frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
さまよえる日本人
- 2016/09/01 (Thu)
- 捧げ物 |
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「阿蘭陀カステラジャパネスカ」が好きなあかねちゃんへのプレゼントに書きました。
シンジュと環の話です。
シンジュと環の話です。
穏やかな日の船旅は悪くない。
ぐうっと両手を伸ばして強張った身体を解すと、環は通路を歩き出した環の耳に聞こえてきたのは、穏やかじゃない言葉だった。
「大変なことになったな…」
「やっぱり乗せるべきではなかったのだ」
「…シンジュ様がどうしてもと言うから」
船員たちの言葉に足が止まる。
外海の揺れにも、船員の話すオランダ語にもようやく馴染んできたと嬉しかったのに。
私はここでも邪魔者であったのか…
「困るのは私たちだ」
漏れ聞こえてきた言葉が、日本で兄達に言われ続けていた言葉と重なる
いっそオランダ語なんて分からなければよかった。分からなければ、何も感じることもなく船底の荷物のように黙って運ばれることもできたのに
「黙って捨ててしまえばよいのではないのか」
「それでは、シンジュ様が」
「しかし…俺たちはもう限界だ」
そっと踵を返すと、両手で耳を塞いで走り出した。
青い空には風もなく、海鳥がのどかに飛んでいる。
甲板に出て覗きこんだ海は鏡面のように輝いている。
これなら
もしかして
泳ぐこともできるかも
覗いた夜の空のような深い海はまるで手招きしているようで
ぐっと身を乗り出した環の腕は、後ろから掴まれた。
「なにしてるの?」
振り向かなくても分かる
「別に」
両腕が身体に巻きついてくる
「泳ぐなら、一緒に」
「こんな格好で泳ぐわけないだろ」
クルリと身体を反転されて、向き合った形になったシンジュがにこりと笑った。
「確かにね」
「離せよ」
「環ならきっと似合うよ」
「・・・何が?」
「私の国では泳ぐ時に着る洋服があるんだ」
「そう・・・なのか?」
「うん。だから」
ふわりと抱きしめられる。
「今はまだ泳ぐのは我慢して」
シンジュの胸に顔を埋める。
「何があったの?」
背中に手を回す。
「何かされたの?」
首を横に振る。
「環?」
「私は、この船のお荷物なんだろ・・・」
「そんなわけないよ。みんな環が大好きだ」
「だって、みんな困ってたし」
「困る?」
「捨ててしまったほうがいいって」
「それ言ってたの、もしかして、コックじゃない?」
「そう、だけど」
クスクスとシンジュが笑う。
「何がおかしいんだよ」
「それは納豆のことだよ」
「納豆?」
驚いて顔を上げる。
「うん。こっそり荷物の中に入れておいたらみつかっちゃってね」
「お前、納豆も持ちこんだのか?」
「もちろんだよー。海の上で大地の味を味わいたかったんだ」
「それで」
「コックが臭いから捨てるって」
ションボリと項垂れたシンジュの顔に、笑いがこみ上げてきた。
「バカだな」
「どうしてみんなは納豆の素晴らしさを分かってくれないんだろうね」
耐えきれなくなって声を出して笑った。
海の上を魚が飛び跳ねていく。
涙を流して笑っている環の眼に、さっきのコックがカステラを持って歩いてくるのが見えた。
「環にプレゼントだってさ」
シンジュが囁く。
「プレゼント?」
「新しく仲間になったんだからね。お祝いだよ」
潮の匂いとカステラの匂いが流れる。
「ありがとう」
溢れてきた新しい涙をそっと指で拭いて、環は甘い匂いへと向かって歩き出した。
ぐうっと両手を伸ばして強張った身体を解すと、環は通路を歩き出した環の耳に聞こえてきたのは、穏やかじゃない言葉だった。
「大変なことになったな…」
「やっぱり乗せるべきではなかったのだ」
「…シンジュ様がどうしてもと言うから」
船員たちの言葉に足が止まる。
外海の揺れにも、船員の話すオランダ語にもようやく馴染んできたと嬉しかったのに。
私はここでも邪魔者であったのか…
「困るのは私たちだ」
漏れ聞こえてきた言葉が、日本で兄達に言われ続けていた言葉と重なる
いっそオランダ語なんて分からなければよかった。分からなければ、何も感じることもなく船底の荷物のように黙って運ばれることもできたのに
「黙って捨ててしまえばよいのではないのか」
「それでは、シンジュ様が」
「しかし…俺たちはもう限界だ」
そっと踵を返すと、両手で耳を塞いで走り出した。
青い空には風もなく、海鳥がのどかに飛んでいる。
甲板に出て覗きこんだ海は鏡面のように輝いている。
これなら
もしかして
泳ぐこともできるかも
覗いた夜の空のような深い海はまるで手招きしているようで
ぐっと身を乗り出した環の腕は、後ろから掴まれた。
「なにしてるの?」
振り向かなくても分かる
「別に」
両腕が身体に巻きついてくる
「泳ぐなら、一緒に」
「こんな格好で泳ぐわけないだろ」
クルリと身体を反転されて、向き合った形になったシンジュがにこりと笑った。
「確かにね」
「離せよ」
「環ならきっと似合うよ」
「・・・何が?」
「私の国では泳ぐ時に着る洋服があるんだ」
「そう・・・なのか?」
「うん。だから」
ふわりと抱きしめられる。
「今はまだ泳ぐのは我慢して」
シンジュの胸に顔を埋める。
「何があったの?」
背中に手を回す。
「何かされたの?」
首を横に振る。
「環?」
「私は、この船のお荷物なんだろ・・・」
「そんなわけないよ。みんな環が大好きだ」
「だって、みんな困ってたし」
「困る?」
「捨ててしまったほうがいいって」
「それ言ってたの、もしかして、コックじゃない?」
「そう、だけど」
クスクスとシンジュが笑う。
「何がおかしいんだよ」
「それは納豆のことだよ」
「納豆?」
驚いて顔を上げる。
「うん。こっそり荷物の中に入れておいたらみつかっちゃってね」
「お前、納豆も持ちこんだのか?」
「もちろんだよー。海の上で大地の味を味わいたかったんだ」
「それで」
「コックが臭いから捨てるって」
ションボリと項垂れたシンジュの顔に、笑いがこみ上げてきた。
「バカだな」
「どうしてみんなは納豆の素晴らしさを分かってくれないんだろうね」
耐えきれなくなって声を出して笑った。
海の上を魚が飛び跳ねていく。
涙を流して笑っている環の眼に、さっきのコックがカステラを持って歩いてくるのが見えた。
「環にプレゼントだってさ」
シンジュが囁く。
「プレゼント?」
「新しく仲間になったんだからね。お祝いだよ」
潮の匂いとカステラの匂いが流れる。
「ありがとう」
溢れてきた新しい涙をそっと指で拭いて、環は甘い匂いへと向かって歩き出した。
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プロフィール
HN:
さるり
性別:
女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中