frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
秋翳
- 2014/10/30 (Thu)
- ミステイクss |
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ハロウィンの日のあさいさです。
純情ミステイクact.1の中の朝比奈の台詞「そう言って昔いきなり倒れられた事がありましたから」を借りて、勝手にものすごく膨らませて、ハロウィンエピソードを作りました。
この話に出てくるミニマムエピソード等は、全て捏造です。(こっそりヒロさん入り)
原作のあさいさのイメージを壊さないように心がけましたが、まだまだ勉強不足なので、違和感ありましたら、ごめんなさい。
いつも素敵な絵を恵んで下さる端午さんへ。
感謝を込めて。
2014.10.30
いつの間にか年中行事の一つとして定着してしまったらしい。
街中のあちらこちらにオレンジ色と黒色が目立つ。
「おはようございます。」
正面玄関から入ると受付の社員の挨拶に迎えられた。
「おはよ〜。」
ニッコリと笑いながら挨拶を返す。受付のカウンターの上にも笑ったカボチャが置いてあるのが見えた。
この時期は、カボチャですら笑ってるっていうのに。
「、、今日の予定は以上です。」
俺の後ろを歩くこいつは表情筋を使うのを忘れたかのように、いつもと同じ顔で今日のスケジュールを伝えてきた。
「わかった。」
返事をすると俺の顔を一瞥して、手帳を閉じた。
なんだよ。
ちらっと見上げると、こめかみに微かに厳しい線が浮かんでいる。
珍しい。
何か言うべきことがあって、それを言わないなんてことは、滅多にない。
社長の俺には特にはっきりと言う。
もし飲み込んだ言葉があるとすれば、それは社長の俺に対して、ではなく「井坂龍一郎」個人に対してってことになる。
俺、何かしたか?
怒らせるようなことをした覚えはないんだが、何か、朝比奈の心を悩ましているんだろうか。
不本意ながらも、朝比奈に関しては、いつも俺ばかりが振り回されているような気がする。たまには、俺のことを考えている朝比奈がいても悪くないか。
そんなことを考えながら社長室へと入ったら、アマドコロの鉢植えにまでオレンジ色のカボチャのピックが刺さっているのが見えた。
「先日お受けになったインタビュー記事に、幼少期の写真も使いたいと連絡がありましたが、いかがなさいますか?」
先日のインタビューってことは、秋彦との関係を聞かれていたやつだな。
「別にいいんじゃねえの?でも、写真は実家に全部置いてきてるから、アルバムを取りに行かないと、ないだろ。」
俺がそう言うと、朝比奈は鞄からアルバムを一冊出してきた。
「そう言われるかと思いまして、お借りしておきました。ご自分で選ばれますか?」
用意周到というか、先回りするというか、こいつは当然のように俺の思考を読む。
「ちょっと見せてみろ。」
久しぶりに見るアルバムをめくっていくと、珍しい写真があった。
俺と秋彦と弘樹がなにやら黒いマントを着て黒い帽子を被って、いる。背景を見ると秋彦の家のようだ。
なんだこれ?
「ハロウィンパーティにて」という見出しがついている。
近所の子どもが集まって、こんなことをしたこともあったんだな。
案外と覚えていないことが多くて、どの写真を見ても懐かしいというよりは、新鮮な驚きがあった。
それにしても、なんでハロウィンの写真にだけいないんだ?
朝比奈が写っていない。
その後のクリスマスパーティーの写真には隅のほうに小さく写っているのに。
部屋の中には、朝比奈の打つPCのキーボードの音だけが響いている。
アルバムを閉じて、椅子の背に体重をかけた。仕事をしている朝比奈は、いつもと同じ顔に見える。
「朝比奈、使う写真はお前が好きなのを選んでいいわ。」
そう言ってアルバムを押しやると、俺は猛然と仕事にとりかかった。
◇◇◇◇◇◇
窓の外は夕闇が降りはじめている。
朝から集中して取り組んだこともあって、思ったよりも早く仕事が片づいた。
椅子の上で、腕を伸ばして背中を反らし、固まった身体を解した。
コーヒーでも、と思って立ち上がりかけると鼻先に芳ばしい香りが漂ってきた。
「コーヒーでよろしかったですか?」
朝比奈がコーヒーカップをデスクに置きながら聞いてきた。
「ん、サンキュ。」
カップを口に運びながら、朝比奈の様子を窺ったが、特に変わったところはないようだ。
朝のあの表情は、なんだったんだ?
もしかしたら、俺の見間違いなのか?
「朝比奈、今日の夜は特になにもなかったよな?」
「はい。会議も会食も入ってはおりません。」
「なら、早く上がれそうか?」
俺の言葉に朝比奈が怪訝な顔をした。
「社長が、ということでしたら、今日の分を終えられたなら、早く上がられても差し支えはありませんが」
「お前は?今日は何かあるのか?」
パソコンの画面に視線を戻しながら当然のように朝比奈は言う。
「社長の仕事が終わりましたなら、私も上がることはできますよ。やるべきことはもう済ませてありますから。」
飲み終えたコーヒーカップをデスクに置くと、俺は時計を見た。
「なら、今日は早めに上がる。お前も一緒にだ。いいな。」
「はい。」
朝比奈の即答に、自分の仕事の進捗状況を把握されていたことに気がついて、ちょっといまいましく思いながらも、俺は帰り支度を始めた。
◇◇◇◇◇◇
マンションに着いて玄関に入ると、朝比奈がいきなり俺の額に掌を当ててきた。
「何だよ。」
「急に早く帰られるなどと、おっしゃるので。もしかして熱でもあるのかと思いまして。」
「何言ってんだ。ガキじゃあるまいし。」
そう言って靴を脱ぎながら見上げると、眉間に皺を寄せている。
「そう言って、昔いきなり倒れられたことがありましたから。」
低い声で顔を覗きこんでいる表情は、茶化すことのできない不安に満ちていた。
「お前、、、それ、いつの話してんだよ。」
「覚えてないのですか?」
朝比奈の手を振り払って部屋の中に入り、鞄を床に置くと、ソファーにドサリと座りこんだ。
「覚えてねーよ。いつだ?」
俺の前に立った朝比奈がポツリと言った。
「ハロウィンパーティの日ですよ。」
ハロウィンパーティ?
「それって、まさか、、?」
「宇佐見様の家に招待された、ハロウィンパーティの日です。」
「、、、覚えてねえ。」
「龍一郎様は仮装して出かけられて、それぞれの家をまわられて、帰ってきたと思ったら倒れられたんですよ。」
朝比奈の眉間の皺がさらに深くなった。
「そんなことがあったのか?お前よくそんな子どもの頃のこと、覚えていたな。」
着替えをしようと立ち上がりながら言うと、朝比奈が背中にまわってジャケットを脱ぐのを手伝ってきた。
背中から朝比奈の声を聞く。
「忘れるわけがありません。あの時、私がついてさえ行けば、と何度も思いましたから。」
ネクタイを解いて振り向いた。
「どういうことだ?」
ジャケットとネクタイをハンガーにかけながら、朝比奈は低い声で言った。
「あの時、私が遠慮して行かなかったばっかりに、貴方は一人で宇佐見様の家へ行かれて、寒い中、延々と外でイタズラをして風邪をひいたんですよ。全く、、。私は、、」
振り返って俺の顔を真っ直ぐに見る。
「倒れたあなたを見て、生きた心地がしませんでした。ですから、あの後、私なんかには場違いかと思うようなところへも、貴方が行く時にはついて行こうと決めたんです。」
なんだよ、、それ。
「じゃあ、お前が今朝、機嫌が悪かったのは、、」
「ハロウィンの日は、いやでもこの話を思い出すので、あまり好きではありません。」
いったい何年前の話を、こいつは気にしていたんだ。
おまけに、そのせいで、ハロウィンさえも楽しくない日になってるって、なんだよ。
俺は朝比奈の前に立った。
お前の顔を翳らせているのが、子どもの頃のハロウィンの思い出なら。
今日は、違うハロウィンの思い出を作ればいい。
「薫。」
俺は朝比奈に両手を伸ばし、ジャケットの襟を掴むと強く引き寄せて、朝比奈の唇に自分の唇を重ね合わせた。
そして、耳元に囁いた。
「お菓子くれなきゃイタズラする。」
一瞬、朝比奈の目が大きくなった、と思ったら、またいつもの表情に戻る。
「お菓子なんてありませんよ。」
こんな時でも、お前はその顔かよ。
俺は笑いながら言った。
「だったら、もっとイタズラする。」
そう言ってみつめると、朝比奈の両腕が背中と腰にまわされた。ワイシャツ越しの指先の感触がもどかしくなる。
「構いませんよ。今日は金曜日ですし。」
口説き文句にしては、随分と色気のない台詞も、こいつが言うと殺し文句になってしまう。
首にゆっくりと両手を回す。
自分の吐息が熱くなっているのを感じながら、俺はたった一人にしか言わない命令をする。
「抱け。」
朝比奈の目がふっと細められ、瞳が暗い色を宿した。次の瞬間、唇が俺の下唇を食み、舌が唇の隙間に入り込んでくる。少しひんやりとする舌を受け入れて、自分の舌と絡める。互いの髪の毛に指を絡めるようにして、頭を掻き抱きながら、さらに深く口腔を貪り、味わっていく。ぴったりと重なった胸の鼓動がうるさいくらいに響いて、もう、どちらの音かも分からなくなっていく。
何度も角度を変えて口づけていくうちに、頭がぼうっと白んでしてきた。
「トリック・オア・トリート!」
突然子どもの声が頭の中に響いてきて、俺と、秋彦と、弘樹とで仮装して歩き回ったあの夜の記憶が浮かんできた。
あの夜、俺は本当は、、。
「トリック・オア・トリート!」
秋彦と弘樹を汗をかくくらい散々追いかけ回して。
家に帰って来ても、玄関に入らずに離れの朝比奈の家に向かったんだった。
薫がついて来なかったから、不貞腐れていて。
でも、結局、朝比奈の家の玄関の前でチャイムを押すことも出来ず、ただボンヤリと立っていた。
玄関の前にあるオレンジ色のカボチャの真っ黒い目を、じっと見つめているうちに、ぶるっと震えて、慌てて自分の家に帰った。
すると、リビングに薫がいた。
親父にお菓子を貰って、笑っている薫がいた。
そこで、、、俺は、、倒れたんだった。
視界が霞んでくる。
「ンッ、、はっ、、は、、ふっ、、ふ、、。」
息が苦しくなって、一旦離れて呼吸を整えた。
今、甦った記憶は、一体。
これも、、ハロウィンのイタズラなのか。
俺じゃなくて、親父に手を差し出していた薫。
「龍一郎様?」
あの頃、あんなに欲しかったものが、目の前にある。
その手は俺にだけ向けられている。
「薫、、。」
俺はもう悩まない。迷わない。
薫を離すことはない。
俺は薫へ両手を伸ばすと、きっちりと締められているネクタイを外した。
甘い菓子をくれてやるから、もっと俺に触れ、、、薫。
シャツのボタンを外していくと、首筋が露わになっていく。
ハロウィンの記憶も、甘く塗り替えてしまえばいい。
俺は朝比奈の首に腕を回した。
カボチャを見たら笑えるくらいに、甘い記憶にすればいい。
俺から重ねた唇を、朝比奈がさらに深く重ねてくる。
今日は、金曜日だから。
喜んで抱きつぶされてやる。
だから
俺がお前に溺れているのと、同じくらいに、お前も俺に溺れればいい。
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