frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
棘のない薔薇
- 2015/05/24 (Sun)
- 純情ミニマム |
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棘のない薔薇の花言葉とは、、、。
ミニマムですが、ほんのりとうさヒロ風味です。
苦手な方はご注意下さい。
ミニマムですが、ほんのりとうさヒロ風味です。
苦手な方はご注意下さい。
まだ五月だというのに、一足早く夏でも来たかのような強い陽射しが、走る弘樹を照らしていた。
「ハッハッハッハッ」
短い呼吸のリズムに合わせて、茶色の髪の毛と首元のリボンタイが左右に揺れ、背中の鞄がカタカタと上下する。
大きな門の前までくると足を止め、汗を浮かべながら、どっしりとした引き戸を開けた。
「ただいま!」
玄関の先の廊下の奥から足音がする。
「おかえりなさい」
「いってきます!」
「あ、ヒロちゃん」
玄関に鞄を置いて本を一冊取り出すと、話しかけてきた母親の声を振り切って、弘樹はもう一度外へと飛び出していった。
学校の制服を着替えもせずに、向かいの家の垣根の破れ目に顔を突っ込み、ゴソゴソと四つん這いで植え込みをくぐり抜けて立ち上がると、そこは、外の暑さが嘘のように爽やかな風が吹いていた。
弘樹の頭のてっぺんにくっついていた小さな緑の葉っぱが風に吹かれてクルクルと空に舞う。
見上げると緑色の葉の隙間から細かくなった陽射しの欠片が降り注ぐ。
涼しい風と木漏れ日の中で、弘樹は大きく息を吸い込んだ。
ここは聞こえる音さえ違う。
いつもひっきりなしに通りを走る自動車の排気音が消えて、代わりに鳥の囀りと木の枝が風に揺れる音が聞こえる。
こーゆーのを「別世界」って言うんだ
そう思いながら弘樹はいつもの場所へと歩いていった。
「秋彦ー」
いつも座っている場所に秋彦はいなかった。
おかしいな
弘樹は首を傾げながら周りを見回した。
先に着いてるはずなのに
弘樹はとりあえず座ると、持ってきた本を広げて読み始めた。
野鳥の囀りが梢から聞こえてくる。
あんなに続きが気になっていたはずの物語だったのに、心は本へと向くことができず、とうとう弘樹は本を閉じて、立ち上がった。
もしかしてまたどこかに隠れているのかも
それとも、どこかで困ってるのかな?
むぅと眉間にシワを寄せて腕を組んだ弘樹の前に、アゲハチョウが飛んできた。
大きい
見たことないような大きさにポカンと口を開けて見ていると、アゲハチョウはしばらく頭の上を回った後、ヒラヒラと誘うように庭の奥へと向かった。
弘樹は立ち上がると、その後ろをついて行った。
林の中を案内するかのようにアゲハチョウは飛んでいく。
そういえばこっちには行ったことがなかったな
そう思った時、木立がなくなり、突然、目の前が開けた。
「うわあ」
弘樹は思わず感嘆の声を上げた。
途切れた林の先には赤、白、黄色、ピンク、色とりどりの花が咲き乱れていた。
風にのって漂ってくる香りに惹かれるように弘樹は近づいていく。
「これって・・・」
アーチ状に這わせている黄色い花の入り口を見つけて入って行くと、花に囲まれるように秋彦が座っていた。
「秋彦」
呼びかけると秋彦はノートから顔を上げた。
弘樹は秋彦のそばへと歩いて行った。
「秋彦、これって」
「バラだよ」
二人で周りを見回した。
そこは丁寧に手入れをされたバラの庭だった。
「バラばっかりなのか?すごいな」
弘樹は、色も形も、こんなにたくさんの種類のバラを見たことがなかった。
座っている秋彦の横には大きな白いバラが咲いている。
弘樹はそのバラの花へとそっと手を伸ばしてみた。
「いたッ」
指先に感じた鋭い痛みに慌てて手を引っ込める。
「大丈夫?」
顔を上げた秋彦が心配そうに覗きこみ、自分の指先を見ようと俯いた弘樹の顔に触れるかと思うほど近くに秋彦の顔が寄ってきた。
驚いた弘樹が痛む指先から顔を離すと、秋彦はその手をそっと掴んだ。
握られた白い指には細く一筋の赤い色が滲んでいる。
「棘が刺さったんだ」
そう言った秋彦が、血が滲んでいる指先を口に含んだ。
「お、お、お前、なにしてっ」
驚いて叫んだ弘樹の顔を秋彦が見上げている
「何って、血が出てたから」
「だ、だ、だからって、な、な、舐めるって」
「血が出たら舐めるんだって」
「お前、誰にそんなこと聞いたんだよ!」
そう言って真っ赤になりながらグイっと手を引いた弘樹は指先がドクドクと熱を持ったように熱くなっていくのを感じていた。
弘樹は自分の指先をジッと見つめた。
真っ赤になった弘樹の横でいつもと同じ顔で立ち上がった秋彦は大きな黄色いバラの花を一輪手折った。
そして、それを弘樹の前に差し出した。
「はい。これあげる」
「え?」
「弘樹、バラが欲しかったんだろ?」
「あ、うん」
弘樹は黄色のバラを受け取りながら、さっき自分が手を伸ばした白いバラの花を見た。
真っ白なバラは手折られることを拒むように立っている。
「このバラなら棘がないから大丈夫だよ」
「ありがと」
貰った黄色いバラからは甘いような石鹸のような、なんだか不思議な香りが広がってきた。
「弘樹、今日は時間大丈夫なの?」
そうだ、今日は書道の日。
「またな、秋彦!」
貰ったバラを握りしめると、弘樹は来た道を歩き始めた。
いつもの秘密基地まで戻った弘樹は置き忘れていた本を見つけて立ち止まった。
バラ園から離れた林の中では、急に手の中にあるバラの香りが強く感じられてくる。
本を拾い上げると、弘樹は持っているバラをみつめた。
太陽の光を集めたような綺麗な黄色の花びらと、ドクンドクンと脈打つ指先。
やっぱ、まだ痛い。
だから、そう、これは怪我の治療なんだ・・
誰にでもなく自分にそう言い聞かせると、弘樹は、指先をそっと口に含んだ。
甘い香りが身体中に広がっていく。
バラ園の中に座っていた秋彦の姿を思い浮かべる。
秋彦にはあの真っ白なバラがよく似合う。
そんなことを考えた自分に、また一人で真っ赤になった弘樹は頭をぶんぶんと振ると、家へ向かって走り出した。
甘くて切ないバラの香りを零しながら。
「ハッハッハッハッ」
短い呼吸のリズムに合わせて、茶色の髪の毛と首元のリボンタイが左右に揺れ、背中の鞄がカタカタと上下する。
大きな門の前までくると足を止め、汗を浮かべながら、どっしりとした引き戸を開けた。
「ただいま!」
玄関の先の廊下の奥から足音がする。
「おかえりなさい」
「いってきます!」
「あ、ヒロちゃん」
玄関に鞄を置いて本を一冊取り出すと、話しかけてきた母親の声を振り切って、弘樹はもう一度外へと飛び出していった。
学校の制服を着替えもせずに、向かいの家の垣根の破れ目に顔を突っ込み、ゴソゴソと四つん這いで植え込みをくぐり抜けて立ち上がると、そこは、外の暑さが嘘のように爽やかな風が吹いていた。
弘樹の頭のてっぺんにくっついていた小さな緑の葉っぱが風に吹かれてクルクルと空に舞う。
見上げると緑色の葉の隙間から細かくなった陽射しの欠片が降り注ぐ。
涼しい風と木漏れ日の中で、弘樹は大きく息を吸い込んだ。
ここは聞こえる音さえ違う。
いつもひっきりなしに通りを走る自動車の排気音が消えて、代わりに鳥の囀りと木の枝が風に揺れる音が聞こえる。
こーゆーのを「別世界」って言うんだ
そう思いながら弘樹はいつもの場所へと歩いていった。
「秋彦ー」
いつも座っている場所に秋彦はいなかった。
おかしいな
弘樹は首を傾げながら周りを見回した。
先に着いてるはずなのに
弘樹はとりあえず座ると、持ってきた本を広げて読み始めた。
野鳥の囀りが梢から聞こえてくる。
あんなに続きが気になっていたはずの物語だったのに、心は本へと向くことができず、とうとう弘樹は本を閉じて、立ち上がった。
もしかしてまたどこかに隠れているのかも
それとも、どこかで困ってるのかな?
むぅと眉間にシワを寄せて腕を組んだ弘樹の前に、アゲハチョウが飛んできた。
大きい
見たことないような大きさにポカンと口を開けて見ていると、アゲハチョウはしばらく頭の上を回った後、ヒラヒラと誘うように庭の奥へと向かった。
弘樹は立ち上がると、その後ろをついて行った。
林の中を案内するかのようにアゲハチョウは飛んでいく。
そういえばこっちには行ったことがなかったな
そう思った時、木立がなくなり、突然、目の前が開けた。
「うわあ」
弘樹は思わず感嘆の声を上げた。
途切れた林の先には赤、白、黄色、ピンク、色とりどりの花が咲き乱れていた。
風にのって漂ってくる香りに惹かれるように弘樹は近づいていく。
「これって・・・」
アーチ状に這わせている黄色い花の入り口を見つけて入って行くと、花に囲まれるように秋彦が座っていた。
「秋彦」
呼びかけると秋彦はノートから顔を上げた。
弘樹は秋彦のそばへと歩いて行った。
「秋彦、これって」
「バラだよ」
二人で周りを見回した。
そこは丁寧に手入れをされたバラの庭だった。
「バラばっかりなのか?すごいな」
弘樹は、色も形も、こんなにたくさんの種類のバラを見たことがなかった。
座っている秋彦の横には大きな白いバラが咲いている。
弘樹はそのバラの花へとそっと手を伸ばしてみた。
「いたッ」
指先に感じた鋭い痛みに慌てて手を引っ込める。
「大丈夫?」
顔を上げた秋彦が心配そうに覗きこみ、自分の指先を見ようと俯いた弘樹の顔に触れるかと思うほど近くに秋彦の顔が寄ってきた。
驚いた弘樹が痛む指先から顔を離すと、秋彦はその手をそっと掴んだ。
握られた白い指には細く一筋の赤い色が滲んでいる。
「棘が刺さったんだ」
そう言った秋彦が、血が滲んでいる指先を口に含んだ。
「お、お、お前、なにしてっ」
驚いて叫んだ弘樹の顔を秋彦が見上げている
「何って、血が出てたから」
「だ、だ、だからって、な、な、舐めるって」
「血が出たら舐めるんだって」
「お前、誰にそんなこと聞いたんだよ!」
そう言って真っ赤になりながらグイっと手を引いた弘樹は指先がドクドクと熱を持ったように熱くなっていくのを感じていた。
弘樹は自分の指先をジッと見つめた。
真っ赤になった弘樹の横でいつもと同じ顔で立ち上がった秋彦は大きな黄色いバラの花を一輪手折った。
そして、それを弘樹の前に差し出した。
「はい。これあげる」
「え?」
「弘樹、バラが欲しかったんだろ?」
「あ、うん」
弘樹は黄色のバラを受け取りながら、さっき自分が手を伸ばした白いバラの花を見た。
真っ白なバラは手折られることを拒むように立っている。
「このバラなら棘がないから大丈夫だよ」
「ありがと」
貰った黄色いバラからは甘いような石鹸のような、なんだか不思議な香りが広がってきた。
「弘樹、今日は時間大丈夫なの?」
そうだ、今日は書道の日。
「またな、秋彦!」
貰ったバラを握りしめると、弘樹は来た道を歩き始めた。
いつもの秘密基地まで戻った弘樹は置き忘れていた本を見つけて立ち止まった。
バラ園から離れた林の中では、急に手の中にあるバラの香りが強く感じられてくる。
本を拾い上げると、弘樹は持っているバラをみつめた。
太陽の光を集めたような綺麗な黄色の花びらと、ドクンドクンと脈打つ指先。
やっぱ、まだ痛い。
だから、そう、これは怪我の治療なんだ・・
誰にでもなく自分にそう言い聞かせると、弘樹は、指先をそっと口に含んだ。
甘い香りが身体中に広がっていく。
バラ園の中に座っていた秋彦の姿を思い浮かべる。
秋彦にはあの真っ白なバラがよく似合う。
そんなことを考えた自分に、また一人で真っ赤になった弘樹は頭をぶんぶんと振ると、家へ向かって走り出した。
甘くて切ないバラの香りを零しながら。
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プロフィール
HN:
さるり
性別:
女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中
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