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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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春立ちぬ

ツイッターでchimomoさんとやりとりした中からできたお話を書いてみました。


                          2019.2.3


 二月の大学の中は、いつもよりさらに冷え冷えとした空気に満ちている。上條は今日やるべき仕事の段取りを頭の中でせっせと組み立てながら早足で研究室へと向かっていた。
すでに鍵の開いていたドアを開けてマフラーを解く。
「おはようございます」
「おはよーさん」
 一足先に出勤していた宮城教授に挨拶をしながらコートをかける。暖房を入れてくれていたようだが、まだ研究室は外と変わらない位に冷えている。
「今日も寒いですね」
「ほんとになー。こう寒いんじゃおじさんやってらんなーい」
 部屋の端っこで新聞を広げながら宮城はのんびりと湯気の立つコーヒーを啜っている。
「教授、お言葉ですがやることは山積みですよ。さっさと始めましょう」
ほとんどの学生は試験が終わってすでに春休みモードだが、試験の採点に、追試の準備、さらには入試関連の仕事もある。教員としては春休みどころではない。
「あ、ほら見ろかみじょー 。梅が一輪咲いてるぞ」
 言われて窓の外に目をやる。たしかにこの寒空の下、枝の先に白い梅が一輪綻んでいた。
そのどこか健気な様にほんのりと胸の中があたたかくなる。
「…梅が香に追ひもどさるる寒さかな」
 思わず口にしたのは芭蕉の句。その途端ガラガラとイスに乗ったまま宮城が近づいてきた。
「流石上條〜俺の癒し。あっためてぇ」
 突然後ろから湯たんぽ代わりに抱きつかれて飛び上がる。あいかわらずの意味のわからない行動に、もはや梅も何もあったもんじゃない。
「離れて下さい」
「えーいいじゃん。ちょっとくらい」
「やめて下さい」
 えいやっとしつこい腕を引き剥がして、机の上の書類を掴んだ。
「忙しいんですってば」
 いつまでも相手にしてられないと研究室のドアを開けた上條の目の前にはしゃいだ声と何かが飛んできた。
「鬼は〜外、あっ」
「えっ?!」
 思いっきり額に不意打ちをくらい、痛みと驚きに声もなく顔を抑える。げっ!とかヤベェ、という声とともにすみませんッと青くなった学生が駆け寄ってきた。
「お前たち何して」
「あの…豆まきを」
「あ?」
 見ると床に落ちているのは『福豆』の文字入りの小袋だった。
「なんでまたこんなところで」
「すみませんすみません」
 ひたすらに頭を下げ続ける学生の声に、研究室から教授が顔を出した。
「上條、急いでるんじゃなかったのかー?」
「あっ」
「コイツらは俺が指導入れとくわ」
「すみません。お願いします」
 額をさすりながら上條が立ち去ると学生が大きなため息を吐いた。そんな学生の顔を覗きこんだ宮城がニヤリと笑った。
「しかしまあ鬼に豆ぶつけるとはいい度胸してるな」
「おおおお俺たちそそそそんなつもりは」
「冗談だって」
「あの、上條先生、怪我とかは」
「ま、大丈夫だろ。お前たちも休みだからってあんまり羽目外すなよ」
「はい。すみませんでした」
 はいはい、と手を振って学生を帰した宮城は床に落ちていた福豆を拾い上げた。
「豆とりて我も心の鬼打たん」
 やりますか、と一人呟くと研究室へと戻っていった。
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