frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
彼方の岸より
- 2017/08/10 (Thu)
- 捧げ物 |
- Edit |
- ▲Top
木瀬さんのお誕生日に、リクエストをもらって書きました!
木瀬さん!お誕生日おめでとうございます!
2017.8.10投稿
木瀬さん!お誕生日おめでとうございます!
2017.8.10投稿
自転車にまたがり、ぐいとペダルに体重を乗せる。帰る喜びと比例するように自転車は加速し、風を受けて髪の毛がたちあがる。
マンションに向かうこの道が好きだった。
今はもうペダルをこぐ度に嬉しさが膨らむこともなく機械的に足を動かしているだけなのに、俺はいつも同じ場所であの頃のようにマンションの窓を見上げてしまう。
大好きな人が待ってくれていた部屋。
どんなに急いで帰ってきても、もうあの窓に明かりがついていることはないのに。
エントランスの前でひっくり返った蝉がジジジジジと最期の声を上げてもがいている横を通りぬけてオートロックのドアを入る。集合ポストを開けて、入っていたダイレクトメールを握りしめる。
世界は何も変わっていないのに。
エレベーターの中で「上條弘樹様」と書かれたハガキをじっと見つめる。
俺の世界は変わってしまった。
「ただいまです」
玄関に置かれたままの革靴に向かって挨拶をして、のろのろとリビングへと続く廊下を進んでいく。
シャワーを浴びて寝よう。
誰もいない部屋に帰らなくてもすむように、かなり無茶なシフトを組んでいたから、身体は疲れきっている。
今夜こそ眠れるかもしれない。
一人になってからの俺は目を閉じても眠ることができずに、とろとろと浅い微睡みの中で同じ夢ばかり見ている。
嵐の中、たった一人で立ち尽くす夢。真っ暗な世界はどっちが前なのかもわからなくて、進むことさえできない。
目を開けても、やっぱり俺はどこへ進めばいいのかわからなくて、迷子の子どものようにただ途方に暮れている。
重苦しく昼間の熱がこもったままのリビングの中をつっきり、ベランダへと続く窓を開け放った。
流れこむ生温い風に、ほっと息を吐いた。
「野分」
聞こえるはずのない声が聞こえて、身体が固まる。
「しけた顔してんじゃねぇ」
でも聞き間違えるはずがない。
「ヒロ・・・さん?」
振り向いたリビングの隅にぼんやりと白い姿が浮かび上がる。
「ヒロさん!」
会いたくて会いたくて。もう一度会えるのなら死んでもいいとさえ思っていた人が、そこにいた。
「ヒロさん」
名前を呼び、抱きしめるようにそっと腕をまわせば、ひんやりとした腕が俺の背中を抱きしめてくる。
「もうどこにもいかないで下さい」
目の前にある顔も瞳も、何ひとつ変わってなんかいない。
「野分・・・ごめ、」
謝る言葉を聞きたくなくてその唇を塞ぐ。いつもより冷たいけれど、いつもと同じ柔らかさにたまらなくなって、舌を絡め、何度も貪った。
「苦し、いって、」
腕の中きら逃げ出したヒロさんが眦を染めて睨みつける。
「すみません。久しぶりだったから、つい」
「死ぬかと思った」
荒くなった息を整えながらヒロさんが言った言葉に思わずもう一度抱きしめる。
「・・・悪ぃ。死んでるヤツが言うセリフじゃなかったな」
月明かりの中に青白く光る顔。
「会いにきてくれたんですね」
「せっかくでてきたんだから、もう少し驚けっての」
「俺、嬉しくて死にそうです」
「アホ、縁起でもねぇこと言うな」
死んでしまってもやっぱりヒロさんは可愛いままだった。
ベッドの上で、生きてる時と変わらずに感じやすい身体を晒された俺は、覚えたてのガキのように何度もヒロさんを欲しがった。
「あっ、のわ・・野分」
甘い声にぶるりと背中が震える。何度目かの遂情を終えて、そのままヒロさんに覆いかぶさった。
吐き出した熱をそのままに、ぴったりと重なりあったまま、呼吸を整える。
ぽっかりと空いていた穴がじわじわと塞がっていく。
「野分」
細い指が俺の頬をなぞりあげる。
「・・・寝てねーんだろ」
目の下の薄い皮膚をゆっくりと往復する指先の感触の気持ちよさに目を閉じる。
「ごめんな」
瞼に落とされた唇の柔らかさにじわりと目の奥が熱くなり溢れ出す。頬を伝わるその熱は、子どもの頃にどこかへなくしたはずの涙によく似ていた。
そのまま俺はすとんと落ちるように深い眠りについた。
夢も見ずに眠ったのは久しぶりだった。
パチリと目を開けて部屋の明るさに驚く。枕元の時計の針は朝というよりは昼に近い時刻を指している。
「ヒロ、さん?」
隣にいると思った人の姿はなく、乱れたはずのシーツには皺一つない。
あれは・・・夢だったんだろうか・・・。
身体が嘘のように軽い。
夢でもこんなに効き目があるのなら、やっぱりヒロさんはすごい人だと改めて思いながらバスルームへと向かった。
Tシャツを捲り上げようした拍子にぴりっと感じた違和感。鏡に映してみた自分の背中に笑みがこぼれた。
夢じゃなかった。
「また会いに来て下さい」
背中に残された爪痕にお願いするようにそう言うと、俺はシャワーを浴びた。
PR
プロフィール
HN:
さるり
性別:
女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中