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frown

当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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雨氷

私の住んでるところでもまさかの雪が降りました。
あんまり寒くてヒロさん書きたくなりました。
ヒロさんは大学院卒業後、M大勤務一年目。野分は大学生。俗に言う「空白の6年間」です。

1年ぶりに訪れた母校の構内は、行き交う学生の姿に僅かに流れた年月を感じさせるけれど、見えるキャンパスの風景自体は全く変わらない。
そのせいか、流れる川の中の石のように、自分一人だけ、時間の流れの真ん中に立ち止まっているような、おかしな気分におそわれていた。
ここに通っていたはずなのに、なぜだかあまり覚えていない。
いや、違う。
覚えていたくないことが、多すぎるだけなんだろう。
普通なら楽しいであろう学生時代を、あまり思い出したくもないものにしてしまったのは、全て自分の弱さだった。
頭を振って、図書館へと歩き始めた。
探していた本を見つけて目を通していると、髪の毛をつっと触れられた感覚があって、思わず顔を上げた。
知らない男が机を挟んで向かい合わせに座っている。
そいつが手を伸ばして俺の髪を触っているのに驚いて、反射的に座ったまま身体を後ろへと逃がした。
「なにしてんだ、あんた?」
思わず詰問調になった俺の態度にも怯むことなく、ニコニコと笑っている。
なんだこいつ?
関わりたくなかった俺は、席を変わろうと本を閉じた。
その手を突然握られた。
冷たい手の感触に思わず強く振り払った。
「ひどいな。上條くん。」
思いがけなく名前を呼ばれて、立ち上がったまま固まった。
「君が好きだって言ってくれたんだよ、俺の手。忘れたの?」
「、、、人違いです。」
本を持ってカウンターへと歩き出した。
貸し出しの手続きを終えて振り返ると、またその男が立っている。
「なんなんですか?」
「君と初めて会ったのもここだったし、また会えたのも何かの縁なんじゃない?」
「そんなもんねぇよ。」
睨みつけるとなぜだか嬉しそうな顔をした。
「その顔が見たかったんだよね。」
「てめぇ、いいかげんにしろよ。」
押しのけるようにして、男の横を通り抜けて図書館から外へと出た。
空調の整った館内から出た途端、身を切るような寒さに思わず身体が震えた。
情けねえ。
早足で歩く。
少し薄いコートで来たせいか身体の芯まで寒さが入り込んでくるようだったけれど、むしろそれを求めている自分がいた。
罰せられるべきだ。
この身体の奥の奥まで、凍てついてしまえばいい。
吐く息が白くなる。
鞄を持つ手の指がかじかんできた。
このまま。
このまま凍りついてしまえれば。
こんな思いをすることも、もうない。

寒い。

冷え切ったアパートのドアノブを引いた。
俯いていた視線の先には見慣れたスニーカーがあった。

野分、、、。

顔を上げると、寒い部屋で暖房もつけずに床に座ったまま眠っている野分がいた。
慌てて靴を脱いで部屋に入るとベッドから毛布をはがして野分の上にかけた。
「ん、、。」
黒くて長い睫毛が揺れて、ゆっくりと瞼が開いた。
大きな漆黒の瞳が俺を映す。
「ヒロさん。」
柔らかく笑うと俺に抱きついて、そのまま固まった。
「ヒロさん、、冷たい。」
そう言うともう一度強く抱きしめられた。
「、、お前は、あったかいな。」
野分に触れられると、いつも自分の冷たさに驚く。
俺はこんなに冷え切っていたのか。

溶ける日が来るとも思えないほどに凍りついた俺の身体を、お前は溶かしてくれるんだろうか。

俺にお前から温めてもらう価値なんてあるんだろうか。

わからない。

でも、今はお前の熱が欲しい。


「野分。」
俺は耳元で名前を呼ぶ。
想いを込めて。
好きという言葉は長い時間閉じ込めていたせいで、もう俺の中で凍りついてしまっているから。
ただひたすらに、名前を呼ぶ。

いつか、お前に言える日が来るんだろうか。


抱きしめる野分の腕に応えるように、俺は自分の腕を野分の首に絡めた。




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