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frown

当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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逢魔が時

野分が留学中のヒロさん、妄想。
*少しだけ「秋×弘」風味。苦手な方は注意してください。




「弘樹、今からお前のとこに行ってもいいか?借りたい本があるんだ」

秋彦からきた電話。

ウチに来る前に必ず電話を寄こすようになったのは、あの時、ここで野分と、それも、よりによって上半身裸の野分と鉢合わせてからだ。
秋彦は、あれ以降ウチに『緊急避難』して来なくなった。
あの後、会った時にも特に野分のことを聞かれはしなかったけれど、多分、、、察したんだろう。
俺は電話を切りながら、苦笑いした。今は俺に電話で確認なんてしなくてもいいのに、

野分は、ここに来ることはない。

日本にいない、、らしい。
俺が直接聞いたわけではないが、アメリカに留学しているそうだ。
俺には、どこへ行くのかも、何をしに行くのかも、いつまで行くのかも、何一つ言わずに、ある日突然野分は俺の前からいなくなった。
俺は、ものすごい中途半端な状態で、ほったらかしにされているという訳で。
かれこれ半年近くたっていた。
おかげさまで、というべきなのか、どこへもやり場のない野分への怒りも、恨みも、そして欲望さえも全て、仕事にぶつけるという健全な方向へと昇華したことによって、俺はまさに日本文学を極めるべく充実した毎日を送ることができていた。
そして、昨日、無事に論文が完成した。
評価されるかどうかは、まだわからないけれど、今はただ達成感と解放感に満たされていた。
ぼんやりとパソコンを見る。
寝ても冷めても、論文のことを考えていられたのは、幸せなことだった。
頭の中を埋めていた研究が形となって吐き出されたことで、自分の中にぽっかりと空いていた穴を思い出してしまっていた。

野分がいない。

ヤカンに水を入れると、火にかけた。

秋彦と会うのも久しぶりだ。
秋彦はまだタカヒロのことを想っているらしい。
食器戸棚からマグカップを出しながら、ふと思った。
秋彦は今、どこか避難できるような場所はあるんだろうか、、、。
苦しいくらいに好きだったのに。
秋彦への想いから自分の身体を持て余して、一晩限りの関係を繰り返していたことさえあったのに。
あの頃の気持ちが嘘のように、今の俺と秋彦との間には穏やかな空気が流れている。
人の心は、かわるんだな。
野分も今ごろは、他の誰かといるのかもしれない。
自分の想像に自分で傷ついて、思わず鼻で笑った。
コーヒーを出そうとして、ココアの缶が目に入った。
少し高くて甘い野分の声が突然耳に蘇る。
「ヒロさん」
それだけで、久しく忘れていた熱が身体の中心に集まってきそうになる。
好きなやつ以外に身体を触らせないと決めているから。
野分のことがまだ好きだから、俺はこの身体を持て余す。

ったく、厄介な、、。

大きく溜息をつくと、頼まれた本を探しに本棚へと向かった。

◇◇◇◇◇◇◇

「お前の部屋は相変わらずだな。」
「うっせーな。ほっとけ!」
入ってくるなり、そんなことを言う秋彦に俺もいつものように返す。
「コーヒーでよかったか?」
「悪いな。」
俺はマグカップに入れたコーヒーをローテーブルの上に置いた。
秋彦は煙草を出しながら座った。俺はキッチンから灰皿を出して秋彦の前に置くと向かい合わせに座った。
秋彦は煙草に火をつけると、紫煙を燻らせながら、俺を見ている。
「弘樹、見ない間にずいぶんと痩せたな。ちゃんと食ってんのか?」
あいかわらず秋彦は、優しい。
「ん。食ってるって。」
実は今日はまだ何も口にしていなかった俺は、慌ててコーヒーに口をつけた。
眼鏡の奥の目を少し眇めた秋彦が俺を見て言った。
「お前、どうしたんだ?」
「何が?」
「あの、背の高い彼氏だよ。まさか別れたのか?」
驚いた俺は、飲んでいたコーヒーを思いっきり気管に入れてしまい、盛大に噎せた。
俺がティッシュペーパーで自分の口やテーブルを拭いているのを秋彦はどこ吹く風といった様子で見ている。
「なんだよ、藪から棒に。」
やっと治まって、それでもまだ涙目の状態で秋彦を睨みつけた。
「いや、この部屋、またお前の匂いしかしなくなったから。」
秋彦の言葉に驚いた。
そして、もうこの部屋から、野分の気配が消えてしまっていることを再確認する。
「あいつは、、今いないんだ。」
言葉にすると、その事実はさらに俺を抉り、胸の奥を切り裂いた。裂けたところから血が流れそうな気さえして、俺はそれ以上言葉が出てこなかった。
マグカップの中で揺れるコーヒーをじっとみつめ、今度はゆっくりと口をつけた。
秋彦は灰皿に煙草を押しつけて消すと、そっと俺の頭に手を乗せた。
「大丈夫か?」
そう言って俺の髪の毛をかき回す秋彦の手はあの頃と変わらずに優しくて、そして、やっぱり冷たい。
久しぶりの感触に肩が微かに震えた。
この手が欲しくて苦しんでいたのに、今はもう、その手の感触に欲情することはなくて、ただその優しさだけが伝わってくる。
「何言ってんだ、大丈夫に決まってんだろ。」
窓からの陽射しが翳り始め、夕焼けの色に変わり始めた。
部屋の中にも夕闇が染み込んできた。
俺は長い夜を思って、思わず溜息をつく。
コーヒーを飲み終わった秋彦が立ち上がった。
「本、ありがとな。」
「おう。またな。」
俺も立ち上がって玄関まで行った。
靴を履いた秋彦が振り向いて、俺の顔を見た。
「そうだ。弘樹の好きそうな酒を貰ったから、今度飲みにこい。」
「マジか。じゃあ、お前の仕事が一段落してるときに行くわ。」
「俺の仕事の心配なんてしなくていいから、お前が来たいときに来い。」
そう言って秋彦が俺の目を覗きこんできた。
「弘樹、言いたくないなら聞かないが、あんまり無理すんなよ。」
「何、、。」
「お前、、目、まっ赤だぞ。」
そう言われた瞬間、俺の目からは、涙が零れ落ちてきた。
次から次へと流れているのが、頬を伝わる感触と温度からわかった。
それは、突然過ぎて、止めることもできなかった。
ぼやけた視界の向こうで、秋彦が驚いた顔をしているのに、気づいた。
「見んじゃねえ。」
慌てて下を向いた俺の顎を秋彦の手がそっと持ち上げた。
「だから、見るなって言っ」
秋彦の顔が近づいたと思ったら、唇を重ねるだけの、淡いキスが俺の唇に落ちてきて、俺の言葉を遮った。
驚いて目を瞠っている俺に、秋彦は真面目な顔をして頭を撫でながら言った。
「元気になるおまじないだ。」
緑と青と白の空の色。
「お前は、ガキみてーなことすんなよ、、」
そう言って俺は頭に乗せられた秋彦の手を振り払った。
秋彦は、穏やかな顔をして俺を見ている。
「、、大丈夫そうだな。」
目元を手の甲で拭って俺は睨み返した。
「あ、当たり前だっ!なんでもねーよ。ちょっと、、目に、目にゴミが入ったんだっ!」
「はいはい。じゃあ、またな。弘樹。」
秋彦が手を振りながら出ていって、ゆっくりとアパートの玄関のドアが閉まる。
秋彦と触れても、あの頃のように心臓が暴れることは、、なかった。
「おまじないって、、アホか。」
泣いたのか、、俺。
こんなに泣いたのは、あの時、公園で泣いていた時以来だ。

俺はヒロさんの泣き顔に惚れました。

野分の声を思い出す。
アホ野分。今のはてめぇのせいだ。
だから、
だから、早く。
俺のところへ帰ってこい。

窓の外は、夕闇から夜の闇へと変わっていた。

大丈夫。
長い夜に怯えることは、もうない。
俺はカーテンを閉めると今日読む本を積み始めた。

ちゃんと待っているから。

ヒロさんには笑っていてほしいんです。

お前が帰ってきたら、きっと、笑えるから。

だから、迷わずに帰ってこい。

俺の所へ。
 

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