frown
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小さな思い出だけを胸に
- 2016/05/30 (Mon)
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「アマドコロの日」記念
2016.5.23.
絶対に大丈夫だと思っていた。
全てを失いかけた自分にとって、それはたった一つの願い。
あなたの傍にいられるのなら、どんな努力も厭わない。
あの日、この花に誓った。
◇◇◇
「あーさーひーなー」
バスルームから響く声に、戸棚からバスタオルを出す。
「タオルー」
水滴を垂らしたままの身体が湯気を纏って立っている
「ご自分でご用意してください」
タオルを渡しながらため息をついたところで、聞くような人ではないと知っている。
細身な身体にようやくタオルが巻きつけられる。
人を従えるべく生まれたような方にとっては身の回りの世話をする人間の目など、あってないようなものだ。それが、この屋敷に来て最初に覚えたことだった。
見られることに慣れている人を前に、試されているのは傍にいる人間の方。
・・・大丈夫。
例えどんな姿を目にしようとも。
例えどんな言葉を言われようとも。
自分は冷静でいられると思っていた。
いつまでも傍にいられるのなら。
この渦巻くような自分の薄暗い想いなど、何度でも殺してみせる。
そう自分を信じていた。
あの日までは・・・。
様子がおかしいとは思っていたが、それはあまりにも突然のことだった。
「…朝比奈」
伸びてきた手がワイシャツごとネクタイを掴み、唇が重ねられた。
なにが起きたかわからないまま、頭の芯が痺れる。
なぜ
そんなにも私を試す
なぜ
殺した心を覚まさせる
夢にまで見た龍一郎様の息遣い、温度、感触。それは夢の中よりも熱く、激しく襲いかかった。いっそこのまま流されてしまえばいいと思うほどに。
それでもやはり
これは決して欲しがってはならないもの
痺れかけた頭を振り、夢中になって腕を払った。
あなたにとっては、ほんの戯れであっても、こんなにも容易く、私の心を握りつぶせるのだということをあなたは知っているのだろうか。
ここにいるために
必要な存在でなくてはならない
私の努力を
どうしてあなたは台無しにしようとするのか
「お前なんかいなくても俺は」
その先にあるのは
「何の不都合もない」
言われたくなかった決別の言葉だった
◇◇◇
本当にしたいのはお世話でもお守りでもないということに、いつから気づかれていたのだろう。
重ねられた唇の感触を思い出しては熱病に罹ったように震える身体を持て余す。
それは分不相応な想いを捨てきれなかった私への罰にしては酷く甘やかで、そしてなりよりも苦い。
もう無理なのだと
近くにいてはならないのだと
告げたのは
誰でもない
見守るだけではすまなくなった
自分自身の弱さ
きっとまた、触れたくなってしまう。
きっとまた、触れて欲しいと願ってしまうから。
離れる時が来たのだと自分に言い聞かせる。
荷物を運び出した部屋を見渡す。
『よろしくおねがいします…』
初めて龍一郎様と会った時からなに一つ変わってはいない。
自分にはなにもなかったのだ。
あの人との思い出以外、この家にはなに一つ自分のものなどなかった。
ポツンと置かれた鉢植えを持ち上げる。
『かしてやる』
あなたにそう言ってもらった時から、私の新しい人生は動き出したのだと、いつか伝える日が来るのだろうか。
貴方とともにありたいと願った数だけ咲き誇るアマドコロを抱きしめて、空っぽになった部屋を出た。
あなたにもらった人生を返しに。
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