frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
足りないもの
twitterでフォロワーさんのコンビニの話を聞いて、浮かんだのわヒロ
2016.4.17
2016.4.17
夜の風は、春だということを忘れさせるような冷たさですり抜けていった。
肩にかけた鞄を揺すり上げながらコートの肩を震わせる。昨夜の春の嵐のような雨のせいで、桜の花びらがはりついたアスファルトを踏みながら、やたらと明るい光に誘われるようにいつものコンビニへと足を向けた。
軽やかな音色と店員の機械的な挨拶に出迎えられながら入ると、真っ直ぐに弁当を並べているコーナーへと向かう。
新しい季節は賑やかな新入生や期待にキャンパスが満ちるいい季節だけれど、同時にあらゆる雑多な仕事をも運んでくる。
ここのところ、完全にオーバーワークだ。疲れている日はどうしても食事は手抜きになっていく。
何を食べてもそんなに変わらないと捻くれているわけでも、これがとにかく好きだというわけでもなく、同じ弁当を手にするのはもはや考えるのも面倒だからで。
「怠い」
誰に言うでもなく一人呟いて、栄養不足かもしれねぇと頭をかいた。
ちゃんと野菜も食べて下さいね
何かと言えばそんな風に心配して世話を焼きたがるくせに、めったにそばにいないやつに言われたことを思い出す。
食えばいいんだろ、食えば
いないやつに返事をしつつ見た隣の棚は空っぽで、ドレッシングだけが所在無く並んでいる。
しかたなく、そのまま弁当1つを手にレジへと向かい、無言でカウンターに置いた。
いつもと同じレジの電子音に混じったのは、いつもとは違うクスッという笑い声。
なんだ?
財布を出していた手をとめて、思わず目の前の店員の顔を見た。
「昨日もこれでしたよね?」
制服を着た店員が俺の顔を見て笑いかけている。
昨日も、と言われたならその通りだけれど、俺にしてみたら制服を着ている店員なんてみんな同じように見える。昨日もこの男がレジを打ったかどうかなんて覚えているわけもない。
曖昧な返事を返しながら代金を払う。
「いつものサラダは売り切れちゃってて、すみませんね」
「いえ、別に」
そんなに何を買っているかを覚えられるほど俺は同じ物を買っていたんだろうか。しかし店員だって1人ではないだろうし、どういうことなんだろう。
ぐるぐると疑問が浮かんでくる中、やけに愛想よく渡された袋を受け取る。何か言いたそうな店員から逃げるように振り向いた先にいたのは、今夜も会えないと思っていた男の姿だった。
「お前…なんでここに?」
「さすがに連勤続きすぎだと帰されました」
「そっか。あ、何か買うのか?」
「いえ、いいです。帰りましょう」
グイとレジ袋を持った手を引かれた。
「ありがとうございましたぁー」
間延びした店員の声を背に、野分に引きずられるかのように外へと出た。
「なんなんだよ。お前、買うものがあったんじゃねーの?」
歩道に出てからも俺の手を引いて歩き続けようとする大きな手を振りほどくと、ようやく野分は立ち止まった。
「別に買うものなんてないです」
「じゃあ何しにコンビニに」
「ヒロさんがいたから」
「あ。そ、そうなのか」
「ヒロさん」
咎めるような視線が俺のぶら下げているビニール袋に向けられている。
「なに…」
「いつも買ってるんですか」
「悪ぃかよ」
「コンビニのご飯だけじゃ栄養が偏ります」
「んなことねーって」
お前がいつも口うるさく言うから俺だってこれでも買う弁当を考えてるのに…。
握りしめたレジ袋がカサリと揺れた。
「それに、危ないです」
「弁当のどこが危ないってんだよ」
「一人暮らしだと思われます」
「は?」
「一人暮らしだと狙われやすいので」
「ちょっと待て」
「はい」
「狙われるって、誰がだ?」
「ヒロさんです」
真っ黒な瞳でじっと見下ろされる。
「狙われるって、空き巣とかか?」
「俺がいない間に盗まれるという意味なら空き巣かもしれません」
「お前、さっきから何の話をしてるんだ?」
「ヒロさんです」
ダメだ……。
話がいつにもまして見えてこねえ。
人は休みなく働き続けると、思考回路もおかしくなるのかもしれない。
「……帰るぞ」
とにかくコイツを寝かせてやろう。
自分から離した手を伸ばして野分の手を引いた。
「はい」
握り返してくる手の温かさに顔が熱くなっていく。夜の風が火照った頬を冷ましてくれたらいいのにと思いながら俯いて歩いた。
[newpage]
「先に風呂にするか?」
買った弁当をテーブルの上に置いて、洗面所で勢いよく手洗いをしている野分へと声をかけた。
白っぽい明かりの下でタオルを手に無言でこっちを見つめた視線の熱さに思わず一歩下がった。
「あ、飯にしたかったか?」
じりっと後ろへ下がった分だけ、野分が近づいてくる。
「いえ、食事はいいです」
「じゃあ…やっぱり風呂だな」
くるりと振り向いた背中から抱きしめられて、バスルームへと向かおうとした足が空回りした。
「なに?」
背中から伝わってくる熱に気づかないふりをしようとしているのに。
「ヒロさんがいいです」
何のためらいもなく、真っ直ぐな言葉をぶつけられて心臓がばくばくと跳ね上がる。
「お前、疲れてんだろ」
「はい」
「だから風呂に入って疲れを」
とればいい、と諭そうと振り向いた唇を吸われて、驚いて開いた隙間から一気に舌を奪われた。
唾液ごと吸い上げるような舌先の動きに二人分の吐息が絡み合う。
重なる唇から、絡まる舌先から、なぞりあげられる歯列から、次々に溢れ出す心地良さが背筋を通って身体を溶かし、頭の中もかすみはじめる。
腰に回された腕の熱や腰にあたる野分自身の熱が、服の上からもはっきりと伝わってきた。
目を閉じて、久しぶりに感じる体温に手を回し、しがみついて確かめる。
野分だ。
何度も甘噛みされ、吸われていた唇が解放されて、短く息つぎをする。
「あっ、」
吐息を吹き込まれながらべろりと耳殻を舐められて、喉の奥から甘ったるい声があがる。ぬるりと舌が這わされ、ぞくり、と耳から首すじへと痺れた。
堰を切ったように息だか熱だか分からないものが次々に溢れてはこぼれていく。
ズルズルと座りこんだ床の固さにここがどこなのか思い出し、荒い息の中で場所を変えろと訴えると、野分は嬉しそうに笑った。
ひんやりとしたシーツの上におろされて息を吐く。じっと見下ろす野分の視線が眩しすぎてぎゅっと目を閉じた。
ネクタイが解かれてシャツのボタンが一つずつ外されていく。曝け出された首へ触れてくる唇や舌や指先の感触を、そして熱を、受けとめる。触れてくる場所が増えるたびに乾いた身体の中からひたひたと温かなもので満たされていく。
「ヒロさん」
名前を呼びながら瞼に口づけられて、ゆっくりと目を開けた。
鼻先がぶつかるくらいに近くで見上げた顔はどこかいつもより荒んだ雰囲気が滲んでいる。
「大丈夫か?」
少し痩せた顔へと手を伸ばし、目の下のくまをそっと指でなぞる。
「今日ヒロさんに会えなかったら、きっと倒れてました」
「また寝不足なんだろ」
「違います」
頬へと滑らせた指が握りしめられる。
「ヒロさん不足です」
音を立ててキスをされた指はそのままシーツへと押さえつけられた。
すみません、と謝りながら胸の先を強く吸い上げられて身体がはねた。
いつもいつも俺が足りないって言うけれど、お前は知っているんだろうか。
俺だって
野分が足りなくて倒れそうになってるってことを。
欲しいだけ奪えばいい。
そうしたら俺もお前から奪うから。
足りないものは飯でも休息でもない。
「野分」
お前じゃなければだめなんだ
だから
ちゃんと責任とりやがれ
それくらい言わなくても察しろと、両足を野分の身体に絡めた。
肩にかけた鞄を揺すり上げながらコートの肩を震わせる。昨夜の春の嵐のような雨のせいで、桜の花びらがはりついたアスファルトを踏みながら、やたらと明るい光に誘われるようにいつものコンビニへと足を向けた。
軽やかな音色と店員の機械的な挨拶に出迎えられながら入ると、真っ直ぐに弁当を並べているコーナーへと向かう。
新しい季節は賑やかな新入生や期待にキャンパスが満ちるいい季節だけれど、同時にあらゆる雑多な仕事をも運んでくる。
ここのところ、完全にオーバーワークだ。疲れている日はどうしても食事は手抜きになっていく。
何を食べてもそんなに変わらないと捻くれているわけでも、これがとにかく好きだというわけでもなく、同じ弁当を手にするのはもはや考えるのも面倒だからで。
「怠い」
誰に言うでもなく一人呟いて、栄養不足かもしれねぇと頭をかいた。
ちゃんと野菜も食べて下さいね
何かと言えばそんな風に心配して世話を焼きたがるくせに、めったにそばにいないやつに言われたことを思い出す。
食えばいいんだろ、食えば
いないやつに返事をしつつ見た隣の棚は空っぽで、ドレッシングだけが所在無く並んでいる。
しかたなく、そのまま弁当1つを手にレジへと向かい、無言でカウンターに置いた。
いつもと同じレジの電子音に混じったのは、いつもとは違うクスッという笑い声。
なんだ?
財布を出していた手をとめて、思わず目の前の店員の顔を見た。
「昨日もこれでしたよね?」
制服を着た店員が俺の顔を見て笑いかけている。
昨日も、と言われたならその通りだけれど、俺にしてみたら制服を着ている店員なんてみんな同じように見える。昨日もこの男がレジを打ったかどうかなんて覚えているわけもない。
曖昧な返事を返しながら代金を払う。
「いつものサラダは売り切れちゃってて、すみませんね」
「いえ、別に」
そんなに何を買っているかを覚えられるほど俺は同じ物を買っていたんだろうか。しかし店員だって1人ではないだろうし、どういうことなんだろう。
ぐるぐると疑問が浮かんでくる中、やけに愛想よく渡された袋を受け取る。何か言いたそうな店員から逃げるように振り向いた先にいたのは、今夜も会えないと思っていた男の姿だった。
「お前…なんでここに?」
「さすがに連勤続きすぎだと帰されました」
「そっか。あ、何か買うのか?」
「いえ、いいです。帰りましょう」
グイとレジ袋を持った手を引かれた。
「ありがとうございましたぁー」
間延びした店員の声を背に、野分に引きずられるかのように外へと出た。
「なんなんだよ。お前、買うものがあったんじゃねーの?」
歩道に出てからも俺の手を引いて歩き続けようとする大きな手を振りほどくと、ようやく野分は立ち止まった。
「別に買うものなんてないです」
「じゃあ何しにコンビニに」
「ヒロさんがいたから」
「あ。そ、そうなのか」
「ヒロさん」
咎めるような視線が俺のぶら下げているビニール袋に向けられている。
「なに…」
「いつも買ってるんですか」
「悪ぃかよ」
「コンビニのご飯だけじゃ栄養が偏ります」
「んなことねーって」
お前がいつも口うるさく言うから俺だってこれでも買う弁当を考えてるのに…。
握りしめたレジ袋がカサリと揺れた。
「それに、危ないです」
「弁当のどこが危ないってんだよ」
「一人暮らしだと思われます」
「は?」
「一人暮らしだと狙われやすいので」
「ちょっと待て」
「はい」
「狙われるって、誰がだ?」
「ヒロさんです」
真っ黒な瞳でじっと見下ろされる。
「狙われるって、空き巣とかか?」
「俺がいない間に盗まれるという意味なら空き巣かもしれません」
「お前、さっきから何の話をしてるんだ?」
「ヒロさんです」
ダメだ……。
話がいつにもまして見えてこねえ。
人は休みなく働き続けると、思考回路もおかしくなるのかもしれない。
「……帰るぞ」
とにかくコイツを寝かせてやろう。
自分から離した手を伸ばして野分の手を引いた。
「はい」
握り返してくる手の温かさに顔が熱くなっていく。夜の風が火照った頬を冷ましてくれたらいいのにと思いながら俯いて歩いた。
[newpage]
「先に風呂にするか?」
買った弁当をテーブルの上に置いて、洗面所で勢いよく手洗いをしている野分へと声をかけた。
白っぽい明かりの下でタオルを手に無言でこっちを見つめた視線の熱さに思わず一歩下がった。
「あ、飯にしたかったか?」
じりっと後ろへ下がった分だけ、野分が近づいてくる。
「いえ、食事はいいです」
「じゃあ…やっぱり風呂だな」
くるりと振り向いた背中から抱きしめられて、バスルームへと向かおうとした足が空回りした。
「なに?」
背中から伝わってくる熱に気づかないふりをしようとしているのに。
「ヒロさんがいいです」
何のためらいもなく、真っ直ぐな言葉をぶつけられて心臓がばくばくと跳ね上がる。
「お前、疲れてんだろ」
「はい」
「だから風呂に入って疲れを」
とればいい、と諭そうと振り向いた唇を吸われて、驚いて開いた隙間から一気に舌を奪われた。
唾液ごと吸い上げるような舌先の動きに二人分の吐息が絡み合う。
重なる唇から、絡まる舌先から、なぞりあげられる歯列から、次々に溢れ出す心地良さが背筋を通って身体を溶かし、頭の中もかすみはじめる。
腰に回された腕の熱や腰にあたる野分自身の熱が、服の上からもはっきりと伝わってきた。
目を閉じて、久しぶりに感じる体温に手を回し、しがみついて確かめる。
野分だ。
何度も甘噛みされ、吸われていた唇が解放されて、短く息つぎをする。
「あっ、」
吐息を吹き込まれながらべろりと耳殻を舐められて、喉の奥から甘ったるい声があがる。ぬるりと舌が這わされ、ぞくり、と耳から首すじへと痺れた。
堰を切ったように息だか熱だか分からないものが次々に溢れてはこぼれていく。
ズルズルと座りこんだ床の固さにここがどこなのか思い出し、荒い息の中で場所を変えろと訴えると、野分は嬉しそうに笑った。
ひんやりとしたシーツの上におろされて息を吐く。じっと見下ろす野分の視線が眩しすぎてぎゅっと目を閉じた。
ネクタイが解かれてシャツのボタンが一つずつ外されていく。曝け出された首へ触れてくる唇や舌や指先の感触を、そして熱を、受けとめる。触れてくる場所が増えるたびに乾いた身体の中からひたひたと温かなもので満たされていく。
「ヒロさん」
名前を呼びながら瞼に口づけられて、ゆっくりと目を開けた。
鼻先がぶつかるくらいに近くで見上げた顔はどこかいつもより荒んだ雰囲気が滲んでいる。
「大丈夫か?」
少し痩せた顔へと手を伸ばし、目の下のくまをそっと指でなぞる。
「今日ヒロさんに会えなかったら、きっと倒れてました」
「また寝不足なんだろ」
「違います」
頬へと滑らせた指が握りしめられる。
「ヒロさん不足です」
音を立ててキスをされた指はそのままシーツへと押さえつけられた。
すみません、と謝りながら胸の先を強く吸い上げられて身体がはねた。
いつもいつも俺が足りないって言うけれど、お前は知っているんだろうか。
俺だって
野分が足りなくて倒れそうになってるってことを。
欲しいだけ奪えばいい。
そうしたら俺もお前から奪うから。
足りないものは飯でも休息でもない。
「野分」
お前じゃなければだめなんだ
だから
ちゃんと責任とりやがれ
それくらい言わなくても察しろと、両足を野分の身体に絡めた。
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さるり
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ヒロさん溺愛中
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