frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
学び舎にて ②
- 2018/07/19 (Thu)
- エゴss |
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今日は待ちに待った生徒会活動の日、そうヒロさんに会える日だ。
三年生の上條と一年生の野分では普段は廊下ですれ違うことさえ滅多にない。
でも、生徒会活動の日だけは上條と同じ部屋の中にいることができる。
逸る気持ちにおされて野分は駆け足で生徒会室へと向かった。
上條と親しくなりたい、という限りなく不純な動機で会計になった野分は、先週、初めて生徒会室で上條に会った時にはぼおっとまるっきり馬鹿みたいにその顔を見てしまった。
「んだよ人の顔ジロジロ見て。何か言いたいことでもあんのか?」
自分のことを見てくれて、声をかけてくれた嬉しさに心の声がそのまま出てしまった。
「ヒロさんがあんまりかわいいのでつい」
「ヒロさん?」
「あ、」
勝手にヒロさんって呼んでいたことがバレてしまった。でもこうなったらもうしかたない。
腹をくくって聞いてみた。
「あのヒロさんって呼んでもいいですか」
「はぁぁ?!」
「ダメですか?」
唖然とした顔の上條に畳み掛けるようにお願いすると、ぎゅっと眉を寄せて唸った。
「ここで変なあだ名で呼ばれるのはケジメがつかない」
「じゃあ、生徒会室の外ではいいんですね」
「そういうことじゃなくて!学校では俺は」
「じゃあ、学校の外ならいいですか」
「外っていうかそういうことじゃなくてだな」
「じゃあどこならいいんですか?」
「あーもう、うるせぇっ!勝手にしろ」
「ありがとうございます!」
ヒロさん
そう心の中で唱えるだけで幸せな気持ちになる。
早く会いたい
野分は勢いよく生徒会室のドアをノックした。
「失礼しま…」
「だーかーら、お前の日本語はどうなってんだよ」
「すみませんッ」
生徒会室に響くヒロさんの低い声と高橋くんの怯える声。
「遅くなりました」
「まだ10分前だろ」
俺の方を見ることもなく答えたヒロさんは高橋くんの前にある書類に赤ペンを走らせ続けている。
急いで自分の席に荷物を置く。
「お願いします」
自分の担当の書類をヒロさんに差し出すとようやく俺の方を向いてくれた。
少し長めの柔らかそうな前髪がさらりと揺れる。
「ん」
目を通したヒロさんが頷いてくれてホッとする。
「よくできてる」
「ありがとうございます」
「高橋、お前は直したところをちゃんとやり直しておけよ」
赤ペンが入った書類を受け取った高橋くんはコクコクと頷くとパソコンを開いた。
「一年とはいえ、お前も生徒会の書記なんだからしっかりしろよ」
「はい」
厳しいようで、ヒロさんは優しい。俺もヒロさんにもっと見てもらいたい。
「あの、ヒロさん」
「……副会長」
ギロリと睨みつけられる。
そうだった。ここではヒロさんは泣く子も黙る副会長。俺はなりたてほやほやの会計で、それ以上でも以下でもない。
「副会長、文化祭の会計の件で教えてもらいたいところがあるんですが」
「お前は大丈夫だろ?俺は秋彦がためこんでる書類の山をどうにかしなきゃなんねーんだけど」
「でも念のためお願いします」
「ま、お前も一応一年だもんな。どこかわかりにくいところあったか?」
ヒロさんに信用されているのは嬉しいけれど、一枚の紙を挟んで互いの前髪が触れ合うような近さで話ができるチャンスは捨てがたい。
「ここの項目なんですけど」
前任から引き継いだ書類を差し出して教えを請う。丁寧に説明してくれるヒロさんの声を一言も聞き逃さないように集中した。
「……てことだ、わかったか?って、近ッ!」
顔を上げたヒロさんに思いっきり額を叩かれて目を瞬かせた。
「痛いです」
「おおおお前が!顔を近づけすぎるから!」
「すみません」
涙目になった俺に気づいたヒロさんが慌てて額に手を伸ばす。
「悪ぃ、痛かったか?」
そっと撫でてくれた手のひらに口元が緩んでしまいそうになる。
「大丈夫です」
うっとりしながらその手の感触を受け止める。
もう、このまま時間が止まってしまえばいいのに。
「ずいぶんと楽しそうだな」
そんな俺の願いは呆れたような宇佐見さんの声に遮られた。
「楽しそうじゃねぇ。秋彦、会長のくせに遅れてくるな」
ヒロさんの言葉をどこ吹く風と聞き流して宇佐見さんは高橋くんに話しかけた。
「眠くてどうにもならない。美咲、コーヒーを淹れてくれ」
「見てわかんねーのか、高橋は忙しいんだ。飲みたいんなら自分で淹れろ」
「淹れ方がわからない」
「ったく」
「俺が淹れます」
宇佐見さんのために立ち上がりかけたヒロさんより早くコーヒーメーカーの方へ向かった。
「悪いな野分」
「いえ」
こぽこぽと音を立ててゆっくりとコーヒーが落ちてくる。ガラス製のポットに真っ黒な液体が溜まっていく様子はまるで自分の心の中を見ているようだ。
ヒロさんと宇佐見さんは家が近所の幼馴染で、ずっと同じ学校に通っている。二人の仲が良いことなんてこの学校の生徒なら誰もが知っていることだ。
それでも俺は、ヒロさんが宇佐見さんに何かしてあげるのを見たくはない。
熱いコーヒーをカップに注いで宇佐見さんの元へと運んだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
「秋彦、それ飲んだら早く仕事しろよ!野分もまだやることあるだろ」
「はい!」
「はいはい」
「高橋、終わったか?」
「まだですッ」
ヒロさんの声に背中を叩かれるようにして四人で仕事をする。窓から見えるポプラの木が夕日に照らされて長い影を伸ばす。
この時間が、今の野分にとっては何よりも大切な時間だった。
三年生の上條と一年生の野分では普段は廊下ですれ違うことさえ滅多にない。
でも、生徒会活動の日だけは上條と同じ部屋の中にいることができる。
逸る気持ちにおされて野分は駆け足で生徒会室へと向かった。
上條と親しくなりたい、という限りなく不純な動機で会計になった野分は、先週、初めて生徒会室で上條に会った時にはぼおっとまるっきり馬鹿みたいにその顔を見てしまった。
「んだよ人の顔ジロジロ見て。何か言いたいことでもあんのか?」
自分のことを見てくれて、声をかけてくれた嬉しさに心の声がそのまま出てしまった。
「ヒロさんがあんまりかわいいのでつい」
「ヒロさん?」
「あ、」
勝手にヒロさんって呼んでいたことがバレてしまった。でもこうなったらもうしかたない。
腹をくくって聞いてみた。
「あのヒロさんって呼んでもいいですか」
「はぁぁ?!」
「ダメですか?」
唖然とした顔の上條に畳み掛けるようにお願いすると、ぎゅっと眉を寄せて唸った。
「ここで変なあだ名で呼ばれるのはケジメがつかない」
「じゃあ、生徒会室の外ではいいんですね」
「そういうことじゃなくて!学校では俺は」
「じゃあ、学校の外ならいいですか」
「外っていうかそういうことじゃなくてだな」
「じゃあどこならいいんですか?」
「あーもう、うるせぇっ!勝手にしろ」
「ありがとうございます!」
ヒロさん
そう心の中で唱えるだけで幸せな気持ちになる。
早く会いたい
野分は勢いよく生徒会室のドアをノックした。
「失礼しま…」
「だーかーら、お前の日本語はどうなってんだよ」
「すみませんッ」
生徒会室に響くヒロさんの低い声と高橋くんの怯える声。
「遅くなりました」
「まだ10分前だろ」
俺の方を見ることもなく答えたヒロさんは高橋くんの前にある書類に赤ペンを走らせ続けている。
急いで自分の席に荷物を置く。
「お願いします」
自分の担当の書類をヒロさんに差し出すとようやく俺の方を向いてくれた。
少し長めの柔らかそうな前髪がさらりと揺れる。
「ん」
目を通したヒロさんが頷いてくれてホッとする。
「よくできてる」
「ありがとうございます」
「高橋、お前は直したところをちゃんとやり直しておけよ」
赤ペンが入った書類を受け取った高橋くんはコクコクと頷くとパソコンを開いた。
「一年とはいえ、お前も生徒会の書記なんだからしっかりしろよ」
「はい」
厳しいようで、ヒロさんは優しい。俺もヒロさんにもっと見てもらいたい。
「あの、ヒロさん」
「……副会長」
ギロリと睨みつけられる。
そうだった。ここではヒロさんは泣く子も黙る副会長。俺はなりたてほやほやの会計で、それ以上でも以下でもない。
「副会長、文化祭の会計の件で教えてもらいたいところがあるんですが」
「お前は大丈夫だろ?俺は秋彦がためこんでる書類の山をどうにかしなきゃなんねーんだけど」
「でも念のためお願いします」
「ま、お前も一応一年だもんな。どこかわかりにくいところあったか?」
ヒロさんに信用されているのは嬉しいけれど、一枚の紙を挟んで互いの前髪が触れ合うような近さで話ができるチャンスは捨てがたい。
「ここの項目なんですけど」
前任から引き継いだ書類を差し出して教えを請う。丁寧に説明してくれるヒロさんの声を一言も聞き逃さないように集中した。
「……てことだ、わかったか?って、近ッ!」
顔を上げたヒロさんに思いっきり額を叩かれて目を瞬かせた。
「痛いです」
「おおおお前が!顔を近づけすぎるから!」
「すみません」
涙目になった俺に気づいたヒロさんが慌てて額に手を伸ばす。
「悪ぃ、痛かったか?」
そっと撫でてくれた手のひらに口元が緩んでしまいそうになる。
「大丈夫です」
うっとりしながらその手の感触を受け止める。
もう、このまま時間が止まってしまえばいいのに。
「ずいぶんと楽しそうだな」
そんな俺の願いは呆れたような宇佐見さんの声に遮られた。
「楽しそうじゃねぇ。秋彦、会長のくせに遅れてくるな」
ヒロさんの言葉をどこ吹く風と聞き流して宇佐見さんは高橋くんに話しかけた。
「眠くてどうにもならない。美咲、コーヒーを淹れてくれ」
「見てわかんねーのか、高橋は忙しいんだ。飲みたいんなら自分で淹れろ」
「淹れ方がわからない」
「ったく」
「俺が淹れます」
宇佐見さんのために立ち上がりかけたヒロさんより早くコーヒーメーカーの方へ向かった。
「悪いな野分」
「いえ」
こぽこぽと音を立ててゆっくりとコーヒーが落ちてくる。ガラス製のポットに真っ黒な液体が溜まっていく様子はまるで自分の心の中を見ているようだ。
ヒロさんと宇佐見さんは家が近所の幼馴染で、ずっと同じ学校に通っている。二人の仲が良いことなんてこの学校の生徒なら誰もが知っていることだ。
それでも俺は、ヒロさんが宇佐見さんに何かしてあげるのを見たくはない。
熱いコーヒーをカップに注いで宇佐見さんの元へと運んだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
「秋彦、それ飲んだら早く仕事しろよ!野分もまだやることあるだろ」
「はい!」
「はいはい」
「高橋、終わったか?」
「まだですッ」
ヒロさんの声に背中を叩かれるようにして四人で仕事をする。窓から見えるポプラの木が夕日に照らされて長い影を伸ばす。
この時間が、今の野分にとっては何よりも大切な時間だった。
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プロフィール
HN:
さるり
性別:
女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中