上條を睨みつけている忍のほうを見て上條は研究室を出て行った。
「忍、暇か?」
「・・・帰る」
荒々しくドアが閉められ、また、研究室には静けさが戻ってきた。
乱れたプリントの山を目の前にして宮城は深いため息をついた。
どうしたもんか
自分の読みかけの新聞まで床に落ちてしまっているのに気がついて手を伸ばし、いつものページを開く。
「うわっ、最下位か、どうりで」
星占いの欄を読んだ宮城の肩ががくりと落ちた。
もう一度ため息をついた後、煙草を咥えて火をつけると天井にむかって煙を吐き出し目を閉じた。
「よし、やるか」
灰皿に勢いよく煙草を押しつけ立ち上がる。
宮城は机の引き出しを開けて『あなたの今日のラッキーアイテム』とされていたハニワを必死に探し始めた。

 


おわり
 

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