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frown

当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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夏雨

今、何時だ?

部屋のソファーで本から顔をあげると時計を見た。

もう、こんな時間か、、

今日はたまたま行った古書店で、探していた本を見つけた。家に帰るいつもの道も鞄に欲しかった本が入っているだけで、足取りが軽くなる。
玄関を開け、リビングに入る。鞄を下ろし、本を出す。ソファに座る。表紙をそっと撫で、ゆっくりめくる。そして、頁を一枚一枚めくっていく。本から立ち昇る紙の匂い、大きく息を吸う。少し古めかしい匂い、頁の立てる音。それらに包まれていくと周りの音は消えていく。

気がつくと外は真っ暗だった。夕飯を作るのも食べるのもすっかり忘れていた。最近はだいぶ日が長くなってきたから、帰って来た時はまだ少し明るかったような気がする。
窓に近寄りカーテンを閉めようとすると、外は静かに雨が降っていた。

いつの間に降っていたんだろう

静かに、しかし止む気配はなく雨は降っている。窓から見える木々の葉も濡れて緑が濃くなったようだ。紫陽花の花の色も雨の中では一層鮮やかにみえる。

野分、傘持って行ったかな?

今朝、家を出るときには青空が広がっていた。野分もまさか降るとは思っていないだろう。スマホを確認するが、特に連絡はきていない。そろそろ野分の今日の勤務時間は終わるはずだ。

『今から傘持って迎えに行くから』

メールを送信して傘を二本持ち、玄関を出た。風のない夜の雨は染み込んでくるように降り続いている。
あの日も雨だったな。
雨の日は野分との思い出が繋がってくる。
野分と出会ってから、もう何年になるだろう。お互いの仕事が忙しく、一緒に暮らしていてもゆっくりと過ごせることが少ない。

野分

今日、一緒に帰れたら、なに話そう。

持っている野分の傘をクルリと回した。

[newpage]

夜とはいえ、野分の勤めている病院はどこかで人の出入りがあるのが感じられる。

今日も急患で遅くなるかもな

自分の使ってきた傘の水気を払って閉じ、夜間入口から入ってスマホを確認する。返信のないのをみてから待合室のイスに座り、メールを送る。

『今着いた。待合室にいる。』

夜の病院の待合室は灯りも必要最低限しかついていないし、なにより不思議な静寂に包まれている。

非常口の緑色の灯りのせいかな

この感じ、何かに似ている。そうだ、大学の夜の校舎の中だ。
日中は大勢の人が出たり入ったりしている建物は夜になると疲れるのかもしれない。同じ建物とは思えない程に、現実のものというよりは夢の中のような色彩を放っている。
スマホを握りしめ、誰もいない待合室のイスの背に体重を預けて、目を閉じた。
静かで薄暗いせいか、そのまま眠りに落ちていた。




、、、、?。

誰かが、髪に触れている
この匂いは、消毒の、、

、、野分?

髪の毛にそぅっと触れてくる手に、眠っていた意識が少しずつ戻ってきた

気持ちいい、、

眠気に勝てなくて目を閉じたまま、その手の方に頭を傾ける。触れていた手は髪の毛の中に指を入れて耳の後ろを撫でてきた。

野分、、、くすぐったいって

優しく撫でる手が気持ちよくて、また瞼が重くなる。

このまま、、眠っていたい

野分

頭を撫でていた手が顔にうつってきた
頬を包むように撫でられる
俺を触っているひんやりした手の感触が直に解る。

冷たい

ちがう

この手は、野分じゃ、ない

目を開けると目の前には白衣を着ているが野分じゃない顔があった。
そこにはあったのは野分の先輩の

津森、、さん?

え?

まだ、頭がボンヤリしている俺は、声も出ない。

彼は両方の手で俺の顔を挟むように支えると、そのまま顔を寄せる。

なに?

津森さんの顔が俺に近づいてくる

俺は瞬きもできずに、津森さんの目を見ていた

津森さん、なんで、ここに?

「ヒロさんッ!!」

俺の顔を触っていた手が離れたと思ったら津森さんの身体はすごい勢いで後ろに引っ張られていた。彼の襟首を猫の子のように掴んでいるのは、、

「野分。」

俺の前に立っている野分の息が荒い。まだ夢でも見ているような感じがする俺は、自分の声すらどこか遠くから聞こえてくる。ああ、そうかここは野分の病院だったんだ、俺は迎えに来たんだった。やっとばらばらになった意識のパズルが元ある場所に収まってきた。

あれ、じゃあ、さっきのことはなんだったんだろう。

まだぼんやりしている俺の腕が野分に強く掴まれた。そのまま引っ張られて身体がイスから離れた。

「ちょっ、野分いてーよ。」

慌てて傘を手に取る。俺の腕を掴んだまま、歩いていく野分は俺より背が高いこともあって歩幅も大きい。引きずられるような形になってしまっている。

「おい!野分!!」

何も言わない野分の後ろ姿に話しかける。病院の出入り口まで来てやっと野分の足が止まった。振り返って、俺を見る。

「ヒロさん。」

俺をじっと見つめるその目はいつもよりさらに深い黒色に光る。まるで漆黒の海に飲み込まれそうな気持ちになる。

「なんだよ。」

俺は思わず目を逸らした。
野分は大きくため息をついた。そして硬い声で言った。

「ヒロさん、自分が何されたかわかってるんですか?」

何って、何だよ。さっきの顔を触られたことかよ。

「あんなの、アイツのいつものイタズラだろ、、。ちょっとふざけたんだろう、どうせ。」

そうに決まっている。アイツはいつも俺の事をからかってくる。多分、野分のことを気に入っているから、俺が気に入らないんだ。以前も野分に抱きついたりしてたし、、、。

「ヒロさん。本当にそう思っているんですか?」

野分が俺の目を見て聞く。野分の目はいつもより少し細くなっている。その漆黒の瞳はまるで光を拒むかのように深い。
怒っている。
普段激しい感情を表には出さないが、野分が身体の中に持っている荒々しさを俺は知っている。
でも、今、俺が怒られる理由がわからない。

「アイツは俺と野分のことをよく思ってないみたいだから。」

こんなことをいう自分が恥ずかしい。いたたまれなくなって床に視線を落とした。

「ヒロさんは、隙がありすぎです。」

はぁ?何言ってんだコイツは。俺のどこに隙があるんだよ。つーか隙ってなんだよ。

「お前、何言って、、」

顔を上げ、反論しようとした口が野分の唇に塞がれた。不意をつかれて一瞬我を忘れそうになった。

「バカか!」

力任せに腕を振りほどいて引き剥がす。

「ここ、どこだと思ってんだよ!」

俺の言葉が聞こえないかのように、野分は俺の腕をもう一度掴むと自分の胸に俺の顔を引き寄せた。そのまま背中に腕を回すと強い力で抱きしめられた。

「今だってそうです。そんな顔を見せられたら、誰だって、我慢できないです。」

何言ってんだよ

どれ位そのままでいただろうか。やっと野分の力が緩んだのを感じて、俺は腕を伸ばして野分から離れた。

「ヒロさん。」

そう言って今度は手を伸ばしてきた。俺の手を握り、見下ろす顔は怒っているようで、それでいて泣きそうで。

「よくわかんねーよ。」

目を逸らしながら呟いた。握られた手に力がこもる。

「隙があるとか、俺よくわかんないから。だから、気をつけようがねえっていうか、、」

ふぅーっと息を吐く音がして、野分の肩が下がる。

「いつも言ってますが、ヒロさんはかわいいんです。だからあんな風に寝てたり、赤くなった顔を見せたりしたらダメです。」

野分の理屈には納得いかなかったが、津森に触られたことは俺の不注意のせいかもしれない。ここは、謝っておくべき、か。

「、、、わかった。気をつける。」

野分は俺の頬を掌で触った。

「津森先輩には、俺から言っておきます。」

今度は俺が大きなため息をつきながら、持ってきた傘を渡した。二人で傘を開いて夜間出入り口から外へと歩き出す。まだ、雨は静かに降っている。

「野分、俺は男だぞ。」

傘で顔を隠しながら低い声で言う。

「わかってます。」

野分は俺の方を真っ直ぐに見ながら返事をする。なんでそんな風に言うんだ、こいつは。

「かわいくねぇって言ってんだろ。」
「ヒロさんはかわいいです。」

なんで即答なんだよ、、、。

「それに、、。」

傘を傾けて空を見上げながら野分は言う。

「雨の日には特に気をつけて下さい。」

どういう意味だよ、それ。意味がわかんねー。

音もなく降り続ける雨の中、二人で傘をさして歩いた。
俺はこうして二人で一緒に歩くだけでも嬉しいのにな。

それが例え雨の中でも。

雨の夜はいつもより暗く、水たまりに鈍く反射する街灯やヘッドライトの光りが時々きらめく。着ているシャツも湿気のせいでいくらか身体に張り付くような感じになっている。雨でいつもより僅かに重くなった髪の毛をかきあげて空を見上げた。
横を歩く野分を見ると大きく目を見開いて俺を見ている。

「どうした?顔赤いぞ。寒いのか?」
「大丈夫です。ヒロさん、早く帰りましょう。」
そう言うと歩く速度が速くなった。
「おいっ!待てよ。」
二つの傘は、近づいたり離れたりと揺れながらそれでも並んで進んでいく。
「ヒロさん、傘ありがとうございます。でも、俺の分は持って来なくてよかったのに。」
「はぁ?それじゃ迎えに行く意味ないだろ。」
野分はにっこりと笑う。
「二人で一つの傘に入って帰ればいいです。」
「バカか。男二人でなんて入りきれねえよ。」
「くっついたら大丈夫です。」
「野分ッ!」
野分は傘を傾けて空を仰ぐと
「今は小雨になっているし。」
そう言うと自分の傘を閉じ、俺の傘の柄を持った。
「ほら、大丈夫ですよ。ヒロさん。それにこんな時間だし、誰も見てませんよ。」
二人で一つの傘に入って歩いていく。時々肩に触れる野分の熱を感じながら。

二人でも、、大丈夫だな

きっといろんなことが二人でも大丈夫

そして、二人なら大丈夫、だといい。

雨は静かに降っている。






-----あとがき---------
2014.6.18 pixivに投稿
私の中では雨といえばヒロさんです。ヒロさんの話を書こうと思う時、雨の日ばかりがうかびます。

まだ、どちらかといえば、セカコイをカキカキしてたんですが、このへんで、ヒロさんにハマったと思われます。
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