frown
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帰省
もうすぐお盆ですね。野分とヒロさんはどうしているのか?
2014.7.24 pixiv 投稿
新人の看護師との話の中の一言に
「、、多分しないと思います。」
簡単に答えるとナースステーションから出て病棟へと向かった。
世間一般の連休のときほど、休めないことが多いのも事実だけど、帰省をしようと思ったことがなかった。
俺にとっての実家って、やっぱり養父母のいる施設なのかな。
小児病棟も長期入院の子はお盆には一時的に帰宅する子も多く、それを心待ちにしているのが伝わってくる。
俺は、そんな風に思ったことがあるのだろうか。
周りの子どもが持っている、色々なものを自分が持ってはいないことに気がついたときには、さみしかったけど、何が何でもそれを手に入れようと思ったことはなくて。
本当の親のことすら、ほとんど考えたこともない。
与えられた人生に満足していた。
俺は感情が薄いのかな。
「なにボンヤリしてんだよ〜。」
後ろから声をかけられて我に返った。
「先輩。」
「どーした?疲れてんのか?」
「なんでもないです。」
「そっか。じゃあ行くぞ。」
「はい。」
「草間センセー」「センセー」
患者の子どもたちに囲まれながら歩いて行く俺を見て
「野分ってさー誰にでも好かれるし、嫌いなヤツもいないんだろ?」
と言う津森先輩の言葉にドキッとした。
「まあ、特に嫌いな人はいないですね。」
笑いながら返すと
「ふーん。じゃあさ、俺が上條さんのこと好きって言ったら?それでも俺のこと嫌いにならない?」
真面目な顔で聞いてきた。
え?
驚いて先輩をみつめた俺の肩を叩くと
「ジョーダンだよ。」
と言ってさっさと行ってしまった。
その日は一日調子が出なかった。
ダメだな、こんなんじゃ。
ロッカー室でため息をつきながら着替えをしていると後ろから頭を鷲掴みされた。
「先輩、なんですか?」
「お前なあ、あれっ位の冗談で一日元気ないとかってマジありえねーから。」
「、、冗談、ですか。」
「なんだよ、本気にしてたのか?」
「言っていい冗談と悪い冗談があります。」
そう言って、帰ろうとする俺の腕を掴んで
「わかったわかった。謝る!俺が悪かった。」
頭を下げる先輩の姿に自分から出ていた不機嫌さを思い知った。
「いえ、俺のほうこそすみませんでした。個人的な感情を仕事に持ち込むなといつも言われているのに、、、。」
「イヤ、俺も悪ふざけが過ぎた。にしても、いつものお前なら気にしない位の冗談だと思ったんだけどな。なんかあったのか?」
「いえ、大丈夫です。」
「上條さんが帰省するからさみしいとかじゃないだろうなー。」
「?!、そんなことじゃないです。今日は本当にすみませんでした。お先します。」
言われて気がついた。
毎年、ヒロさんも帰省しない。
どうせ近いからいいんだ、と言うけれど、ひょっとして、俺が帰らないから、なのかな。
病院を出て自転車を漕ぐ。
蝉の声を浴びながら夏の風を受ける。
俺にだって絶対になくしたくないものはある。
与えられた人生に満足していたのは
17歳の、あの時までで。
ペダルを漕ぐ足に力が入る。
早く、早く会いたい。
あの時から、俺は自分の人生を選んで進んでいる。
だから、今ここに俺は立っている。
目指すところへと向かうために。
あの人の横に並ぶことが許されるように。
ふさわしい人間になるために。
見上げた空には入道雲が広がっていた。
「ただいまです。」
「、、おかえり。早かったな。」
俺にとっての帰る場所はやっぱりここだけだ。
「ヒロさん!」
「な、おいっ!急に抱きつくなっ!!アホか!」
「アホじゃないです。バカなだけです。」
両腕に抱くのは、たった一つだけの俺の我儘と俺の独占欲を満たす人。
この人さえいれば、他にはなにもいらない。
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