frown
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雨
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分1本勝負
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お題は「雨」です
「いつものファミレスの前で待ってるから」
弘樹の言葉に野分は声も出なかった。
そこは、あの雨の日に待ち合わせて以来、行かなくなった場所。
「あの、ヒロさん。別の店じゃダメですか?」
ようやく返事をした野分の顔を弘樹がジッと見る。
「久しぶりにあの店で食べたいから」
そう言った弘樹の言葉に、なお躊躇う野分に向かって怒ったような声が重なる。
「野分、いつまでも気にしてんじゃねぇ」
野分はようやく頷いた。
◇◇◇
駅の出口から飛び出そうとして、野分は立ち止まった。
いつの間にか雨が降り出している。
まるで、あの時と同じことを繰り返しているかのような感覚に背中にはイヤな汗が流れていく。
今日こそは、必ずヒロさんを待たせないはずだったのに
腕時計はもう待ち合わせの時間を指している。
大丈夫
あの時とは違う
気持ちもちゃんと繋がっているんだから
何度も自分にそう言い聞かせて、野分は雨の中へと駆け出していった。
荒い息の野分の目にようやく見覚えのあるファミレスのあかりが見えた。そして、その側には見覚えのない赤色灯が光っていた。
いつもとは違うざわめき。
ファミレスの前には人だかりが出来ていた。
野分は走っていた足を止め、ゆっくりと近寄っていった。
重なり合う色とりどりの傘の群。その奥に見えたのは店の前の植え込みのレンガにめりこむように停まっている乗用車と制服を着た警官の姿だった。
あの場所は
ぼんやりと見ている野分の後ろをけたたましい音を立てて救急車が走り去って行った。
「…何かあったんですか?」
自分の声がどこから出ているのかもわからないまま、野分は近くにいた人に尋ねた。
「なんか車が突っ込んだらしいです。たまたまそこにいた人がはねられて」
あの場所は
「けっこう血が出てましたよ。若い男の人みたいだったけど、大丈夫かな」
あの場所は
雨の中、車がめりこんでいる場所をもう一度見る
あの場所は
ふらふらと近づいた野分を警官が手で制した。
あの場所は
「野分っ!」
聞き逃すはずのない声に、びくりと野分の身体が揺れた。
「野分」
そう言って後ろから腕を引いた人の顔を見て、野分は膝から下の力が抜けそうになった。
「ヒロさん・・・」
ふらふらと近寄ってきた野分の腕を強く掴んだ弘樹は人混みの中を抜け出して歩き出した。
「お前、傘もささないで何してんだよ」
野次馬でごった返している店の前を離れて野分の手を離した弘樹は、濡れた姿を呆れたように見上げた。
真っ黒な髪の毛の先からぽたぽたと雫が落ちている。
「ヒロさん」
「なに?」
そう言った弘樹は野分の顔を濡らしているのが雨ではないことにようやく気がついた。
「野分、、どうした?」
「ヒロさん」
野分の腕が弘樹に伸びてきた。
「おい、、野分っ、離せって」
そうして、失わずにすんだその温もりを確かめるように強く抱きしめた。
雨はまるであの日のように降り続けていた。
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