【身長差】

まだ追いつけたとは思えないけれど
「寒ぃ」
呟いた声に駆けよって背中を抱きしめる
「…何してんだよ」
「あっためてます」
見下ろした髪の毛に唇をおしつける
「バカ」
腕の中に囲んだ身体が柔らかくほどけていく
早く全てを包みこめるような人になりたい
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【栗】

「これ全部剥くのか？」
頂き物の栗の山にヒロさんが近づいてきた
「俺も手伝う」
向かい合わせで栗を手にする
「なぁ野分、」
「今夜は栗ご飯にしますね」
「何で分かったんだ？」
「夫婦ですから」
「誰が夫婦だバカ!」
また１つ秋の楽しみが増えていく
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【視線】

待ち合わせ場所に立つ野分に向けられる視線の多さに思わず駆け寄った
「ヒロさん！」
「悪ぃ、待たせた」
ぐい、と野分の腕を引いて歩き出す
「どうしたんですか？」
「どうしたもこうしたもねぇ」
睨みつけた黒い瞳に映る自分の顔から逃げるように俯いた
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【間接キス】

「人の気も知らねぇで寝てんじゃねぇ」
灰皿に忘れられた煙草に手を伸ばす
そっと口づけた吸いさしはひんやりと冷たく唇を震わせる
ゆっくりとしみこんでくる煙はただ苦いばかりだというのに
それでも俺は甘酸っぱいはずの初恋の味を求めて深く吸いこんだ
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【朱色】

「のわき〜」
「はい」
「呼んだだけー」
ケラケラと笑うヒロさんは可愛いけれど
「飲み過ぎです」
「ンなことねーし」
「お水持ってきますね」
足に抱きつかれて立ち止まる
「どこ行くんだよ」
「どこにも行きませんよ」
朱に染まった目元にキスをした
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【月見】

「あっ、そうだ」
「ん？」
「月がきれいですね」
褒めてくださいと言わんばかりの笑顔につられて笑う
「ダメでしたか？」
「お前はいつも通りでいいんだよ」
「はい」
背中から抱きしめられて囁かれる
「ヒロさん大好きです」
月も赤くなったような気がした
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【コラボカフェ】

「美容効果ってこのレモンにあるのか？」
「お茶も身体にいいですしね」
「だったらお前も飲めば？」
「俺は飲み終わったヒロさんにどれくらい美容効果があったか調べる係なので」
「調べる？」
「はい。身体中全部。安心してたくさん飲んでくださいね」
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【フルーツ】

「立派な桃ですね」
「ババアが送ってきた」
ヒロさんの指が柔らかな皮をむいていく
「美味しそうです」
「待ってろ」
「はい」
甘い香りの中でじっと見守る
「ほらよ」
少しいびつになりつつも切り分けられた桃が差し出され、果汁の滴る指ごと口に含んだ
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【お祭り】

「懐かしいな」
りんご飴の甘さに頬が緩む
「帰りましょう」
「仕事か？」
「いえ、ヒロさんの格好がちょっと」
「お前だって浴衣だろ」
俺よりよっぽど目立ってることにも気づいてねぇのかよ
「バカなこと言ってねぇで行くぞ」
短い夏の夜へと歩き出した
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【高橋美咲】

「誕生日くらい素直に好きと言ったらどうだ」
「あのさ、誕生日なのは俺だよね？」
「だから歳をとった記念に」
「何でだよ！」
「じゃあロウソクの数だけキスをするというのは」
「俺が？」
「俺が」
おめでとうの声と一緒に降るキスにロウソクの炎が揺れた
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負