frown
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- 2014/08/15 (Fri)
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同棲した後の二人の朝。
2014.0.15
「龍一郎様、龍一郎様、起きて下さい。時間ですよ。」
「、、、、ん、、今、起きる、、。」
天気の良い朝は、二人でジョギングをする。
それは一緒に住むようになってからの新しい習慣になっている。
しかし、早朝とはいえ、夏はもう太陽が眩しいくらいに照りつけている。
ジャージやタオルとともに日焼け止めを置いた。
「なあ朝比奈、これ、塗らないとダメか?」
洗面台の前から、若干不服そうな顔で聞いてきた。
「はい。夏の陽射しは朝から強いですよ。」
そう言うと、龍一郎様は首を傾げながら手のひらに出して塗り始めた。
「首筋も、しっかり塗って下さいね。」
後ろを通り過ぎるときにそう言うと、振り向きざまに手を出した。
「じゃあ、首の後ろはお前が塗れ!」
ため息を一つついて、受け取る。
右手の手のひらに日焼け止めを出してから、少し癖のある黒髪を左手で持ち上げる。
白くて、男にしてはすんなりとした首に丁寧に塗っていく。
髪の毛から手を離すと、もう一度日焼け止めを右手に出して、今度は両方の肩にも塗った。
「できましたよ。」
鏡越しにそう言うと、こころなしか龍一郎様の顔が赤くなっていた。
ふと見ると首筋も上気して、仄かに桃色になっていた。
もしかして、肌に合わなかったのか?
日焼け止めの裏側の成分表示を見ていると、龍一郎様が大きくため息をつかれた。
「合いませんでしたか?」
そう聞くとジロリと横目で睨み、さっさと玄関に向かって行ってしまった。
どうされたのか?
私も玄関へ行くと、二人でシューズを履いて、軽くストレッチをしてからマンションを出た。
やはり、陽射しはもう眩しい。
軽やかに走り出す龍一郎様の半歩後ろを走る。
街路樹の緑の濃いところは、まだ、風も爽やかさがあるようだ。
いつもと同じ道を辿る。
毎朝、同じ時間にジョギングをしてみて、気がついたことがある。
毎朝、同じ人に会う、ということ。
「おはようございます。」
愛犬の散歩をする小柄な老婦人とは、挨拶をするまでになった。
挨拶をしなくとも、なんとなく顔見知りになってきている人たち。
一人でハイペースで走る日に焼けた年配の男性。
カラフルなジャージでゆっくりと走る髪の長い若い女性。
ふと、思う。
毎朝、二人で走る、男。
私たちはあの人たちの眼にどのように写っているのだろうか。
子どもの頃から常に一緒にいて、深くは考えたことがなかったが、この年齢で、朝から晩まで男同士で一緒にいるのは世間一般ではあまりないのかもしれない。
少し登り坂になった。
短く息を吐く龍一郎様の横顔をみる。
白い顔は少しばかり上気し、汗ばんだ額には髪が少し、はりついている。
それでも真っ直ぐに前を向いて走る姿。
この人は、いつもそうだ。
多少の道の変化にはまるで気づきもしないように、軽く乗り越えていく。
私は、いつまでともに走り続けることができるのだろうか。
中間地点にしている公園についた。
足を止めて、持ってきたペットボトルのミネラルウォーターを飲む。
「朝からあっついなー。」
汗をかいて張りついたシャツのせいで、背中のラインが浮き出ている。
ゴルフもやられるせいか、細い割りには筋肉質だ。
先日の接待ゴルフで、龍一郎様にやたらと触っていた商社の社長を思い出して、何か砂でも噛んだような、嫌な気分になった。
あまり身体のラインが出るような服はお召しにならないが、ゴルフは、動いているうちに、汗もかくし、どうしても背中や腕の筋肉が分かる。うっかりしたら腰の辺りのシャツがめくれて、見えたりもする。
とりあえず、あの社長には、気をつけよう。
「戻るか?朝比奈は水飲んだのか?」
「はい。大丈夫です。」
来た道を同じペースで戻って行く。
「朝比奈、どうかしたのか?」
突然、走りながら聞かれる。
「、なんでもありません。」
即答は長年の習慣で、条件反射のようになってはいるが、一瞬、間が空いたのに、気づかれてしまった。
「何か、変だぞ。」
そう言うと、また、走りつづける。
いつまでともに走り続けることができるのか。
頭を軽く横に振った。
おかしな考えに囚われた自分を戒める。
何を馬鹿なことを。答えは一つだ。
龍一郎様が走るのであれば、私もひたすらに、ともに走り続けていく。
迷わずに、悩まずに、躊躇わずに。
それでいい。
龍一郎様が走っていく、半歩後ろを走っていく。
例え、誰になんと言われようとも。
蝉の声が降ってくる。
「朝比奈、朝飯、オムレツ食べたい。」
「はい。龍一郎様。」
二人で最後の坂を走っていく。
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