frown
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「初めてのエスコート」
- 2018/06/09 (Sat)
- エゴss |
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エゴお題交換会 にて、初めての○○
2018.6.9
2018.6.9
約束の場所は週末ということもあって待ち合わせらしき人であふれていた。
時計の針は約束の25分前を指している。
(また早く着いてしまった)
一緒に暮らしているやつとの待ち合わせなのにそわそわしてしまっている自分に呆れつつも頬を撫でるように流れる夕方の風はさらりと心地良い。こんな日は外で待つのも悪くはないとやや浮かれた気持ちのままに読みかけの本を取り出した。
表紙をめくった瞬間、スマホが震えた。
(もしかして都合が悪くなったんじゃ)
嫌な予感に心が冷えそうになる。しかしそれは画面に表示された『秋彦』の名前に消され、上條は本を片手に電話に出た。
「なんだよ」
「今夜の飯は決まったか?」
「はぁ?お前…大丈夫か?」
秋彦らしからぬ問いかけにどこかで頭でも打ったのかと心配になった。そもそも秋彦は自分自身の食事にさえ興味がない。そんな人間が、他人の飯を気遣うとは一体なんの冗談だ。
「実は、今夜食事するつもりで予約していた所に急に行けなくなってしまってな」
「どうせまた仕事が終わらなかったんだろ」
「まあそんなところだ」
「だからもっと計画的に仕事に取り組めって」
「書けんもんは書けん」
「おい」
「いや、そんなことより予約していた店に代わりに行ってもらえないかと思ってな」
「どこだよ」
思いがけない申し出だったが言われた場所は確かに断るのが惜しいような店だった。その上、今夜は野分と一緒に外食だし、渡りに船とはこのことかもしれない。
「わかった。二人で予約してんならちょうどいいし」
「念のため確認するが、草間くんと行くんだろうな」
「別に誰とでもいいだろ」
「いや、そこは誰とでもじゃダメだ」
「なんでだよ」
「ダメなものはダメだ」
「わかったよ。野分と行けばいいんだろ」
「頼んだぞ」
秋彦にしては珍しく念を押すような頼み方に何かひっかかるものを感じつつも、野分に美味いもんを食わせてやれるという喜びの前に些細な違和感に蓋をするように電話を切る。
「ヒロさん!」
タイミング良く野分が早足で歩いてくるのが見えて手をあげた。
「遅くなってすみません」
「俺も今来たとこだって」
学会帰りで黒いスーツを着ている野分は人混みの中でもやたら人目を引いている。
「お腹すきましたね」
「任せとけ。店は決めといた」
「楽しみです」
最近とみに生意気になってきた野分に、ここらでビシッと年上らしいところを見せてやろうと上條は張り切って歩き出した。
****
「着いたぞ」
「ここですか?」
長く続く歴史をそのまま映し出したような看板と趣きのある店構えに野分が目を丸くしている。
「俺、ふぐなんて初めてです」
「そっか」
以前、野分の仕事の都合で予約していた店に行けなくなる事が何度かあった。その度にひどく気にする野分を見るのがイヤで最近は予約が必要な店は避けていた。
「なんだか緊張しますね」
「大丈夫だっての」
いつも美味い料理を作ってくれる野分に、外でしか食えないものを食わせてやれるのは嬉しい。たまには秋彦も役に立つな、と心の中で感謝しつつ野分を促して門をくぐった。
「上條様ですね」
待っていた和服の女性に静かに迎え入れられて日本庭園を囲むように造られた廊下を渡っていく。
「こちらになります」
奥まった部屋の襖が開かれ、女性が下がっていく。二人きりになった途端、野分が大きなため息をついた。
「すごいですね」
「たしかにな」
最近流行りの薄っぺらい和室とは違う、昔ながらのどっしりとした床の間や襖を感動した様子で眺めていた野分を微笑ましく思いつつ鞄を置いた。
野分が俺の後ろを指差した。
「そっちにも部屋があるんですか?」
「ん?」
離れのような造りになっている部屋は二間続きになっているらしい。贅沢なことだが秋彦のことだから何も考えずに一番良い部屋をとったのかもしれない。
「開けてみてもいいですか」
子どもの様に好奇心丸出しで奥へと続く襖を開けた野分が「えっ」と呟いたまま固まっている。
「どうした?」
後ろから覗きこんだ俺もまた固まった。
「ヒロさん、これって」
続きの間には布団が二組敷かれ、枕元には赤い行灯の灯りが妖しく揺らめいている。
「な、なんだこれは…」
「時代劇みたいです…」
見計らったようにポケットの中の携帯が震えた。
『泊まっても大丈夫だ』
秋彦からのメッセージに呆然とする。
「ヒロさん?」
「先ずはふぐを食ってからだ」
失礼します、との声に慌てて襖を閉めながら、口にした言葉が完全に墓穴を掘っていたことに上條が気づくのはひれ酒がまわってきてからだった。
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プロフィール
HN:
さるり
性別:
女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中