frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
忍れど②
野分の就職活動。
山さんから紹介してもらった「宇佐見グループ」は、戦前は財閥だった宇佐見家が元になっている企業グループだ。まさに歴史ある一族で、本来なら俺なんかは一生縁がないところだろう。そんなすごい人の家で働くことができるんだろうか、という不安も生まれてきたけれど、こんなに良い条件の仕事はめったにない。せっかく山さんがくれたチャンスを無駄にしないように全力を尽くそうと思った。
面接当日。指定された住所に向かった俺は、いきなり知らない世界をみることになった。
年代物の邸宅は、信じられない程大きく豪華で、まるでテーマパークの中の建物のようだ。大きな扉の前で俺を待っていた人について中に入ると、屋敷の中では大勢の人たちが働いていた。
学生服の俺のことを気にするそぶりもなく、ただ黙々と自分の仕事をしている姿は、なんだかとても格好良い。
自分もこの人たちと一緒に働くことになるかもしれない、と背筋が伸びる思いで奥へ進み、案内された部屋の中には背の高い中年の男の人がいた。
「草間野分くん?」
「はい」
「はじめまして、宇佐見です」
「よろしくお願いします」
低い声は静かだけれど迫力がある。まさか宇佐見さん本人に面接されるとは思っていなかった俺は、緊張で口の中がからからになりながら席についた。しかし、宇佐見さんは質問をすることもなく、ただじっと俺の顔を見ている。
大企業の社長ということで、山さんのような人を想像していたけれど、宇佐見さんは思ったよりも若々しく、その目は鋭い。いったいどんなことを聞かれるんだろう、と身構えた。
「君には忍者の仕事をしてもらおうと思っている」
「ニンジャ、ですか」
外国の城のような雰囲気のこの部屋と、言われた言葉とが全く結びつかない。
「そう。我が家には代々忍者が仕えているんだが、最近は高齢化が進んでしまってね。君のような若い人を探していたんだよ」
「あの、それはスパイみたいな仕事ですか?」
「いや、どちらかといえば護衛かな。私には息子がいてね。君には息子専属になってもらうつもりだ」
小さな男の子を見守る仕事なら、俺にむいているかもしれない。
「わかりました」
「それじゃ、そういうことで。期待してるよ」
それだけ言うと宇佐見さんは部屋から出て行ってしまった。入れ替わりに入って来た男の人が、これからの手続きについて説明を始めた。
「あの、すみません」
「何?」
「受かったんですか?」
「そうだよ」
何が良かったのかはさっぱりわからなかったけれど面接は無事に終わり、俺は晴れて宇佐見家で働くこととなった。
***
面接では「忍者として」と言われて驚いたけれど、宇佐見家で働き始めた俺の最初の仕事は清掃やベッドメイキング、それから配膳といった邸内での仕事を覚えることだった。草間園にいた頃からそういった事は一通りやっていたつもりだったが、給料をもらってやる仕事となると思ったほど簡単ではない。ベテランメイドの伊藤さんから厳しく指導をしてもらって、一から覚えた。
ようやく他の人と同じくらいできるようになったら今度は庭師の森田さんの見習いになった。庭師の服を着て、広い敷地に生えている庭木の名前を覚え、花壇や芝生の手入れをする日々は楽しかった。森田さんからも「野分は庭師にむいてるな」と褒められて、このまま庭師として働くことのも悪くないと思うようになった頃、また違う仕事をすることになった。
今度は飼われている犬のアレキサンダーと猫のタマの世話係だ。
ある程度仕事ができるようになると、別の仕事にまわされるのは「新人研修」ということらしい。
これが終わったら何の仕事をすることになるんだろう。
自分の進む道がはっきりしないことに時々不安になる。
すっかり慣れてくれたタマにブラシをかけながらため息をついた。
「ここの生活には慣れましたか?」
振り返ると執事の田中さんが立っていた。
「はい」
「大変かとは思いますが、なんでもできるようにならないといけませんからね」と言う田中さんの言葉にニャアとタマが答えるから、思わず二人で笑ってしまった。
「何か困っていることはありませんか?」
田中さんになら聞いても大丈夫だろうか。
「あの……」
「はい」
「忍者ってなんですか?」
どうしても聞かずにはいられなくなってした質問に、田中さんは一瞬驚いた顔をしたあと、柔らかく微笑んだ。
「忍者とは、宇佐見家の方々を陰から見守る仕事をする人のことです。そのためにはどんな場所にも溶けこむ必要があります。ですから、色々な仕事ができるようにしなければならないんですよ」
「そうなんですか」
「大丈夫。あなたならきっとできます。さあ、アレキサンダーが待ってます。散歩に連れて行って下さい」
「わかりました」
少しだけ自分の進む道が見えてきた気がする。
俺は勢いよく立ち上がり、アレキサンダーのもとへ駆け寄っていった。
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さるり
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ヒロさん溺愛中
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