frown
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うろこ雲
のわヒロの日常をふわふわと書いたら、甘くなった、、。
2014.11.11 投稿
「せっかくだから、鍋にしましょう」
嬉しそうにそう言う野分からは、まるで今にも鼻歌が聞こえそうだ。
「そうだな。なんか寒いし。」
俺も鍋は好きだ。
二人揃ったときにしか食べないから。
一緒に買い物に来るのもひさしぶりだった。
スーパーの中を野分がカゴを持って迷いなく進んでいく。俺は少し後ろを何となくキョロキョロと物色しながら歩く。
「ココア、切れる頃じゃねぇか?」
そう言ってカゴに入れると野分は俺の好きなコーヒーを手にしていて、二人で思わず顔を見合わせた。
これじゃまるで、、。
「なんだか新婚さ」
「野分。変なこと言うなら俺は先に帰るぞ。」
じろりと睨みつけながら言ったのに、それでも野分は笑い返してきて、あんまり嬉しそうなその顔をまともに見ることができなくて、思わずプイと横を向いた。
「何鍋がいいかなあ〜。」
最近は簡単に出来る鍋のもとの種類が増えたこともあって、売り場の棚の前で俺たち二人は途方にくれていた。
「お前の好きなのにしろよ。」
「ヒロさんは何がいいですか?」
「俺はなんでもいい。」
そう言うと、野分はニコニコと笑いながら言ってきた。
「じゃあ、せーのーで、食べたいのを指差しましょう。」
「え?!お前何言って、」
「じゃあ、せーのーでっ!」
俺の意見を無視した野分の掛け声に慌てて俺も指差した。
「同じでしたね!」
嬉しそうに二人で選んだ物をカゴに入れる野分を見て、俺はため息をついた。
いい大人の男二人、なんで鍋を選ぶのにこんなことをしてるんだか、、。
その後は肉や魚や野菜をカゴに入れていく。
「こんなもんじゃねぇのか?」
カゴの中を見てそう言うと、野分は
「大事なものを忘れてました。」
と言ってずんずん歩いて行くと冷蔵の棚の前で止まった。
「シメは、何がいいですかね?」
「、、お前、シメまで食うのか?」
すでにカゴの中の食材の量に驚いていた俺は思わずそう言った。
「やだな、ヒロさん。鍋はシメが楽しいんじゃないですか。」
野分はそう断言すると、ラーメンとうどんで悩み始めている。
「お前は、あいかわらずよく食うな。」
俺は、少しばかり羨ましくなってそう言った。
まさか、まだ成長しているわけではないだろうに。野分は学生の頃と変わらずによく食べる。
むしろ野分に言わせると、俺が男にしては小食らしいんだが。
認めたくはないが、年々食える量が減ってきているのも事実で、こんなときには4つ年下の野分が随分と若いような気がしてしまう。
俺も年を取ったのかな。
そんなことを考えてしまった俺を見透かしたようにラーメンを手にした野分は俺のことを頭のてっぺんから足の先まで見て、にっこりと笑った。
「ヒロさんは、あいかわらずかわいいですね。」
「30過ぎた男を捕まえて馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ。」
俺はそう言ってカゴをひったくるとレジに向かって歩いて行った。
「待ってください」
追いかけてくる野分とカゴの取り合いをしながらも、なんとか会計を済ませて店を後にした。
「けっこう買い込んだな」
「作り置きする分の材料も買いましたからね。」
二つになったレジ袋の一つを持とうとすると、野分が両手に一つずつ持ってしまった。
「おい、一つ寄越せって」
「大丈夫です。」
ため息をつきながら野分を見ると、何度も言っている台詞を言う。
「野分、俺は男だ。」
「はい。ヒロさんは男の中の男です」
ジロッと睨む。
「茶化すんじゃねぇ。」
「俺はいつでも真面目ですよ。」
だから、困るんだよ。
「もう一度言うが、俺は男だ。だから、お前に荷物を全部持ってもらう訳にはいかねえ。」
「それは、男とか関係ないですよ。俺が持ちたいだけです。」
「いいから、一つ寄越せ。」
野分は袋の中身をチラッと見ると、明らかに軽いと思われる袋を渡してきた。
、、まあ、いいか。
二人でスーパーの袋をぶら下げて家路を急ぐ。
まるで、、、。
「やっぱり新婚さんみたいですね。」
前を向いたまま野分が言う。
「、、アホか」
俺は俯きながら小さく返した。
「うわあ、ヒロさん見て下さい。すごい夕焼けですよ。」
思わず顔を上げた。
色づき始めた街路樹と、赤く染まった空とが広がっている。
秋の空は暮れるのが早い。
なにもかもを赤く染めてしまおうとでも言うように輝いている太陽は溶けるように輪郭を滲ませながら沈んでいく。
「きれいだな。」
二人で立ち止まって、刻一刻と色を変えていく空をみつめる。
温かい。
見ると、スーパーの袋を持っていない方の手を野分が握っていた。
「ったく、ヤメろって言ってんだろ。」
そう言って少し乱暴に手を解くと、野分がションボリとした顔を向けてきた。
「行くぞ。」
歩き出すと野分もまた並んで歩き出す。
俺は真っ直ぐに前を向いたまま歩く。
「野分、俺たち、何年一緒に暮らしてると思ってんだ。」
「えっ?」
「もう新婚じゃねぇだろーが、あんまりベタベタしてくんじゃねえ。」
「え?それって、、、」
「うるせぇ、早く帰るぞ。」
俺はどんどんと歩いて行った。
「ヒロさん、ねえヒロさん、それって新婚じゃないけど、夫婦ってことですよね?」
俺に追いついた途端にそんなことを言い出した野分の頭にゲンコツを落とす。
「痛っ!」
「アホっ!!」
こいつは、何年たっても、、。
また横に並びながら、野分が話しかけてくる。
「ヒロさん、俺、いいこと思いつきました。鍋を食べたら、一緒にお風呂に入りましょう。」
「野分、一応聞くが、それのどこがいいことなんだ?」
「だって、ヒロさんお風呂好きですよね?」
「風呂は好きだ。」
「俺はそんなに風呂は好きじゃないですけど、ヒロさんのことは大好きです。」
「、、、それで?」
「二人の好きなものが一緒になるんですよ。すごくいいことだと思いませんか?」
俺は立ち止まると、目の前で笑っている背の高い小児科医の顔をじっと見て言った。
「野分、お前そんな馬鹿でよく医者になれたな、、、。」
「ダメでしたか?」
「ダメに決まってる。」
「いい考えだと思ったんだけどなあ。」
こいつは本当に馬鹿だ。
だけど、それは俺に関してだけだと知っているから。
夕焼けでよかった。
きっと、どんなに赤くなっても気づかれないから。
「ほら、早くしねぇと日が暮れるぞ。」
そう言って歩く速度を早めた。
真っ赤になっている顔がばれないように。
早く帰ろう。
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