frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
涙の雨
胸の奥、俺にとってはほとんど存在を忘れているような場所。
もう、長いこと閉じたままの場所。
その存在を思い出すのは禁忌。
もう、長いこと閉じたままの場所。
その存在を思い出すのは禁忌。
**********
俺の研究室である膨大な本の樹海の中から声がする。
「宮城教授、マジで片づけて下さい。危ないですよ。」
コイツはT大学の文学部を首席で卒業、大学院を経て、研究者への道を求めて俺の研究室に入ってきた。真面目だし、文学に真剣に取り組んでいる。
しかし、あいつの特筆すべき美点は「純情」
それもイマドキ珍しい位のレベルだ。
どうやって育てたのか一度、親御さんに伺いたい。
これはもう、ちょっかいかけるなって言うのが無理な話だ。
「かーみーじょーお。」
いつものようにふざけて後ろから抱きついた。
ふざけて、だけど抱き心地がいいんだよなぁ、コイツ。男にしては華奢な骨格に丁度いい具合の筋肉がついてて。思わずぎゅうッと力が入る。
抱きついた勢いで髪の毛に顔をうずめる。サラサラの手触りの薄茶色の柔らかい髪も気持ちいい。癒されるわ。
予想通り、眉間に皺をよせながら振り向く。怒って紅潮した色の白い顔は茶色の垂れ目が年齢よりも幼く見せる。
「教授、やめて下さい。セクハラですよ。」
この反応がたまらん。
「また、眉間にシワよってんぞー。かわいい顔がだいなしだー。」
「誰のせいですか!」
毎日の恒例行事のようなじゃれあいは俺にとって心地よい。
俺は、人並みに結婚もしたけれど、完全に流されてだったと思う。どうでもよかった。もしかしたら誰とでもよかったのかもしれない。
そんな結婚生活が長く続くはずもなく、嫁に男ができて、終わった。
その時も、なんの感情も生まれなかった。
理由はわかっている。
俺は一生誰かを好きになることはない。
俺の胸の奥はもう動かない。
恋人を作るとか面倒なことはしたくない。上條とこうやってじゃれあっている位の人間関係が一番よかった。
なんだろ、男子中学生みたいだな。
ただ、そんな俺の癒しである上條の様子がおかしい。
一年前もおかしな時期があった。
誰かに相談したりするタイプじゃないようだから、その時はきっと一人で乗り越えたんだろう。
コイツは誰かに自分の弱い部分を見せることを極端に嫌っている。
そう、優しい見た目と違って誇り高い男。
そこがまたイイんだけどな。
上條をじっと見る。
やっぱり、あきらかに変だ。
いつものように講義をこなしてはいる。俺の手伝いもしてくれている。こいつのプライドにかけて「いつも通り」きっちりとやっているのだろう。でも、その自分ではしっかりと着込んでいると思いこんでいる鎧から、必死に隠している震える心が垣間見える。
コイツは多分気づいてない。
誰よりも高いプライドと傷つきやすい心を持って立っている自分の姿の危うさに。
恋愛関係の悩みか?
俺の離婚話をとっかかりにして聞いてみたら「彼女」はいないという。
「彼女」はね。
上條の机の上にクシャクシャに丸められたメモが置いてあった。珍しいと思わず手に取り、広げてみる。
『行ってきます 野分』
なんだ?どこへ行くんだろう。
さっぱり分からないメモだった。
煙草に火をつける。
紫煙を眺めながら考える。そういえば上條から女の気配を感じたことはない。いい男だと思うんだが、コイツが女に対して向ける視線に特別なものが混じらないのは何故なんだろう。
研究にしか興味がないのか?
**********
あれから数日経つが、もはや放っておけない位にコイツが弱っているのが感じられる。わざと雑用を押しつけて、一人で考える時間を作らないようにしているが、せめて、俺にだけでも相談してくれたらいいのにと思う。
「どうした?何かイヤな事でもあったか?」
俺の問いかけにあからさまに固まり、目の端を赤くした。そのくせに返事は
「べ 別に何もありませんよ」
まただ。
決して自分の悩みを見せようとはしない。こんなにわかりやすく態度に表れてんのにな。
悩みを打ち明けることができたら楽になるだろうに。コイツは楽になる道を決して選ばない。
俺じゃダメなのか。
研究室を出て、コピー用紙を補充しに行く。またバカなことでも言ってからかってやれば、少しは上條の気持ちも紛れるってもんだろう。こう見えて心配してんだぞ。
そう思いながら戻ると研究室の前が騒がしい。
なんだ?
随分と背の高い男の子が研究室の閉じたドアに向かって必死に話しかけている。見た感じは、、学生か?
「何だ何だ大声出して」
振り向いた子は漆黒の髪に、吸い込まれそうな真っ黒な瞳を持っていた。整った顔立ちだったが、今は眉を寄せ今にも泣きそうな表情をしている。
「何かあったのか?」
あまりにも切羽詰まった様子に驚いて聞いてみたが何も答えず立ち去ろうとした。
「ウチの学生?」
「いえ、失礼します。」
何だ?こいつ。見たことないヤツだ。とりあえずコピー用紙の束で手が塞がっているからドアを開けてもらわないと中に入れない。
俺は閉じたドアの前に立つと大きな声で上條を呼んだ。
「かーみーじょーお、あーけーてー」
ドアが開いた。いつものようにふざけながら入る。
「おお〜寂しかったよマイスィートハニ〜〜〜〜〜❤️❤️」
研究室に入ると上條が見たこともないような表情をして立っていた。
おい。なんだよソレ。どうしたんだ。
「何だお前ものすごい顔してるぞ。言ったろ眉間にシワ寄せんなって。せっかくのカワイコチャンがーーー」
そこまで言って気がついた。
さっきの子が廊下に立ち尽くしている。俺の顔を凝視したまま、無言で。
なんだ。
お前、上條のなんなんだ。
俺は、何も言わずドアを閉めた。
**********
研究室の上條の机の上で電話が鳴っている。
席を外している上條の代わりに電話に出た。
「ヒロさんですか?野分です。あの、、」
「はい?」
ヒロ、さん??
驚いて聞き返した俺の声に電話の相手は慌てて言い直した。
「あれ?あ、すみません。上條助教授お願いします。」
席を外していることを告げる。
「伝言なら伝えますが。」
そう言った俺に電話の相手はこう言った。
『野分ですが、今日急用が入ったので待ち合わせに遅れるかもしれませんが、必ず行きますから、待ってて下さい。』
俺が電話を切るのと同時に上條が戻ってきた。
頭の中で今の電話の声を反芻する。
あの声は、今朝の背の高い男の子の声だ。あの時の二人の様子は普通の言い争いとかとは違った。そう、あれは、多分、痴話喧嘩に近い雰囲気だった。
なんで、男同士なのにそんな感じにみえたんだろう?
『のわき』って名乗ったな。どこかで聞いたような気がする。煙草をくわえ火をつける。
のわき、のわき、、野分。煙を深く吸い込む。あのメモの名前。
ーーー行ってきます 野分。
煙草を指に挟んで上條を見る。PCに向かう横顔はこころなしか赤い。
なあ、上條。あいつはお前のなんなんだよ。俺の聞きたいことは声にならず、煙草の煙とともに消えていった。
俺は電話の相手に頼まれた伝言を上條に伝えなかった。
俺は何をしようとしているんだろう。
**********
研究室で一人仕事をしていた。時計が20:00をしめすころ突然窓ガラスに大粒の雨がぶつかってきた。
晴れてたのにな。
そう思いながら仕事を続ける。本当は心に引っかかっていることがあるのに、敢えてそのことを考えないように。
21:00を過ぎ、ようやく帰る支度をする。強張った身体を伸ばしながら鞄を抱えて廊下に出た。
灯りが減らされた夜の大学の廊下に佇む人影に気づき心臓が止まりそうになった。
「うわっ!びっくりしたっ!!あれ?」
そこに立っていたのは
「上條?」
頭のてっぺんから爪先まで、びしょびしょに濡れた上條がぼんやりと立っていた。
傘も差さずに歩いて来たのか。
タオルで頭を拭いてやる。
この雨の中、こんな風に歩いて来たのは、あの「野分」と会えなかったからだろう。
そんなにアイツが好きなのか。
もう、いっそコイツを、そのプライドごとメチャクチャにしてしまいたい。そうしたら、俺にその頑なな心をさらけ出してくれるんじゃないか、、。
残酷な己の欲求に抗えなかった。
俺はタオルで上條の頭を拭きながら何気ない風に言った。
「どうしたフラれたか?」
そんな俺の言葉に、上條はいつもの様に強がりを言おうとして、言葉が止まり、そのかわりに大きな瞳から涙が溢れてきた。
人に弱味を見せることを嫌う男が、決して人には見せたくなかったであろうその涙はあまりにも美しく。
その泣き顔は俺の理性を吹き飛ばした。
この顔に魅せられない男はいない
俺は頭を拭いていたタオルごと強く抱きしめ、囁いた。
「上條、お前さ、完全武装してるつもりで実はスキだらけって事、自覚してねーだろ。」
だから、これはお前の罪。
驚く上條の顎を人差し指で持ち上げ、俺は唇を重ねようとした。
次の瞬間、俺の身体は激しく壁に打ちつけられていた。頭を強くぶつけ、息ができない位の衝撃が喉を襲った。
「野分やめろ!!馬鹿野郎やめねーか!!」
上條の声が聞こえる。
真黒な風が上條を連れ去って行った。
ようやく息が整って、立ち上がる。痛む頭をさすりながら周りを見渡すと、廊下の今まで上條がいたと思われる場所にはタオルだけが残っている。
それを見て、今の出来事が現実だったと思い知る。
美しい魔物に魅入られた男の気持ちが初めて理解できた。
煙草に火をつける。壁に寄りかかって座り、ボンヤリと煙をはいた。
俺は自分のお気に入りの人形を取られまいとする子どもだったんだろうか。
自分の胸の奥には誰も立ち入れないくせに誰かの心を見たがった罰だろうか。
雨はまだ激しく降っている。
上條、あの野分って奴と仲直りしたのかな。
煙草の煙とともに俺の一晩の幻も消してしまおう。そう思い、もう一本煙草をくわえた。
芭蕉野分して盥に雨を聞く夜かな
松尾芭蕉
-----あとがき------------
2014.5.25
pixivに投稿したエゴss 2作目
コミックに忠実になぞって、コミックに描かれていない宮城の気持ちを書く、というのをナゼかしたかった。
今、読むと、、本当にカスピ海に沈めたいです...。
俺の研究室である膨大な本の樹海の中から声がする。
「宮城教授、マジで片づけて下さい。危ないですよ。」
コイツはT大学の文学部を首席で卒業、大学院を経て、研究者への道を求めて俺の研究室に入ってきた。真面目だし、文学に真剣に取り組んでいる。
しかし、あいつの特筆すべき美点は「純情」
それもイマドキ珍しい位のレベルだ。
どうやって育てたのか一度、親御さんに伺いたい。
これはもう、ちょっかいかけるなって言うのが無理な話だ。
「かーみーじょーお。」
いつものようにふざけて後ろから抱きついた。
ふざけて、だけど抱き心地がいいんだよなぁ、コイツ。男にしては華奢な骨格に丁度いい具合の筋肉がついてて。思わずぎゅうッと力が入る。
抱きついた勢いで髪の毛に顔をうずめる。サラサラの手触りの薄茶色の柔らかい髪も気持ちいい。癒されるわ。
予想通り、眉間に皺をよせながら振り向く。怒って紅潮した色の白い顔は茶色の垂れ目が年齢よりも幼く見せる。
「教授、やめて下さい。セクハラですよ。」
この反応がたまらん。
「また、眉間にシワよってんぞー。かわいい顔がだいなしだー。」
「誰のせいですか!」
毎日の恒例行事のようなじゃれあいは俺にとって心地よい。
俺は、人並みに結婚もしたけれど、完全に流されてだったと思う。どうでもよかった。もしかしたら誰とでもよかったのかもしれない。
そんな結婚生活が長く続くはずもなく、嫁に男ができて、終わった。
その時も、なんの感情も生まれなかった。
理由はわかっている。
俺は一生誰かを好きになることはない。
俺の胸の奥はもう動かない。
恋人を作るとか面倒なことはしたくない。上條とこうやってじゃれあっている位の人間関係が一番よかった。
なんだろ、男子中学生みたいだな。
ただ、そんな俺の癒しである上條の様子がおかしい。
一年前もおかしな時期があった。
誰かに相談したりするタイプじゃないようだから、その時はきっと一人で乗り越えたんだろう。
コイツは誰かに自分の弱い部分を見せることを極端に嫌っている。
そう、優しい見た目と違って誇り高い男。
そこがまたイイんだけどな。
上條をじっと見る。
やっぱり、あきらかに変だ。
いつものように講義をこなしてはいる。俺の手伝いもしてくれている。こいつのプライドにかけて「いつも通り」きっちりとやっているのだろう。でも、その自分ではしっかりと着込んでいると思いこんでいる鎧から、必死に隠している震える心が垣間見える。
コイツは多分気づいてない。
誰よりも高いプライドと傷つきやすい心を持って立っている自分の姿の危うさに。
恋愛関係の悩みか?
俺の離婚話をとっかかりにして聞いてみたら「彼女」はいないという。
「彼女」はね。
上條の机の上にクシャクシャに丸められたメモが置いてあった。珍しいと思わず手に取り、広げてみる。
『行ってきます 野分』
なんだ?どこへ行くんだろう。
さっぱり分からないメモだった。
煙草に火をつける。
紫煙を眺めながら考える。そういえば上條から女の気配を感じたことはない。いい男だと思うんだが、コイツが女に対して向ける視線に特別なものが混じらないのは何故なんだろう。
研究にしか興味がないのか?
**********
あれから数日経つが、もはや放っておけない位にコイツが弱っているのが感じられる。わざと雑用を押しつけて、一人で考える時間を作らないようにしているが、せめて、俺にだけでも相談してくれたらいいのにと思う。
「どうした?何かイヤな事でもあったか?」
俺の問いかけにあからさまに固まり、目の端を赤くした。そのくせに返事は
「べ 別に何もありませんよ」
まただ。
決して自分の悩みを見せようとはしない。こんなにわかりやすく態度に表れてんのにな。
悩みを打ち明けることができたら楽になるだろうに。コイツは楽になる道を決して選ばない。
俺じゃダメなのか。
研究室を出て、コピー用紙を補充しに行く。またバカなことでも言ってからかってやれば、少しは上條の気持ちも紛れるってもんだろう。こう見えて心配してんだぞ。
そう思いながら戻ると研究室の前が騒がしい。
なんだ?
随分と背の高い男の子が研究室の閉じたドアに向かって必死に話しかけている。見た感じは、、学生か?
「何だ何だ大声出して」
振り向いた子は漆黒の髪に、吸い込まれそうな真っ黒な瞳を持っていた。整った顔立ちだったが、今は眉を寄せ今にも泣きそうな表情をしている。
「何かあったのか?」
あまりにも切羽詰まった様子に驚いて聞いてみたが何も答えず立ち去ろうとした。
「ウチの学生?」
「いえ、失礼します。」
何だ?こいつ。見たことないヤツだ。とりあえずコピー用紙の束で手が塞がっているからドアを開けてもらわないと中に入れない。
俺は閉じたドアの前に立つと大きな声で上條を呼んだ。
「かーみーじょーお、あーけーてー」
ドアが開いた。いつものようにふざけながら入る。
「おお〜寂しかったよマイスィートハニ〜〜〜〜〜❤️❤️」
研究室に入ると上條が見たこともないような表情をして立っていた。
おい。なんだよソレ。どうしたんだ。
「何だお前ものすごい顔してるぞ。言ったろ眉間にシワ寄せんなって。せっかくのカワイコチャンがーーー」
そこまで言って気がついた。
さっきの子が廊下に立ち尽くしている。俺の顔を凝視したまま、無言で。
なんだ。
お前、上條のなんなんだ。
俺は、何も言わずドアを閉めた。
**********
研究室の上條の机の上で電話が鳴っている。
席を外している上條の代わりに電話に出た。
「ヒロさんですか?野分です。あの、、」
「はい?」
ヒロ、さん??
驚いて聞き返した俺の声に電話の相手は慌てて言い直した。
「あれ?あ、すみません。上條助教授お願いします。」
席を外していることを告げる。
「伝言なら伝えますが。」
そう言った俺に電話の相手はこう言った。
『野分ですが、今日急用が入ったので待ち合わせに遅れるかもしれませんが、必ず行きますから、待ってて下さい。』
俺が電話を切るのと同時に上條が戻ってきた。
頭の中で今の電話の声を反芻する。
あの声は、今朝の背の高い男の子の声だ。あの時の二人の様子は普通の言い争いとかとは違った。そう、あれは、多分、痴話喧嘩に近い雰囲気だった。
なんで、男同士なのにそんな感じにみえたんだろう?
『のわき』って名乗ったな。どこかで聞いたような気がする。煙草をくわえ火をつける。
のわき、のわき、、野分。煙を深く吸い込む。あのメモの名前。
ーーー行ってきます 野分。
煙草を指に挟んで上條を見る。PCに向かう横顔はこころなしか赤い。
なあ、上條。あいつはお前のなんなんだよ。俺の聞きたいことは声にならず、煙草の煙とともに消えていった。
俺は電話の相手に頼まれた伝言を上條に伝えなかった。
俺は何をしようとしているんだろう。
**********
研究室で一人仕事をしていた。時計が20:00をしめすころ突然窓ガラスに大粒の雨がぶつかってきた。
晴れてたのにな。
そう思いながら仕事を続ける。本当は心に引っかかっていることがあるのに、敢えてそのことを考えないように。
21:00を過ぎ、ようやく帰る支度をする。強張った身体を伸ばしながら鞄を抱えて廊下に出た。
灯りが減らされた夜の大学の廊下に佇む人影に気づき心臓が止まりそうになった。
「うわっ!びっくりしたっ!!あれ?」
そこに立っていたのは
「上條?」
頭のてっぺんから爪先まで、びしょびしょに濡れた上條がぼんやりと立っていた。
傘も差さずに歩いて来たのか。
タオルで頭を拭いてやる。
この雨の中、こんな風に歩いて来たのは、あの「野分」と会えなかったからだろう。
そんなにアイツが好きなのか。
もう、いっそコイツを、そのプライドごとメチャクチャにしてしまいたい。そうしたら、俺にその頑なな心をさらけ出してくれるんじゃないか、、。
残酷な己の欲求に抗えなかった。
俺はタオルで上條の頭を拭きながら何気ない風に言った。
「どうしたフラれたか?」
そんな俺の言葉に、上條はいつもの様に強がりを言おうとして、言葉が止まり、そのかわりに大きな瞳から涙が溢れてきた。
人に弱味を見せることを嫌う男が、決して人には見せたくなかったであろうその涙はあまりにも美しく。
その泣き顔は俺の理性を吹き飛ばした。
この顔に魅せられない男はいない
俺は頭を拭いていたタオルごと強く抱きしめ、囁いた。
「上條、お前さ、完全武装してるつもりで実はスキだらけって事、自覚してねーだろ。」
だから、これはお前の罪。
驚く上條の顎を人差し指で持ち上げ、俺は唇を重ねようとした。
次の瞬間、俺の身体は激しく壁に打ちつけられていた。頭を強くぶつけ、息ができない位の衝撃が喉を襲った。
「野分やめろ!!馬鹿野郎やめねーか!!」
上條の声が聞こえる。
真黒な風が上條を連れ去って行った。
ようやく息が整って、立ち上がる。痛む頭をさすりながら周りを見渡すと、廊下の今まで上條がいたと思われる場所にはタオルだけが残っている。
それを見て、今の出来事が現実だったと思い知る。
美しい魔物に魅入られた男の気持ちが初めて理解できた。
煙草に火をつける。壁に寄りかかって座り、ボンヤリと煙をはいた。
俺は自分のお気に入りの人形を取られまいとする子どもだったんだろうか。
自分の胸の奥には誰も立ち入れないくせに誰かの心を見たがった罰だろうか。
雨はまだ激しく降っている。
上條、あの野分って奴と仲直りしたのかな。
煙草の煙とともに俺の一晩の幻も消してしまおう。そう思い、もう一本煙草をくわえた。
芭蕉野分して盥に雨を聞く夜かな
松尾芭蕉
-----あとがき------------
2014.5.25
pixivに投稿したエゴss 2作目
コミックに忠実になぞって、コミックに描かれていない宮城の気持ちを書く、というのをナゼかしたかった。
今、読むと、、本当にカスピ海に沈めたいです...。
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プロフィール
HN:
さるり
性別:
女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中
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