frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
一人暮らし
ヒロさんナゼ大学生の頃から一人暮らしなのか、考えた。
2014.7.18 pixiv投稿
える距離なのにねえ。」
何度目かの母親の言葉に対して、俺はもう一度繰り返した。
「俺はできるだけ大学の近くに住みたいんだよ。」
俺の気性を知っている母親は諦めたようにため息をついた。
この春からT大学に通うことになった俺は、念願の一人暮らしをすることになった。実家は通学圏内にあったのだが、実家から出ることは俺の中ではもう決めていることだった。
母親と話をした後、本屋へでも行って気分転換しようと玄関から出たところで、近所に住む幼馴染の姿を見つけた。
「秋彦!」
声をかけると少し驚いたような顔で振り向き、すぐに優しい笑顔になった。
「弘樹、どうしたんだ?」
「本屋にでも行こうかと思って。」
「そうか。」
二人で駅に向かって歩く。
「秋彦は住むところ決めたのか?」
「ああ、田中さんに頼んでるから、そのうち引越しになると思う。」
「あいかわらずだな。」
「弘樹は自宅から通うのか?」
「俺も一人暮らしすることに決めた。」
秋彦は驚いた顔で俺を見た。
「お前は家を出る必要ないだろう?」
秋彦も4月から俺と同じくT大学に通う。もっとも文学部の俺と違って法学部だ。近所なのだから、俺と同じく自宅から通えない距離ではないのだが、こいつの場合は難しい問題が色々あった。
旧財閥宇佐見グループの次男という立場にいながらにして高校生のときに作家としてデビューしていること。
そしてなにより小さいときから、親兄弟とうまくいってないこと。
こいつが家を出ることはわかっていた。
だから、
「俺だって、もう自立しようと思ってんだよ。」
「まあ、俺としては弘樹が一人暮らしだと会いに行きやすいからいいな。」
そんなこと言うから、俺は期待する。
俺は秋彦のことを小学生の頃からずっと見てきた。そして、ずっと片想いをしている。
中学までは同じ学校だったのに、高校は違ってしまった。そしてその間に秋彦には好きな男ができてしまった。
秋彦の好きな男は、秋彦を親友だと思っている。
その関係を大事にする秋彦は伝えることすら叶わない片想いをし続けている。
そして、俺の恋心を秋彦は知らない。
知らないから、俺に自分の好きな男の話をする。
それでも、俺は、秋彦から離れられない。だから、この想いを伝えることもできない。
この膠着状態はもう何年も続いていて、いいかげん俺は限界が近づいていた。
それでも俺はこいつの近くにいたい。誰よりも。
[newpage]
「秋彦!」
大学の正門前のガードレールに座って出てくるのを待つ。
秋彦はいつも一人で無表情に歩いてくるが、俺を見つけたときにほんの少し優しい顔になる。
胸に湧き上がる優越感。
「弘樹、どうしたんだ。」
「いや、秋彦が探してた本を見つけたから持ってきた。ほら。」
本を渡す時にほんの少し指先が触れた。ただ、それだけで、指先に全身の熱が集まるようだ。
「悪いな。貸してくれるのか?」
「いいよ。」
嬉しそうな顔が見れただけで、俺も嬉しくなる。
「今日、よかったら飯でも行かねーか?」
「悪い。今日はタカヒロと約束してるんだ。」
「そっか。じゃあまた今度な。」
「ああ。本、ありがとな。」
「おう。」
なんともない顔を作って別れても、胸の奥の痛みは隠せない。
「くそっ」
俺はタカヒロには敵わない。
わかってる。
一人で飲むか。
「かわいいね。どう?」
むしゃくしゃした日に一人で飲みに行くのは、その手の人が集まる店で、行けば必ず誰かに声をかけられる。
わかっている。こんなことで俺の心は満たされない。それでもどうにもならないほどに苦しくて、何もかも吐き出したくなる。
「いいよ。」
声をかけてきたのは、少し年上の会社員風の男だった。
「どこがいい?」
「俺の家以外ならどこでもいい。」
秋彦の気配がしないところなら、どこでも、だれとでもよかった。
この胸の奥のドロドロとしたものを出すことができたなら、また、俺は秋彦と友達でいることができる。
[newpage]
ピンポーン
ドアを開けると秋彦が立っていた。
「どーした?」
「うん。避難してきた。おじゃまします。」
「おい、勝手に入んなよ。」
そんなことを口では言う。
「今日はなんなんだよ。」
「いや、休みたくてな。」
そう言うと、俺のベッドで寝る姿は昔から変わらない。
お互いに子どもの頃から避難場所を共有してきた。
自分で自分を追いつめる俺を落ち着かせてくれるのはいつだって秋彦の言葉だった。
その頃から感じていた胸の高鳴りは、何年経っても収まることはなくて、俺はもう、限界なんだと思う。
隣にいるだけじゃ足りない。
お前に触れたい。触れられたい。
つい秋彦の指を首を唇を目で追ってしまう。
もう、気づいてくれ。頼むから。
お前は知らない。
お前が帰った後に、どんな思いで俺がその枕に顔をうずめているのかなんて。
どうして俺が一人暮らしをしているのかも。
もう、俺は自分自身を秋彦から解放しなければ、一歩も前には進めない。
「お前の好きなタカヒロだと思って俺を抱けよ。」
俺はなぜ
俺は秋彦の全てを知りたかった。
秋彦に俺の全てを伝えたかった。
なぜ
俺の身体の最奥にまで秋彦に入ってきてもらえれば、俺の心の最奥までわかってもらえるような気がした。
だから
いや
もしかしたら
秋彦を感じたかった
秋彦に俺を感じてもらいたかった
それだけだったのかもしれない
長いこと絡みついていた想いは
こうでもしないと
はなれることもできなかった
俺の長い長い初恋はようやく終わった。
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