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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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鬼の上條と恵方巻

節分の日の上條助教授です。

節分の日にTwitterで書いた140字に繋がるように書きました。
ので、オチはまんま、その140字を使ってます。

※小梅 縁さんが描かれた「鬼の上條と恵方巻」のイラストが素敵だったので、タイトルをお借りしました。
本当にありがとうございますm(_ _)m

2015.2.5



時計の針が終了の時刻をさす。
ぴんと張り詰めていた教室の空気が微かに緩んだ。
教壇に立つ上條助教授が手にしていた本を閉じて、低い声で告げる。
「じゃあ、今日はここまで。」
その途端、急激に空気が動き出した。
「ランチ行こうよー」
文学部で最も緊張するといわれている講義からの開放感と昼休みの始まりとで、あっという間に教室の中は騒々しくなっていく。
「先生、もう消してもいいですか?」
資料をまとめていると声がかけられた。
「ああ。いつも悪いな。」
そう言って上條が見上げた学生の顔色がどことなく冴えない。
「お前、ちゃんと飯食ってるか?」
上條がそう聞くと、少しだけ困ったような顔で黒板消しを動かしている。
「その顔は食ってねえな。」
「バイトが忙しくて。」
どこかで聞いたことのある言葉は他人事とは思えなかった。
「昼飯、奢ってやる。」
「え?!」
目を丸くしている学生にもう一度言う。
「いつも板書消してくれてるからお礼だ。学食でいいか?」
「はい!ありがとうございます。」
思ったよりも嬉しそうな顔をされて、上條は慌てて念を押す。
「学食だぞ?」
「先生とお昼食べられるなんて光栄です。」
「大袈裟なやつだな。ほら行くぞ。」
並んで歩きながら話を聞くと、この季節はバイト先でも体調不良で突然休む人が多いという。
「それで急に呼び出されるのが続いていたんです。」
苦笑いをしながらも、あまり怒ってもいない。
やっぱり似ている。
「あんまり無理するなよ。」
それは上條の偽りのない気持ちだった。

学食に入ると先に来ていたゼミの学生が驚いたように声をかけてきた。
「上條先生、珍しいですね。」
「は?俺だって学食くらい来るぞ。」
「それはそうですけど。」
その視線の先は隣に注がれている。
どうやら学生と連れ立っているのが珍しいらしい。
「先生、俺、日替わりを頼んでもいいですか?」
「日替わりなんかでいいのか?」
「はい。先生は何にしますか?」
「同じのでいい。」
「じゃあまとめて注文してきますね。」
お礼にと連れてきたのに、気づくと席まで取ってくれて、自分はただ座って運んでくれるのを待っている状態になっていた。
やっぱり気を遣わせてるよな。
そう思ったら、いつもより静かな学食の雰囲気さえも自分が来たせいのように思えて、なんとなく居心地が悪い。
天井の一角に鬼の人形がぶら下っているのが目に入った。
なんだあれは?
「先生、お待たせしました。」
器用に二つのトレーを運んで来る様に驚くと、笑いながら向かいに座った
「バイト、飲食店なんですよ。だから、つい動いちゃうんです。スミマセン。」
「ああ、そうなのか。」
食べようとして、上條は思わず手を止めた。
「なんだこれ?」
目の前のトレーにはご飯とおかずはなくて、太巻きが一本、皿にのっている。並んでるお椀はどうやらお吸い物のようだ。
「日替わりランチが恵方巻だったんです。」
「そうか、今日は節分だったな。」
それで周りが静かなのかとようやく思い当たる。
「どっちが恵方なんだ?」
「あの鬼の人形の方ですよ。」
学食も色々工夫するもんだ。
感心しながら見ると恵方巻は思ったよりちゃんとした具が入っている本格的な太巻きだった。
これは両手で持たないとダメだな。
上條が恵方巻を握って、体の向きを鬼の人形へと向けると、静かだった学食にザワザワとさざ波のような声が広がった。
恵方巻は見れば見るほどかじりつくにはデカイような気がしたけれど、そこは生来の負けず嫌いが顔を出してくる。
男たるもの、これ位の太巻きを食べ切れなくてどーするよ。
意を決して口を開けた。
しまった。
最初の一口でいきなり上條は後悔した。
ちょっと一口が多すぎた。
喉が詰まってしまいそうになって思わず眉を顰める。しかし、一旦噛んだものを口から出すわけにもいかず、やや涙目になりながらむりやりに咀嚼していく。
ようやく最初の一口分を飲み込んで、小さくため息をついた。
死ぬかと思った。
大袈裟でなく苦しかった上條は、目尻に浮かんだ涙を手の甲で拭いた。
もう少し、ゆっくり食べないとダメだな。
持っている恵方巻をじっと見る。
よし。
あまり時間もないし、さっさと食べてしまおう。
鬼の人形の方を見ながら、今度はゆっくりと食べてみる。
さっきより一口を少な目に食べるようにしたせいか、順調に食べ進めることができた。
やればできるじゃねぇか。俺がこんな恵方巻ごときに負けるわけがねぇんだ。
上條は、鬼の人形を睨みつけながら、必死に咀嚼していく。
あと一口だ、と油断した瞬間、中の具のマヨネーズが垂れそうになった。
うわ、ヤベ。
少し顔を上に向けて垂れないようにすると、むりやり口に押しこんだ。
勝ったな。
一人で無駄に達成感を感じながら、口の端についたマヨネーズを舌でペロリと舐めた。
お椀の吸い物に手を伸ばしながら、向かいを見ると、まだ恵方巻に手もつけずに上條の方をぼうっと見ている。
「どうした、食わないのか?」
「あ、いえ、あの、食べます。」
なんだか緊張している様子に、自分がずっといるのも、学生にとっては気疲れするかもと思った上條は立ち上がった。
「先生、もう行っちゃうんですか?」
「悪い。午後の準備もあるから。お前はゆっくり食べてろよ。」
「先生、、。」
トレーを持って歩き出しかけた上條は立ち止まった。
「ん?」
「今日はごちそうさまでした。」
「あ、いや、たいしたものじゃなくて悪かったな。」
「いえ、ありがとうございます。」
大袈裟なくらいにお礼を言われた上條は、自分が食堂を出た途端にそこかしこから大きなため息が聞こえたことを知る由もなかった。


そして、その日の夜。

「ただいまです。ヒロさん、恵方巻買ってきましたよ」
「それ昼も食った」
「え?!」
「いや、食うけど」
「どこで食べたんですか?」
「どこって、学食で」
「学食!よりによって学食で?」
「なんだよ悪ぃのかよ」
「そんなみんなの前で」
「?」


おわり

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