何の日 3月19日 2016

ミュージックの日
「懐かしいな」
流れているのはピアノの音色
「知ってるんですか？」
「…ガキの頃に弾いた」
それは有名なセレナーデ
「聴いてみたいです」
「もう指がまわらねぇよ」
握りしめて口づける
この指先にこめていたのはどんな想いだったのだろう
#1日1のわヒロ

何の日 3月18日 2016

点字ブロックの日
「うわっ」
「大丈夫か？」
差し出された手をそっと掴んで立ち上がる
「どこ見て歩いてんだよ」
「ヒロさんです」
「アホか。ちゃんと前見て歩けよ」
「こうすれば大丈夫です」
夜に紛れて手を繋ぎ返す
この手はいつだって俺を導いてくれる
#1日1のわヒロ

何の日 ３月１７日 ２０１６

漫画週刊誌の日
「早く読みたいな」
発売日にクラスメイトは本屋へと走り出す
「上條も後で読む？」
「あー、俺はいいよ」
特別なチカラで世界を救う話より読みたいものがある
それは俺だけが読める物語
そこは二人だけの世界
秘密基地の入り口は秘密の物語の扉
#1日1のわヒロ

何の日 3月16日 2016

財務の日
「野分、たまにはパーッと」
「すみません。そういうのは好きじゃないので」
「お前って欲しいものとか、好きなものとかねーのか？」
それが買えるものならいいのだけれど
「とりあえず書庫のある家が欲しいです」
あの人の好きなものにならいくらでも
#1日1のわヒロ

何の日 3月15日 2016

靴の記念日
「弘樹」
「秋彦？！何してんだよ」
「お前はデートか」
「そんなんじゃねぇって」
「いつもうちのヒロさんがお世話になってます」
頭を下げた先に見えたのは磨きこまれた靴
「うちの、ね」
涼しい顔でそう言うこの人の足元に俺は辿りつけるんだろうか
#1日1のわヒロ

何の日 3月14日 2016

ホワイトデー
「だから、いらねぇって」
「ダメです」
するりとシャツの裾から手を忍びこませて
「お前、どこに」
マシュマロみたいに白くて柔らかな感触を味わい
「やめ…」
キャンディのように甘い唇をゆっくりと舐めた
「お返しです」
「どこがだよ…」
#1日1のわヒロ

何の日 3月13日2016

サンドイッチの日
「先輩、離れて下さい」
「ちょっとくらいいいだろ」
「よくありません」
「ケチケチすんなって、ねえ、上條さん」
「いや、俺は」
「だからヒロさんに触らないで下さい」
「減るもんじゃねーし」
「ダメです」
「俺を挟んで騒ぐんじゃねぇッ」
#1日1のわヒロ

何の日 3月12日2016

スイーツの日
「疲れてる時は甘いものだな」
「そうですね」
「野分も食えよ」
「俺はちょっと」
駆け出した先に立っているのはアノ人
「なるほど」
甘ったるい二人を横目につまんだ菓子はやけにほろ苦くて
「上條さーん」
分けてもらえるはずもないのに歩き出す
#1日1のわヒロ

何の日 3月11日 2016

パンダ発見の日
「寝室にこんなに本を置いてたら危ないですよ」
「わかってるって」
「少し片づけますか？」
「好きなものはそばに置きたいんだよ」
困った顔ごと抱きしめる
「んだよ」
「ありがとうございます」
アメリカ土産のパンダ人形が本棚の中で笑っていた
#1日1のわヒロ

何の日 3月10日 2016

ミントの日
昨夜はあんなに甘くて熱かったのに
「いってきます」
スーツを着た朝の姿はまるで違う人のようだ
「ヒロさん」
重ねた唇は冷たいミントの味がする
「…なげぇよ」
「いってらっしゃい」
本当はその舌が甘くなるまで絡めとりたい、と思いながら離れた
#1日1のわヒロ