frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
初空
- 2015/01/05 (Mon)
- 純情ミニマム |
- CM(0) |
- Edit |
- ▲Top
ミニマムです。
小学生の秋彦と弘樹のお正月。
2015.1.5
「あけましておめでとうございます。」
母親が家の前で会った近所の人と新年の挨拶を交わしている横で、弘樹は白い息を吐きながら宇佐見邸の方をじっと見ていた。
秋彦、どうしてるかな?
弘樹は挨拶が終わってからも楽しそうに話し続ける母親の横を離れると、秘密基地へとつながる塀の破れ目へと向かった。
破れ目から入りこむと広がる林の中を歩きながら思った。
さすがに今日はいないかもしれない。
そう思いながらも進み続け、たどり着いたいつもの秘密基地で目にしたのは、コートを着て一人座っている秋彦の姿だった。
来てたのか。
呼びかけようと思った弘樹は息をのんだ。
秋彦は弘樹が来たことにも気づかずに、一心不乱にノートに向かって鉛筆を走らせている。
その周りに漂う雰囲気が普段よりも固いように感じた弘樹はそのまま黙って秋彦を見つめた。
お正月だというのに、何かあったんだろうか。
目の前にいる秋彦には、まるでお正月も、この寒さも、関係ないかのようだった。
秋彦の座っているところだけが周りの世界から切り取られたかのようだ。
ひょっとしたら、俺がここにいることも、秋彦にとっては、どうでもいいことなのかもしれない。
弘樹はその場に立ちつくした。
風が木々を揺らす微かな音だけが聞こえる。
そっとため息をつくと、弘樹は踵を返した。
帰ろう。
そう思って歩き始めた弘樹の目の前に白いものが落ちてくると、頬の上に乗ってとけた。
雪だ。
弘樹は振り向いた。
秋彦は相変わらずノートに向かっている。
弘樹は思わず秋彦のそばへと歩いていくと、声をかけた。
「何してんだよ。」
頭の上から聞こえた声に、秋彦はノートに向かっていた顔を上げた。
「弘樹こそ、どうしたの?」
「初詣の帰り。」
そう言って弘樹は秋彦の顔をジッと見た。
「お前、いつまで外に座ってんだよ。雪が降ってきたぞ。」
言われた秋彦は驚いたように空を見上げた。
落葉した木の枝がレース模様の様に広がっている。その隙間から見える灰色の空からは白い雪が落ちてきていた。
「本当だ。」
そう言ってそのまま空を見上げている秋彦に、弘樹もつられて空を見上げる。
ゆっくり、ゆっくり、真っ白な雪が空から舞うように落ちてくる。
二人は黙って空を見続けた。
白い花びらのように雪が舞い降りてくる。
弘樹は手のひらを広げると、腕をまっすぐに伸ばした。
落ちてくる雪は、手のひらに乗ったと思った次の瞬間には、すうっととけてなくなってしまう。
それでも、いつかこの雪を掴むことができるんじゃないかと思えて、弘樹はいつまでも開いた手のひらを見つめ続けた。
澄んだ空気の中、ゆっくりと、しかし、やむことなく雪は降ってくる。
雪はまるで秋彦のようだ。
白くて、冷たくて、綺麗で、そして、つかまえることはできない。
弘樹は鼻の奥がツンと痛くなってきた。
気づけば手のひらも真っ赤になっていた。
座っている秋彦の方を見ると、コートを着た肩にも、頭にも薄っすらと雪が積もり始めていた。
「秋彦、家に入らないのか?」
弘樹の問いかけに答えず、秋彦は黙って空を見上げている。
雪は静かに舞い降りてくる。
「俺ん家に来るか?」
弘樹がそう言うと、秋彦は大きな瞳で弘樹を見た。
お正月のこんな天気の中、一人でここに座っている秋彦を置いてはいけない。
弘樹は秋彦の腕を掴んだ。
「ほら、行くぞ。このままここにいたんじゃ風邪引く。」
そう言って立ち上がらせると、弘樹は一緒に来た道を戻り始めた。
雪が降っている林の中は、いつもと違う道のようだった。
葉を落とした黒い影絵のような木の枝に薄く白い雪が積り始め、灰色の空にその模様を浮かび上がらせている。
「弘樹。」
「なに?」
呼び止められた弘樹が立ち止まると秋彦は真面目な顔で言った。
「あけましておめでとう。」
「え?あ、あけましておめでとう。」
慌てて返した弘樹の顔を見て秋彦はふわりと微笑んだ。
「今年もよろしく。」
秋彦を取り巻いていた固い空気がなくなっているのに気がついて、弘樹は自分の肩の力が抜けていくのを感じた。
「お、おう。よろしく。」
大丈夫。
俺が秋彦のそばにいてやるから。
今年も。
どんな時だって俺はお前の味方だから。
垂れ込めたあつい雲の切れ間から日が射してきた。
薄く雪の積もった落ち葉を踏みしめながら歩く二人の上に降る雪はキラキラと輝いている。
「行くぞ、秋彦。」
二人はまた歩き始めた。
- << 何の日 12月17日
- | HOME |
- 最初の日 >>
この記事へのコメント