frown
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端午の節句
- 2015/05/05 (Tue)
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こどもの日のあさいさ
2015.5.5
夕飯の後に出された皿の上には柏餅がのっていた。
「どうしたんだ、これ?」
「新茶と一緒に、奥様から頂きました」
朝比奈は急須から揃いの湯呑み茶碗に緑茶を注いでいる。
部屋の中に広がる新茶の香り。
チョコレートとコーヒーもいいけれど、たまにはこういうのも悪くない。
そう思いながら手を伸ばした。
「久しぶりに食べたな」
柔らかい餅の弾力を楽しみながら、実家暮らしのときには、季節の和菓子が食卓に上っていたことを思い出していた。
これもきっと、母さんのお気に入りの和菓子屋のものなんだろう。
品のいい甘さの餡を舌が覚えている。
「つか、いい歳した男二人がわざわざ買ってまで食うもんでもないか」
食べ終わってから新茶を啜ると、向かいに座った朝比奈は苦笑いをした。
「それに、私には食べる権利はないかもしれません」
「なんで?」
朝比奈は緑茶の淹れ方も上手いな
そんなことを思いながら新茶を味わっていた俺は、湯呑みを持ったまま朝比奈の顔をみつめた。
「柏餅には子孫繁栄の願いがこめられていますから」
そう言ってそっと柏の葉をはがす。
新しい芽が出てくるまで古い葉をおとすことのない柏の葉を使う柏餅は家系が絶えないという縁起を担いでいるという。
御家のため、か。
「俺が井坂の家のために、どこかの女と子どもを作ればいいのか?」
肘をテーブルの上について掌に顎を乗せると、敢えて挑発するような言い方をしてみる。
白い餅を手にした朝比奈は片眉をピクリと上げた。
「申し訳ありませんが、それは諦めて下さい」
いつもと同じ顔で告げられる。
「貴方は私のものですから」
あいかわらず笑いもせず、照れもせず、まるで当たり前のことを伝えただけのように、さらりと言う。
その言葉を俺がどれほど喜んでいるのかコイツは知っているんだろうか。
「そう思っているんだったら、遠慮せずに食えよ」
「いただきます」
朝比奈の綺麗な歯が餅を噛むのをジッとみつめた。
「龍一郎様」
「ん?」
「菖蒲の葉もいただきましたので、今夜は菖蒲湯にしませんか?」
「おー、懐かしいな」
子どもの頃、一度だけ二人で入った菖蒲湯を思い出した。
頭に巻いたり振り回したり、散々いろんなことをして遊んで楽しかったけれど、朝比奈は次の年からはもう一緒に入ることはなかった。
「なぁ、一緒に入らね?」
そう言いながら近寄った俺を見上げて朝比奈はため息をついた。
「貴方という方は…」
「いいだろ?」
俺は朝比奈の膝の上に跨るように座ると、首に手を回した。
「知りませんよ」
「安心しろ」
そう言って重ねるだけのキスをする。
「明日は休みだ」
囁いて、もう一度唇を重ねる。
歯列を割って舌を差し込むと入れた舌が絡め取られていく。
舌の先と甘い唾液を吸い上げて、目を開けると自分を見上げる瞳の中に揺らめく情欲の光に背筋がぞくりと震えた。
今日中に菖蒲湯に入れるんだろうか?
一瞬浮かんだ心配を頭の隅に追いやると、俺は目の前の濡れた唇を貪っていった。
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