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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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桃の節句

宇佐見秋彦大てんてー、誕生日おめでとうございます!!
ミニマム秋彦と弘樹です。



「ヒロちゃーん」
奥の座敷から自分を呼ぶ母親の声が聞こえる。
陽当たりのいいお気に入りの場所で本を広げていた弘樹は顔を顰めると、聞こえないふりを決めこんだ。
「ヒロちゃーん」
節分が過ぎて、庭の木も少しずつ春の気配が訪れている。
綻び始めた梅の木にはヒヨドリが二羽とまっていた。
「ヒロちゃーん、いるんでしょ」
流石に三回目には無視することもできずに、弘樹は読んでいた本を閉じて立ち上がった。
「なにー?」
奥の座敷に顔を出すと、既に母親が桐の箱を一人で開けていた。僅かに樟脳の匂いが漂う箱の中には白い和紙の固まりが見える。
白くて薄い紙をゆっくりと丁寧に広げると、中から色白の小さな顔がのぞいた。
縁側に立っている弘樹に声だけが飛んでくる。
「ヒロちゃんも手伝ってよ」
「なんでだよ」
雛あられや菱餅は楽しみだけど、ピンクのぼんぼりや金屏風を見ても別に面白くも嬉しくもない。
こんなもの女の子の行事だ。
「一年に一度は出してあげないとね」
母親の少しばかり年代を感じさせるお雛様はお内裏様とお雛様だけではなく、ままごと道具のような箪笥や牛車まで全て揃っている。
これ全部飾るの面倒じゃないのか?
弘樹は毎年そう思っているのだが、嬉しそうに雛人形を飾る母親に言うわけにもいかず、箱から五人囃子を出した。
そういえば、五人囃子は子どもだったっけ。
澄ました顔で笛を持つその姿を見ていると、苦手なリコーダーのテストのことを、さらにそこから秋彦が自分のリコーダーを吹いたことまで思い出してしまった弘樹は、持っていた人形を乱暴に置いた。

◇◇◇◇◇

「秋彦、今日さ」
放課後の教室。
呼びかけた視線の先には先客がいて、弘樹は口をグイッとへの字に閉じた。
またかよ。今度はなんだ?
「今日、私の家で雛祭りをするから宇佐見君も来ない?」
席に座っている秋彦の周りをクラスメイトの女の子数人が取り囲んでいる。
「雛祭り?」
首を傾げて聞き返す秋彦に一斉にかしましい声がかけられる。
「えー宇佐見君、雛祭り知らないの?」
「知ってるけど」
弘樹はもう一度声をかけた。
「秋彦!俺、先行ってるぞ」
鞄を持ち上げた弘樹の背中に、女の子の声がかけられる
「あ、上條も来る?」
「行かねー」
そっけなく答えると出口に向かって歩き出した弘樹の姿を追うかのように秋彦も立ち上がった。
「僕も今日は家の用事があるから」
残念がる女の子たちの声を尻目に鞄を抱えて秋彦は教室の出口に向かった。
「弘樹」
帰りの時間の騒々しい廊下。
秋彦は特に大きな声を出すわけでもない。
それでも
「どーした?」
いつも必ず弘樹には聞こえる。
「一緒に帰ろう」
「いいのか?」
弘樹の視線が教室へ注がれる。
「何が?」
「雛祭り行かねーの?」
「行かないよ。ただ・・」
「ただ?」
「見てみたかっただけ」
「何を?」
誰を?
「雛人形」
予想外の答えに弘樹はプハッと大きく息を吐いた。
「雛人形?なんで?」
「見たことないから」
ああ、そうか。秋彦はイギリスにいたんだった。
弘樹は肩を揺すって鞄を掛け直した。
「見たかったらうちにあるよ」
「本当に?」
「今日、見に来るか?」
一瞬、逡巡の色を見せてから秋彦は大きく頷いた。

◇◇◇◇◇

桜餅と雛あられが秋彦の前にだけ並べられている。
「秋彦君、桃のジュース好き?」
「桃、大好きです」
「よかった」
嬉々として、ストローをさしたグラスを差し出した母親に弘樹が拗ねたような声を出した。
「俺の分は?」
「ヒロちゃんにはお茶持ってくるわね」
「なんだよそれ」
「仕方ないでしょ。昨日、飲んじゃったじゃない」
笑いながら座敷を出て行く母親に弘樹は唇を尖らせた。
「ったく、秋彦ばっかり」
そう言って秋彦の前に置かれた雛あられに手を伸ばす。
「このお雛様って弘樹の?」
弘樹は雛あられを口に入れながら返事をした。
「そんなわけ、ないだろ」
「じゃあ誰の?
「母さんのだよ」
弘樹はぽりぽりと雛あられを噛んでいる。
それを見て、秋彦も雛あられをつまんだ。
ゆっくりと口の中で転がしてから噛む。甘いようなしょっぱいような味が広がる。
「てっきり弘樹のかと思った」
弘樹はまた雛あられをつまむと、ぽいっと口の中に放りこむ。
「これは、女の子のものだ」
「そっか」
秋彦は雛人形を見つめながらストローに口をつけた。
甘い香りが喉の奥に流れていく。
「あーもう、雛あられ食べたら喉かわいたー。お茶まだかなー」
廊下の方を見る弘樹に秋彦が自分のジュースのコップを渡した。
「飲む?」
「いいよ。それはお前が飲めよ」
「これ美味しいよ」
「知ってるし」
「だって喉乾いたんだろ?飲んだらいいよ」
差し出されたストローの先からは桃の甘い香りがする。弘樹は少し濡れている先端にそっと口をつけた。
ひんやりとしたそれを思い切って吸ってみる。
甘くて少しドロッとした果汁が口の中に入ってきた。
ゴクリと飲むと目の前で秋彦が笑った。
「美味しいだろ」
その笑顔に呼吸ができなくなりそうなくらいに胸がドキドキして、弘樹はストローから口を離した。
二人の口から桃の甘い香りがする。
昨日一人で飲んだ同じジュースよりもずっとずっと甘く感じるのはなぜなんだろう。
母親がお茶とお菓子を乗せたお盆を持って戻ってきた。
「はい、お待たせ」
「遅いよ」
どこかホッとしてお茶に手を伸ばすと、お盆の上にはカメラが乗っていた。
「ねえねえ、せっかくだから写真撮りましょうよ」
「えーめんどくさい」
弘樹はお茶を飲みながら眉を顰めた。
「いいじゃない。ね、秋彦君そこに座って。ほらヒロちゃんは秋彦君の隣ね」
半ば強引に七段飾りのお雛様の前に二人並んで座らせられた。
「あら、思った通り」
カメラを構えた母親がニコニコと笑う。
「なにがだよ?」
質問を無視してレンズを覗く母親に、弘樹は頬を膨らませた。
「ほらほら、笑って笑ってー」
楽しそうに何枚もシャッターを切る母親の姿にため息をつきながらも、つきあっていると、来客を告げる声が聞こえた。
「母さん、誰か来たよ」
これ幸いと玄関に母親を追いやって、やっと解放された弘樹はゴロンと寝そべった。
そのまま隣の秋彦を見上げると、秋彦は玄関の物音に耳をそばだてている。
「どうした?」
廊下を歩いてくる二つの足音が聞こえてくると、秋彦が小さくため息をついた。
一つはいつもの母親のもの、もう一つはもっとゆっくりとした音。
お客さんかな。
音もなく襖が開く。
そこには黒い服の男の人が立っていた。
「秋彦様。お迎えに参りました」
ヒツジのおじさんだ。
「田中さん。もう時間?」
「はい。申し訳ありません」
「わかった」
立ち上がった秋彦につられて弘樹も立ち上がる。
「もう帰るのか?」
「うん」
少しムッとした弘樹に田中さんが頭を下げた。
「申し訳ありません。本日は秋彦様の誕生日パーティーがありまして」
誕生日?
なんでそんな大事なことを言わないんだ。
「秋彦!」
「なに?」
「今日誕生日なのか?」
「うん」
どうしてそんな悪いことみたいな顔すんだよ。違うだろ。誕生日なら、言われることは一つだろ?
「誕生日おめでとう」
「……ありがとう」
ビックリしたような顔をしている秋彦を見て、弘樹は重大なことに気がついた。
「秋彦、今日が誕生日ってことは俺より年下じゃん」
突然、優越感を滲ませた弘樹に秋彦は呆れたような顔をした。
「年下って、何ヶ月しか違わないよ」
「それでも、俺の方が先に誕生日くるんだから年上だ。だから、秋彦」
「なに?」
「もっと俺を頼ってもいいんだぞ」
胸に手を当てて、少し垂れ気味の大きな茶色の瞳でそんなことを言う弘樹が可笑しくて。
そして、眉間にシワを寄せた大真面目な様子が嬉しくて。
秋彦はゆっくりと、綻ぶように笑った。
「わかった」
「困ったときはいつでも言うんだぞ」
「ありがとう」
そうだ。
誕生日くらい秋彦が笑えるといい。
年に一度の特別な日なんだから。

桃の節句も悪くないな。
弘樹は初めてそう思った。

「ねえ見てヒロちゃん。まるでお内裏様とお雛様みたいよ」
この日、秋彦と二人で並んで撮った写真がそんな風に言われることになろうとは思いもせずに。

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