何の日 10月13日 2016

麻酔の日
「ヒロさん」
名前を呼ばれて耳が震える
触れられた場所から伝わる熱に指先が痺れてくる
逃げようと思うのに
身体から力が抜けていってしまう
いったい何が入っているんだろうか
重ねた唇から絡めた舌から入りこみ俺を動けなくする
野分のキスはまるで…
#1日1のわヒロ

何の日 10月12日 2016

豆乳の日
『ご飯食べてますか？』
「食ってる」
『野菜もちゃんと食べて下さいね』
「わかってるって」
『ちゃんとパジャマを』
「ガキ扱いすんな」
『ヒロさん』
「なに？」
『好きです』
「アホか」
電話を切って立ち上がり風呂上がりのビールを豆乳にかえた
#1日1のわヒロ

何の日 10月11日 2016

ウインクの日
「別にできなくたって困らねーし」
「そうですよね」
「まさか…お前はできるのか？」
「一応…」
「野分のくせにナマイキだ」
「すみません」
「いいか、俺も絶対できるようになってやる！そしたら見せてやるからな！」
「ありがとうございます」
#1日1のわヒロ

何の日 10月10日 2016

目の愛護デー
「俺だけを見てください」
お前はそんなことを言うけれど
「アホか」
無理に決まってる
「どうしてですか？」
ほら今だって
「どうしてもだ」
その大きくて真っ黒な瞳にあっという間にとらえられて
「ダメですか」
俺はこんなにも弱くなってしまう
#1日1のわヒロ

何の日 10月9日 2016

道具の日
「は？」
「だから好きなのを選んで下さい」
「選ばねぇよ」
「じゃあ俺が選んでいいんですか？」
「そーじゃねぇ」
「じゃあ選んで下さい」
「ンなもん使わねぇって言ってんだよ！」
「でも」
「なくてもいいに決まってるだろボケ」
「頑張ります！」
#1日1のわヒロ

何の日 10月8日 2016

木の日
『今夜はヒノキの湯にしませんか』
確かそう言っていたはず
「野分ー、温泉のもとが入ってねーぞ」
「あ、すみません」
「早く、って、なんで裸で来るんだよ！」
「一緒に入らないとヒロキの湯にはなりませんからね」
「ヒロキ？」
「本当にいい湯ですね」
#1日1のわヒロ

何の日 10月7日 2016

盗難防止の日
金庫の中にしまいこんでおくのが一番だろうか…
「おい、野分」
何重にも巻いた鎖に鍵をかけて繋いで…
「苦しいって」
誰の目にも触れないところに
隠しておいたら…
「いい加減離せ」
「好きです…」
誰にも盗られないように
俺の印を強く刻んだ
#1日1のわヒロ

何の日 10月6日 2016

国際協力の日
「お前もどこかの国に行くのか？」
「行ってもいいんですか？」
「お前の仕事なら、しかたねぇだろ」
「どこにも行きませんよ」
俺にとっての世界の中心はここだから
「本当にいいのか？」
「ヒロさんの方が大事です」
たった一人の笑顔を選ぶ
#1日1のわヒロ

何の日 10月5日 2016

世界教師デー
「ヒロさんに教えてもらいたいです」
「何を今さら」
俺の初めての教え子は
「お願いします」
「やだって」
出会った時と同じ強引さと
「ダメですか？」
「その顔やめろ」
いつの間にか覚えた甘え方で
「上條先生…」
今日も個人授業を迫ってくる
#1日1のわヒロ

何の日 10月4日 2016

古書の日
「ヒロさん」
「…」
ぼんやりとした瞳は未だ別の世界を飛んでいる
「ヒロさん」
「…何？」
手にした本の世界から離れて、俺の方に近づいてくる
まるで
ゆっくりと天空から降りてくるように
「ヒロさん」
両手を広げて俺は俺だけの天使を待ち伏せる
#1日1のわヒロ