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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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第57回M大学祭

*注意*
エメラルド春の号ネタバレばっちり含みます

あの、エメラルドの話から妄想追加です。
「上條、聞いたか?」
煙草に火をつけながら宮城は人で賑わっている窓の外を見ている。
「教授、煙草は自分の研究室で吸って下さい」
そう言いながらも弘樹は灰皿を出した。
「いいだろー煙草くらい。それより剣道のサークルの話、聞いたか?」
弘樹は自分のイスに座りながら首を振った。
「いえ、聞いてませんけど。何か問題でもあったんですか?」

今日、明日は、ここM大で学祭が行われている。

研究室から見えているのはいつもとは違う色とりどりの看板や、カラフルな衣装に身を包んだ学生、そして学祭を楽しむ一般の人たちの姿。
いつもは静かな弘樹の研究室にも、その賑わいは伝わってきている。
「なんでもそこは焼きソバ売ってたらしいんだけどな」
「まさか、食中毒とかじゃないですよね?」
思わず最悪の事態を想像した弘樹はパソコンの画面から顔を上げた。
「んにゃ、違う違う。単に午前中で売り切れたって話」
「それのどこが問題なんですか」
呆れた顔をして仕事を続け始めた弘樹に宮城は楽しそうに続ける。
「単に売り切れたのとは違うんだぞ」
「何が違うんですか?」
「スーツにサングラスをかけた謎の集団が来て一瞬で買い占めたんだと」
キーボードを打つ手が止まった。
「見てたゼミの子が言うには、まるで映画かドラマのようだったってさ」
俺も見たかったなぁ、と言って宮城は座っていたキャスター付きのイスをグルンと回した。
「あの、教授。それってひょっとして黒いスーツの集団ですか?」
「あったりー。何だ上條も知ってたのか?」
宮城はため息をついた自分の部下がみるみるうちに眉間の皺を深くしていくのを横目に煙草の煙をぷかりと吐いた。

◇◇◇◇◇

「昨日はびっくりしたな」
M大祭二日目。
テントの中では揃いのロゴを入れたTシャツを着た学生が忙しそうに動き回っている。
がっしりとした身体つきの男子学生ばかりの少しむさ苦しい中で、一人だけ小柄な男の子が一人手際よく鉄板に向かってヘラをふるっている。
「ごめん」
何やら気まずそうに謝りつつも、手を止めることはなく、鉄板からは肉と野菜とソースの焦げるいい香りが広がり始めていた。
「高橋が謝ることはないよ」
「うん。おかげで売り切れたんだしな」
そう言ってくれるメンバーはさすが剣道のサークルというべきなのか、さばさばとした体育会系なノリで笑い飛ばしてくれているが、当の本人である高橋美咲は肩を落としていた。

サークルのメンバーでもないのに友人の藤堂の頼みで焼きソバを作る手伝いに来ていた美咲だったが、美咲が作っていたせいで、昨日は売り物の焼きそばを全て冬彦に買い占められてしまった。
その後は連れ出されてしまって部員の食べる焼きソバを作ることもできなかったという落ちがつく始末。

俺のせいだよなぁ
鉄板の熱を顔に感じながら、美咲はため息をついた。
そりゃあ売り上げがいいにこしたことはないけれどさ
学祭で出す屋台で、一人の買い占めによる売り切れなんて、面白くも楽しくもない。仲間と協力しながら、一日かけて作ったり売ったりするのが学祭の楽しみだというのに。
あの人たちにはこういう感覚はきっと一生伝わりはしない
浮世離れした宇佐見家に振り回されることに慣れてはいるものの、迷惑をかけた友人の顔を見るたびに申し訳なさにいたたまれない気持ちになる。
今日こそは昨日の分まで頑張ろう
そう気持ちを切り替えて、美咲は作った焼きソバをパックに分け始めた。
それなのに
「その焼きソバあるだけ全部もらおうか」
聞き覚えのある声に美咲と藤堂はポカンと口を開けた。
なぜ?
黒いスーツにサングラスをつけた秋彦の姿は昨日の冬彦とそっくり同じだった。
この親子は仲が悪いくせして、こういうところがまさに血は争えないというやつだ。
今日こそははっきりとメーワクだと言おう
そう思って口を開いた美咲は聞こえてきた声に固まった。
「秋彦、てめぇ何してる」
鬼の上條こと、上條助教授が秋彦の後ろからグッと肩を掴んでいる。
「ん?弘樹か。よく俺だと分かったな」
どうやら秋彦のサングラスは本人にとっては変装のつもりだったらしい。
「昨日からなんなんだ。ウチの学生に迷惑かけんな」
「何を言ってるんだ。俺は迷惑なんてかけてないぞ。なぁ、美咲」
美咲はこれ幸いとばかりに、訴えた。
「か、買い占めは困ります」
「だとよ。おとなしく一つにしておけ」
そう弘樹に言われてもまだ不満そうにしていた秋彦だったが、
「お前に気づいて人も集まり始めてるぞ。騒がれたら鬱陶しいだろ」
そう小声で言われて、渋々二つだけ焼きソバを美咲から受け取った。
「ヒマなら研究室でコーヒーでも飲んでいくか?」
「仕方ないな。お前のとこの不味いコーヒーでもないよりはマシだ」
「うっせー。文句言うな」
袋に入れた焼きソバをぶら下げて歩き出した二人の後ろ姿に美咲は大きく息を吐いた。
よかった・・・
今日だけは鬼の上條が神様に見える
そう思いながら次の焼きソバの材料を藤堂から受け取った。
「なあ、高橋。お前の大家さんって上條と知り合いなのか?」
「幼なじみだって」
「ああ、だからかぁ」
「何が?」
肉を炒め終えた美咲が麺をのせた。
鉄板からはジュウッと油のはぜる音が立ち上がる。
「随分と仲が良いよな」
キャベツを入れたザルを持った美咲の手が止まった。
二人が立ち去った方を見る。
大勢の人で賑わうキャンパスの中でも、二人並んで歩いているのはすぐに見つけられた。
ウサギさん、ムダに目立つんだよな
背が高く、日本人離れした容姿はいつだって人目をひく。
そして、その隣を歩く上條の姿がよく似合っていることに美咲は初めて気がついた。
自然に話しながら歩く二人。
「おい、高橋!キャベツ入れないのか?」
ハッと我にかえった美咲は鉄板の上にキャベツをのせた。
ヘラを使って混ぜ返しながら、美咲は胸の奥がなんだかチクリと痛むのを感じていた。

◇◇◇◇◇

「弘樹も食うだろ?」
研究室のソファーに座った秋彦は焼きソバの入ったパックをテーブルの上に並べた。
「そうだな、早いけど昼にするか」
向かい合わせに座った弘樹は割り箸をパチンと割った。
まだ熱い焼きソバを口に入れる。
「学生が作った割には美味いな」
「当然だ。美咲が作って不味いわけがない」
「てめぇが自慢するな」
使い捨てのパックから焼きソバを食べている秋彦を珍しいものでも見るように眺めながら、弘樹は宮城から聞いた話をした。
「昨日も買い占めたんじゃねぇのかよ」
「それは俺じゃない」
「違うのか?」
弘樹の視線を避けるように秋彦は窓の外を見た。
てことは、兄貴か、誰か。どっちにしても宇佐見家絡みだろうな
弘樹は立ち上がると冷蔵庫から冷えた麦茶をグラスに注いだ。
「ほらよ」
グラスを受け取った秋彦の眉が寄せられる。
「コーヒーがよかった」
「後から淹れてやるって。つか、注文すんな」
文句を言いながら座った弘樹は、また焼きソバを食べ始めた。
「そーいや高橋って剣道すんのか?」
少し焦げたキャベツを噛みながら浮かんだ疑問を口にする。
「いや、しない」
「でもあそこは剣道のサークルだろ?」
「ああ、友人に頼まれて手伝ってるんだ。どうやらみんな料理はできないらしくてな」
「だったら焼きソバなんて売るなよ」
弘樹はそう言うと食べ終わったパックを輪ゴムで閉じた。
それにしても、と秋彦の顔を見る。
わざわざ変装してまで、様子を見にくるとはコイツも変わったもんだ。
そう考えながら、グラスの麦茶を一気に飲み干した。
二人分の空になったパックをゴミ箱に突っ込んで、マグカップにコーヒーを淹れた。
秋彦はいつもの窓辺でぼんやりと外を見ている。
ここで、こうしてキャンパスを眺めている秋彦の姿を見るのももうすぐ終わるかもしれないな。
高橋が無事に卒業できたなら、秋彦がここへ来ることも今より少なくなるだろう。
「ほらよ」
コーヒーを渡しながら横に立つ。
人嫌いなこいつが、一緒に住めるくらいに好きなやつができたことを素直に喜んでいたのに、最近は何だか少し様子がおかしい。
「秋彦、なんかあったのか?」
窓の外を向いたまま、弘樹がそう問いかけると、驚いたような顔をした。
「どうしてだ?」
「ん、なんとなくな」
コーヒーを啜る。
秋彦も黙ってコーヒーを口にした。
「弘樹」
「何?」
「もう少しまともなはコーヒーないのか」
「アホか、何度も言ってるだろーが。ここは喫茶店じゃねぇんだよ」
「そんなことは言われなくても知っている」
涼しい顔でそう言う秋彦に文句を言う気持ちも失せて、弘樹は大きなため息をついた。
お互いに、面倒な性格をしている。
こいつが悩みを打ち明けるはずがないのはわかっていた。

外を見ていた秋彦が何かに気がついて立ち上がった。
「帰るのか?」
「ああ、どうやら手伝いが終わったみたいだからな」
そう言った秋彦の柔らかい表情に弘樹もつられて外を見た。
走ってくる高橋の姿が見える。
「あ、そうだ。秋彦、さっきの焼きソバいくらだった?」
「ああ、あれはいい。俺の奢りだ」
「そうか?悪いな」
「その代わりまたコーヒーを飲みに来てやる」
「はぁ?」
「じゃあな弘樹」
「おいっ、ちょっと待て!秋彦!」
「ああ、甘いものは何も用意しなくていいから」
そう言って出口に向かった秋彦に上條の蹴りがとんだ。
「てめぇっ!二度と来んなっ!」


今年もまた無事にM大祭が終わろうとしていた。


おわり
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