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frown

当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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untouchable

木瀬さんからのリクエストから書いていたのが2つありまして。
せっかくなのでこちらもアップしました。

2017.8.15投稿



空は夕闇から夜に変わり始める境目の色を見せている。
暑い空気がまとわりついてくる。バイト明けの体を労わるように、まだ昼の熱が残るアスファルトを避けて公園の木陰を縫うように歩いていた俺は出会ってしまった。

空を眺めながら、はらはらと涙を流す横顔。

その瞬間、周りの景色から切り取ったように、その人しか見えなくなった。
街灯の灯りに誘われる羽虫のように、俺は仄かに白く浮かぶその顔に向かって歩く。
ひんやりとした風に背中を撫でるように舞い上がった。

「あの、」

突然声をかけた俺に怯えたように立ち上がったその人の手を掴んだ、はずが、ほんの一瞬の冷たさだけを残してするりと逃げられる。

「待って下さい」

掴めなかったくせに、この人の手を絶対に離してはダメだと思った。

「大丈夫です」

安心させるつもりでそう言った俺を琥珀色の瞳がじっと見つめてくる。

「俺、草間野分っていいます」

あなたの名前を教えて欲しい、そう思って告げた俺に返ってきたのは意外な言葉だった。

「お前・・・俺が見えるのか?」
「え?」


さらりと透けるような髪の毛と透き通るような肌をしたその人は。

「俺、人じゃねーんだけど」

この世のものではなかった。



「人じゃない?」
着ている服も真新しいものに見えるし、足もちゃんとあって、履いている靴にいたっては俺の古いスニーカーよりずっときれいだ。
どこからどう見ても人じゃないようには思えない。
「お前、俺が怖くねぇの?」
「怖い?どうしてですか?」
俺より少し低い位置にある顔を見下ろす。もう涙は止まっているけれど、まだ濡れている頬を拭ってやりたくて手を伸ばす。けれどその白い頬に俺の指が触れることはなく、そこにある顔を通り抜けてしまった指先には、微かにひんやりとした感覚だけが残った。
「あれ?」
「だーかーらっ、俺は人じゃねぇんだって言ってるだろ!アホ」
「すみません」
「いや、別に謝らなくてもいいけど」
人形のように滑らかな頬がみるみる赤くなっていく。触ることもできなかったのに、こうして見ると俺と同じ赤い血が通っているみたいだ。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なに?」
「名前を教えて下さい」
「はぁ?」
「人じゃなくても名前はありますよね?」
「あるけど、普通はそれより先に聞くことがあるだろ?」
「そうなんですか?」
何か変なことを言って困らせてしまったんだろうかと見つめる。「ったく、おかしなのに捕まっちまったな」とぼやきながらがしがしと乱暴に髪の毛をかき回して、諦めたように呟いた。
「弘樹」
名前を聞いただけで胸の中がぽわんとあたたかくなる。こんなことは生まれて初めてだった。弘樹、弘樹さん、と口の中で飴玉を転がすように何度もくりかえして、その甘さにうっとりとする。
「じゃあ、ヒロさんですね」
一人で頷きながら声に出して名前を呼べば、もうそれ以外の呼び方なんてないみたいにしっくりと馴染む。
「なんだそれ。勝手な呼び名をつけられるのは困るんだけど」
「ダメですか?」
すごくいい呼び方だと思うんですけど、と見つめると、ぷいっと横を向きながら「好きにすれば」と告げられた。
その困ったような顔があまりにも可愛かったから
「ヒロさんは可愛いです」
思わず浮かんだ気持ちをそのまま口にした。途端にバシッと頭を叩かれた。
「可愛いってなんだ!」
可愛いのにずいぶんと乱暴な人だ(人じゃないけど)、と頭をさする。
(あれ?)
今、確かに、はっきりと、音がするほど、痛いほどに叩かれた。
「ヒロさんは、俺に触れるんですか?」
「ったりめぇだ!俺が何年幽霊やってるとおもってんだよ!てめぇなんざいくらでも殴れるんだからな」
「ヒロさんはすごい人です」
「だから人じゃねーって」
ヒロさんが俺に触れるのなら、俺もいつか、ヒロさんに触れることができるのだろうか。
淡い希望を掴むように手のひらを握りしめてみる。
「つか、お前、えっと草間だっけ?」
「野分でいいですよ」
「じゃあ、野分」
「はい!」
名前を呼ばれてこんなに嬉しいのは初めてだ。
「お前、いくつだ?」
「17です」
「17?!こんな時間にガキが一人で何してんだ。いくらデカイくても家の人が心配すんだろ。遊んでねぇでとっとと帰れ」
気がつけば公園はすっかり夜の色に覆われ、空には月が浮かんでいる。
中学を出てから一人で暮らしている俺は、人より身体が大きいこともあって年齢より落ち着いて見られることが多い。こんな風に子ども扱いされることにあまり慣れていないから、なんだかくすぐったいような、ちょっぴり悔しいような、複雑な気持ちで黙りこんでいると、ヒロさんは焦ったような声になった。
「お前・・・まさか・・・家出、とかじゃねーよな?」
「違います。けど、俺、親はいないんで」
「えっ、そうなのか」
「はい。一人で暮らしているんです」
「・・・そっか」
気まずそうに俯いたヒロさんは何歳なんだろう。改めて見ても俺とそんなに変わらないように見える。
「ヒロさんは大学生ですか?」
「死ぬ前はな」
暗闇の中、寂しそうに笑ったヒロさんはぼんやりと白い光をまとって怖いくらいに綺麗だ。
「ヒロさんはどうしてこんなところに」
泣いていたのはここが特別な場所だから、なんだろうか。
「俺はここから動けねーんだよ」
「動けない?」
「いわゆる地縛霊ってやつ」
「不便ですね」
「うるせぇ。とにかく俺はずっとここにいるんだよ」
幽霊にも色々とあるなんて知らなかった。でも動けないというのなら誰かに連れていかれたり、いなくなったりすることはないってことだろう。
「わかりました」
「ん。じゃあ早く帰れ」
「また明日会いにきます」
「は?」
「おやすみなさい!」
「おい、待てって」

明日、またヒロさんに会える。
誰かと明日の約束をすることがこんなに嬉しいことを初めて知った俺はまだわかっていなかった。

この気持ちを何というのかを。

夏の夜の蒸し暑い空気の中で、ヒロさんに触れようとした指先だけがまだ冷たくて、俺はそっと唇に押しつけた。

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さるり
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