frown
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寝ても醒めても 2
秋彦の前では無防備になるヒロさんのお話。
2017.4.4 投稿
その声に仕事明けの眠気がふっとんだ。
思いがけなく仕事から解放されて、久しぶりに帰った自宅。
「ただいまです」
玄関のドアを開ける。
微かなヒロさんの匂いに頬が緩む。ようやく帰ってきた喜びのままに一番会いたい人を探す。けれども、リビングも寝室も真っ暗で冷え切っていて、そこにいるはずのヒロさんの姿はなかった。
こんな夜遅くまでどこに行っているんだろうか。
一緒に暮らしているのに、週に一度帰ることさえままならないのは俺の仕事のせいで。それでもヒロさんは文句を言うことも愚痴をこぼすこともほとんどない。そんな俺が珍しく予定よりはやく帰ってきた時にたまたまいないからって文句を言うつもりはないけれど。
リュックを下ろして手を洗う。
あんなに帰ってきたかった自分たちの家なのに、ひどく寒々しくて鏡の前で立ちつくす。
ヒロさん、どこで何をしているんだろう。
メールもきてないし、カレンダーにも何も書いてない。
俺より年上だし、仕事の出来る人だけど、ヒロさんは出会った時から驚くほど無防備な人だ。他人に気を許していないようでいて、実は優しいところとか、自分に向けられている好意に対して鈍いところとか。自分ではそんなつもりがないところがさらに困ったところで。
そんなこと言うのはお前だけだって、俺のことを笑うけれど、あんなに可愛い人なのに、自分の魅力に対して無自覚で無防備で、放っておけるわけがない。
もっとも俺もそんなヒロさんの無防備さにつけこむように近づいたのだけど。
とりあえず、どこにいるのかだけでも確かめておかないと眠ることさえできないとかけた電話が通じてホッとしたのもつかの間、聞こえてきたのはヒロさんの声じゃなかった。
「もしもし」
低く落ち着いた声。この声を聞き間違うわけがない。
「・・・宇佐見さんですか」
ヒロさんにとって宇佐見さんは、一番仲の良い友人で、気を許している人で。そんな人と一緒にいるんだから俺は安心するべきなんだろうけど。
「今すぐ迎えに伺います」
今日は泊まると言ってる、という宇佐見さんの声を遮るようにそう言うと、俺はスニーカーを履いて駆け出した。
マンションのエレベーターに乗って最上階、ワンフロア全てを占めている部屋。
はぁはぁと息が上がってしまっているのは、走って来たせいなのか、それとも緊張しているせいなのか。
大きく深呼吸をしてからインターフォンを押した。
「わざわざ悪かったな」
玄関で俺を出迎えてくれた宇佐見さんは、深夜、しかも自宅だというのに、いつもと変わらず隙のないきちんとした服装をしていて、俺は思わず自分のパーカーの裾を引っ張った。
「おじゃまします」
広々というのを通りこして、無駄に広すぎるようにしか見えないリビングへと通される。いつ来ても、ただただ圧倒されてしまうこの部屋は、まるで宇佐見さん自身のようだ。
その部屋の中、ソファーの上にヒロさんを見つけてかけよった。
「ヒロさん」
ソファーの上で眠っているヒロさんには柔らかそうなブランケットがかけられていた。寝室なんかではなく、リビングで眠っていることがわかって張り詰めていた気が少し緩んだ。
「ヒロさん」
「ん…」
寝返りを打ったはずみでずるりと滑り落ちてしまったブランケットを拾いあげて、固まった。
なんて格好で寝ているんですか?!
ワイシャツはほとんど脱げていて、手首に引っかかってるだけになっている。ズボンの前も緩められていて、ヒロさんの可愛いおへそも細い腰まわりも、すっかり見えてしまっている。
「弘樹、迎えが来たぞ」
こんな姿のヒロさんを前にしてもいつもと変わらない宇佐見さんの声に苛立ちが募る。もしかして、こんな露わな姿も見慣れているっていうんだろうか。
宇佐見さんの視線を遮るように抱き起こして急いでワイシャツを着せ直す。
「ん、秋彦?」
ヒロさんが口にした名前に手が止まる。俺と宇佐見さんを間違えるなんて、そんなバカなこと。まさか俺がいない時にこんな風に服を着せてもらっていたりするんだろうか。
ギリっと奥歯を噛みしめる。宇佐見さんがそんな俺をくすりと笑った、ような気がした。手早くボタンを留めていると、ヒロさんがぼんやりと目を開けた。
「んー?なにして・・・」
「ヒロさん、帰りますよ。起きて下さい」
「のあ?」
ようやく俺の目を見てくれた、と思ったらへらっと笑った。
「野分だ」
ヒロさんはズルい
胸の奥に燻りかけていた黒い炎がその笑顔にあっという間に消えてしまう。
「飲みすぎですよ」
「るせぇー」
ワイシャツの裾を入れ直しベルトを通してあげていた俺の頭にヒロさんの腕が巻きついた。
「お前のせいだ」
いつもより少し高い体温と思いがけなく甘えた声に、腰に回した手に力が入る。このままソファーに押し倒してしまって、この可愛い人をめちゃくちゃにしてしまいたい。
「弘樹、人の家でいちゃつくな」
煙草の煙とともに楽しそうな声が流れてきて、抱きつきそうになるのをどうにか踏みとどまった。
落ちていたジャケットを着せ終えると、横からグラスが差し出された。
「ほら、水だ」
「ん」
薄くて綺麗なグラスを受け取ったヒロさんがこくこくと飲むのを見つめながら俺は深いため息を吐いた。