frown
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寝ても醒めても 1
秋彦の前ではやけに気を許しているヒロさんのお話。
2017.4.2 投稿
誘ったのは俺からだったが
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
広いリビングの中に笑い声が響く。
「弘樹、そろそろ帰ったらどうだ」
飲み始めて5時間。さすがにこれ以上飲ませると色々な意味で面倒なことになると判断して声をかけると飲んだワインよりも赤い顔をした幼なじみは、子どもの頃のようにぷくりと頬を膨らませ、鈴木さんに抱きついた。
「なんだよ秋彦。どーせお前も今夜は一人なんだろーが」
どうせ、と自嘲気味に言った弘樹の瞳がゆらりと揺れた…ような気がした。こんな顔を目にすると、例の背の高い彼に対して微かな苛立ちを覚える。
この俺を睨みつけ、もらいますと宣言した彼と弘樹が幸せに暮らしていることはわかっているのだが。時折見せる寂しそうな姿を、きっとあの彼には見せていないのだろう。いくら研修医の仕事が忙しいとはいえ、強そうで実は脆い幼なじみを、もう少し大事にしてやれないものかと秋彦は燻りそうな気持ちごと手の中の煙草を灰皿に押しつけた。
もちろん、弘樹は自分のモノではないし、見ず知らずの男にもらいますと宣言される筋合いなどはないのだが、それでも自分にとって大切なものを粗末に扱われるのは些か面白くない。
「一人ぼっちのお前の家に遊びに来てやったんだから、ありがたく思えっての」
子どもの頃からこういうところは変わらない。自分の弱さを見せたがらない負けず嫌いな言い草に、つい辛辣な言葉で応じてしまった。
「確かに俺は今日は一人だ。だが弘樹、お前は今日だけ一人ってわけでもないんだろう」
「うっせーよ」
図星をつかれた弘樹はやや八つ当たり気味に 鈴木さんに抱きついた。
「おい、そんなに強く抱きつくな」
鈴木さんを助け出そうと伸ばした腕がパシンと乱暴に払われる。
「今日は鈴木さんと一緒に寝る」
泊まっていけとも言ってないのに勝手に宣言した弘樹はシュルシュルとネクタイを外し始めた。止める間もなくジャケットも放り投げられ、ベルトまでも勢いよく引っこぬかれる。
床の上にばらばらと脱いだ服が散らばった。
「泊まっていくのか?」
「いいだろ?」
「別にかまわんが、無断で外泊して大丈夫なのか?」
「ガキじゃあるまいし、いいに決まってんだろ」
すっかり帰る気をなくした弘樹はワイシャツの前をはだけてソファーにひっくり返った。
ブブブブブ、とまるで抗議の声を上げるように、テーブルの隅で弘樹のスマホが震えだす。
「おい、電話だぞ」
「ンだよ、めんどくせーからお前が出ろ」
「いいのか?」
「いいって」
面倒なことになったと思いつつ、画面に光る名前の主はどう思うだろうか、と悪戯めいた気持ちに押されて秋彦は通話ボタンを押した。
少し焦ったような声が耳に流れこむ。
「ヒロさん、今どこに」
「もしもし」
電話の向こうで息をのむ音が聞こえた。
「もしもし」
「・・・宇佐見さんですか。すみませんがヒロさんをお願いします」
さっきとはうってかわって、硬い声が、礼儀正しい言葉遣いに固められて押し出されてきた。
「弘樹なら酔いつぶれている。今日は泊まっていくと言っているが」
「夜分にすみませんが、今から迎えに伺いますので」
すみませんとは言いつつも、有無を言わさぬ勢いで通話は途絶えた。切れたスマホを手に一人でくつくつと笑いながらソファーをのぞきこんだ。
「弘樹」
ものすごい勢いでここに向かっているであろう恋人を悩ませている本人は、半分脱げたワイシャツをひっかけて、ズボンの前さえも緩めて、自分の家にでもいるかのような格好で寝ている。
「弘樹、迎えが来るぞ」
声はかけたものの、起きる気配もない。そういえば、こういうシチュエーションについての相談を相川にされたな、と無防備に寝そべっている弘樹を改めて眺める。
男にしては細い身体つきに、アルコールでやや赤く染まっている白い肌。
見慣れている自分にとってはどうってことのない様ではあるが、脱げかけている、というこの構図はなかなかにそそるものがある。
新しい作品のネタにもなるかもしれないと自分のスマホのカメラを向ける。カシャカシャと数回シャッターを切ってから、ブランケットを取りに階段を上がった。
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