【七夕】

雨に濡れた靴を見下ろす
年に1度しか会えない2人のために今夜くらいは晴れてもいいだろうにと思いつつ、自分もしばらく会えてないヤツを思い浮かべた
「ただいま」
湿った気持ちで開けたドアの向こうには
「おかえりなさい」
晴れた空みたいな顔が待っていた
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【青】

「はい」
「お前の分は？」
「俺は後で」
「そっか」
青くて甘い氷を手渡す
「冷てぇ」
「ヒロさん、舌が青くなってますよ」
「マジ？」
ペロッと出した舌を吸い上げる
「てめぇっ」
「誰も見てませんよ」
青い海と繋がっているような空の下で抱きしめた
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【夏】

「泳ぎてぇ」
照りつける日射しにヒロさんが呻く
「プール好きなんですか？」
「ガキの頃は水泳習ってたんだぞ」
思わず抱きしめてキスをする
「何？」
「その頃のヒロさんに会いたかったです」
「ガキ相手に興奮してんじゃねぇ！」
それはヒロさんだから
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【就寝】

背中から伝わる熱に目を開ける
いつのまに帰ってきたんだろう
顔を見たい、とそっと身動いでみたものの長い腕は思いがけない強さで巻きついている
規則正しい呼吸音が明かりを落とした寝室を満たしていく
久しぶりの温もりを味わうようにもう一度目を閉じた
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【ケーキ】

「どうしたんだコレ」
小さなホールケーキがテーブルに鎮座している
「6月ですし」
「6月？」
「初めての共同作業ですね」
大きな手に包まれながらケーキにナイフを入れる
「まさか結婚式のつもりか？」
「幸せにします」
ケーキより甘いキスが降ってきた
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【一服】

長い指の先から漂う煙がまとわりついてくる
「そんなに美味いのか？」
「試すか？」
差し出されたフィルターに顔を寄せかけて止める
「やっぱいい」
「そうだな。弘樹には似合わない」
髪の毛をかき回されて俯く
本当は煙草の味の唇が欲しいのだとは言えずに
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【コーヒー】

「不味い」
「文句があんなら飲むな」
「まさか草間君にもこんなものを出してるんじゃないだろうな」
「は？」
「美味いコーヒーくらい淹れてやらないと愛想尽かされるぞ」
「野分はお前と違って俺の出したものに文句は言わねーよ」
「ほう」
「メモるな！」
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【梅雨】

傘も持たずに帰って行った部下を追いかける
「上條〜、送ってい…」
大きな傘が１つ、さしかけられたのが見えた
何やら揺れていた傘もようやく静かになり、濡れた街へと進みだす
「雨も悪くないな」
2人の後ろ姿に手を振って自分を待つ人の元へと向かった
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【お揃い】

「俺に？」
「赤い下着は健康に良いそうです」
「派手すぎるだろ」
「俺しか見ませんから」
「てめぇにも見せねぇよ！」
「えぇー、せっかくお揃いなのに」
ジーンズを下げて俺のを見せる
「なっ…」
ヒロさんの顔がお揃いのトランクスよりも赤くなった
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【ジューンブライド】

「降ってきちゃいましたね」
「お前のせいだろ」
「もう泣かせたりはしませんから」
「うるせぇって」
雨に濡れたステンドグラスにあの夜の図書室を思い出しながら指輪を交換する
「幸せにします」
誓いの言葉とともに交わしたキスに拍手の雨も降り注いだ
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負