【高橋美咲】

自分のせいで誰かが悲しむのはもう嫌だ
そんなことを言ったらみんなが困るから
大丈夫だよと笑う
それなのに
「お前がいないと生きていけない」
そう言うこの人は俺が困ることばかりする
だけど
きっと
ウサギさんがいない世界はもっと困るんだ
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【悩み】

「そんな格好で行くんですか？」
身体のラインが出る薄い生地
「講義もねぇし」
「でも」
「何？」
いつもより開いた襟元
「心配です」
「ワケわかんねーこと言ってんじゃねぇ」
いってらっしゃいのキスで赤くなった顔を見送ってため息を吐いた
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【井坂龍一郎・上條弘樹】

「なあ」
ガキの頃から一緒にいて
兄弟みたいに育ったからこそ
「…やっぱいい」
超えられないものがある
この想いが伝わって欲しいのか
伝わって欲しくないのか
答えは出せないままに
並んで寝そべる俺たちの上に
今年もまた蝉の声が降り注ぐ
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

終戦の日 2014〜2016

「ヒロさん、俺にも来ました」わかっていた。いつか必ず野分を見送る日が来る。俺は万歳なんてしたくない。おめでとうなんて言わない。なんで、なんで、なんで。「そうか、頑張れよ」「はい」行くな、行くな、行くな。死ぬな、死ぬな、死ぬな。なんで俺じゃなくておまえなんだ。
#何の日 終戦記念日

#何の日 終戦の日
今年もまた暑い夏が来た
あれから何度目の夏が来たんだろう
お前が飛んだ空もこんなに青かったんだろうか
『必ず帰ります』
二人だけの約束は守られなかった
「…嘘つき」
空っぽの墓石に蝉時雨が降り注ぐ
俺は永遠に歳をとらない恋人に花を手向けた
#1日1のわヒロ

#何の日 終戦の日②
久しぶりに帰った街にあの人はいなかった
「お前の墓があるってさ」
教えられた場所には見覚えのある後ろ姿があった
照りつける陽射しの下で佇んでいる背中は少し痩せたようだった
「ヒロさん…」
そっと呼びかけた
振り向いたその顔がぼやけて見えた
#1日1のわヒロ

＃何の日 終戦記念日
「ただいまです」
驚く顔に微笑みかける
「お前…どうして」
「ちゃんと約束したじゃないですか」
俺が守りたいものは
「本当に本物なのか？」
「幽霊なんかじゃないです」
国じゃなく
「遅ぇんだよアホ」
「すみません」
あなたとともに生きる世界
＃1日1のわヒロ

【キス】

「シャワー使えよ」
そんなことを平気で言うのは俺のことを意識していないから
わかっている
眠るヒロさんの顔をじっと見つめる
長い睫毛、緩く開いた口
俺じゃない人の名前を呼ぶ唇を塞ぐ
それは酷く甘く柔らかく
プツリと何かが切れる音がした
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【七夕】

『ずっと一緒にいられますように』
その願い事はどの短冊よりも高いところで揺れている
「アホか…」
「ヒロさんのはどれですか？」
珍しく今年は晴れたから
「さあな」
俺の願いも叶ったんだろう
『会えますように』
夜空の二つの星も俺たちも
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【休日】

目が覚めても隣にいる顔に驚きながら
ぼんやりとしたまま黒い睫毛を眺める
薄く開いた唇に指を這わせ
健やかな寝息に呼吸を合わせて
そっと胸に顔を埋める
休日の朝はどこか甘い
久しぶりに嗅ぐ匂いを吸いこんで
もう一度、幸せの余韻へ沈みこんだ
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【丸川書店】

「秋彦！2度と書くなって言っただろ」
怒鳴りこんだ先にいたのは
「久しぶり」
「井坂…さん」
思いがけない顔で
「お前のシリーズ売れてるな」
「アレは俺には関係ないです」
「そっか。じゃあ文句もなしな」
遣り手の社長はにっこりと笑った
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【アイス】

「当たった…」
「ヒロさんすごい」
「お前にやるよ」
「いいんですか？」
「ん」
「俺、大切にします」
「いや、アイスと取り替えろよ」
「そんな。ヒロさんが舐めた棒ですよ。これは一生の宝物に」
「アホか！今すぐ返せッ」
「ダメです」
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【記念日】

うちのカレンダーがやたら赤いのは
「本当の誕生日はわかりませんが
初めて会った日も
初めてご飯を作った日も
初めて好きと言った日も
とにかく全部
ヒロさんと過ごす毎日は俺にとって記念日ばかりなんです」
ンなことを真顔で言うお前のせいだ
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負