【あさいさ】

「雨ばっかりだ」
「そうですね」
「つまんねえ」
「では、シャワーでも浴びますか？」
「それ楽しいのか？」
「私も一緒に入りますよ」
曇り空のようだった顔に艶めいた笑みが浮かぶ
「そうか、あの日も」
「雨も悪くはないです」
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負
#あさいさ

【寒がり】

虫の声と夜風が流れてこんでくる
「すっかり秋だな」
「ヒロさん、またそんな格好して」
「寝るときはちゃんと着るし」
タオルを巻いた湯上りの身体を捕まえる
「寝るときは着なくてもいいです」
「…寒ぃんだよ」
「はい」
秋の夜は長くて熱い
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【歌】

リズミカルな包丁の音と
カチャカチャと食器を並べる音
合間をぬって聞こえてくる
「ヒロさん、朝ですよ」
甘く優しく歌うように名前を呼ぶ声
まるで
空から降ってくるようなその声は
あんまりにも柔らかいから
きっと夢だと
もう一度目を閉じる
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【残暑】

「またそんな格好して」
「あっちぃんだよ」
濡れたうなじが横切っていく
「冷えますよ」
「平気だって」
痩せた身体を抱きしめる
「ほらやっぱり」
「てめぇが熱いだけだろ」
「ヒロさんに触ってるんだから当然です」
最後の熱を拾い集める夜
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【夏バテ】

テレビ画面には3つの渦巻き
「多すぎるだろ」
夕飯代わりのビールを流しこむ
「ここにはいないくせに」
「呼びましたか？」
「お前、いつの間に」
「ただいまです」
巻きついた腕が止まる
「ちゃんと食べてますか？」
黙って食えと唇を塞いだ
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【水着】

「大丈夫だって」
「ダメです」
背中を撫でるように大きな手がクリームを塗っていく
「ちょっ、ンなとこまで塗る必要ねぇだろ」
真夏の陽射しよりも熱いその手が水着の裾に忍びこむ
「心配です」
甘い声で囁かれて
海に入る前から溺れそうになる
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【ケンカ】

「じゃあ何か、お前たちはケンカしないのか」
「ケンカにならねーんだよ」
「どうしてだ？」
「あいつは忙しいし、そもそも優しいからな」
「なるほど」
「だから、この本のヤツみたいにネクタイで縛ったりしねぇって言ってんだろーが！バカ彦！」
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【○○の夏】

「くそッ」
「あいかわらず好かれてるな」
「だから夏は嫌いなんだよ」
「弘樹」
「ん？」
「首のところも蚊のせいか？」
「ッ、これは…」
「なるほど。それは虫除けか」
「は？」
「噂をすればなんとやらだ」
「ヒロさん！迎えに来ました」
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負

【セカロマ女子】

「何しに来たんだよババア」
「近くまで来たから」
「お茶どうぞ」
「のわちゃんは気がきくわねー」
「飲んだら帰れよ」
「お土産持ってきたのに」
「珍しいな」
「ヒロちゃんにじゃないわよ。のわちゃんに」
「今すぐ帰れ」
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負
【セカロマ女子】

【髪】 秋弘

「だからやめろって」
「別にいいだろ。減るもんじゃないし」
長い指が髪をかきまわす
「減るからやめろ」
もう髪の毛の先からさえ伝わってしまいそうだ
本当は
ゆっくりと離れていく冷たい指先を、その手を、お前の全てを欲しいと願っていることを
#セカロマ深夜の真剣文字書き60分一本勝負