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frown

当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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処暑        ~夏の終わり 2~

「雨音」の続き。野分視点です。

2014.8.29  pixiv投稿




「こんにちは」
その子は小児科にいるには、年齢が上過ぎた。
付き添い、かな。
「こんにちは」
俺は挨拶を返すと、通り過ぎようとした。
小児病棟は、いつも忙しい。
「上條さんのことだけど。」
その名前に、驚いて振り返った俺の顔を、その子は笑顔で見ている。
「上條さんのこと、俺に譲ってくれませんか?」
この子は何を言っているんだ?
「え?」
聞き返した俺に向かって、もう一度言ってきた。
「俺に、上條さんを譲って下さい。」
一瞬、頭が真っ白になって、思わず、その子に近づいて行った。
「君は、何を」
「草間先生ーっ」
看護師が呼ぶ声が聞こえてきて、我に返った。
「、、嫌です」
その子に一言、そう答えると、俺はナースステーションに向かった。

その日は、もう会うことはなかった。

あの子。
思い出した。ヒロさんが、病院に来ていた日に、ヒロさんの手を握っていた子だ。
少し長めの髪に黒縁の眼鏡。背は俺よりは低かったけど、それでも高いほうだろう。身体つきは、細かったな。
大学生、、?髪の色が真っ黒だった。
もしかして、高校生、か?
まだ、子どもじゃないか、と自分に言い聞かせながら、ふと思った。
俺だって、ヒロさんに会ったときは、あれ位のときだった。
あの年頃は、大人が思うほどに、子どもではない。それが、好きな人のことならば、なおさら。
あの子の言葉は、きっと本気なのだろう。だったら、ヒロさんはもう知っているのだろうか?あの子の気持ちを。あの子はどんなつもりで、俺にあんなことを言ってきたのだろうか。
「野分。」
気がつくと、津森先輩が低い声でおれを呼んでいた。
「お前、なんだ。今日ずっとおかしいぞ。ちゃんと仕事に集中しろ。」
「すみません。」
俺は白衣の襟をひっばり、頭を振ると、病室へ入っていった。

 

「また、上條さんだろ?」
更衣室で、着替えをしていると後ろから津森先輩が話しかけてきた。
「何がですか?」
「お前の様子がおかしいときは、いっつも上條さんが関係してるだろ。どーせ、またあの人が何か言ったんだろう?」
ロッカーの扉を閉める。
バンッ
力が入り過ぎたのか、思ったより大きな音が更衣室に響いた。
「ヒロさんは、関係ありません。」
それだけ言うと、鞄を肩にかけた。
「今日はすみませんでした。お疲れ様です。」
更衣室を出て、エレベーターへと向かう。エレベーターの階数を示す数字が光るのをぼんやりと見ていた。
津森先輩にまで、あんな態度をとってしまった。
本当に今日の俺はどうかしているな。
チン
エレベーターに乗りこんだ。
一階のボタンを押すと壁に寄りかかった。
早くヒロさんに会いたい。
会ってこんなくだらないことをぐるぐる考えている俺の弱さを消してしまいたい。

エレベーターを降りて、出入り口へ向かった。明日は久しぶりの休みだし、ヒロさんとゆっくりできるかな、
今にも雨が落ちてきそうな、どんよりと曇った空を見上げる。遠くでゴロゴロという鈍い音も聞こえてくる。今なら自転車で帰れそうだけど、急いだほうが良さそうだ。
スマホを開いてヒロさんに帰宅を知らせるメールを送った。
急ごう。
病院に停めておいた自転車には、濡れた葉っぱがくっついている。
何日、停めっぱなしだったんだろう。

早く帰ろう。

[newpage]
「ただいまです。」
誰もいない部屋に帰る。
とりあえず、風呂に入りたい。
汗臭い服を脱いで、シャワーを浴びると自分から、汗や病院の匂いが流れていくのがわかる。
湯船に浸かると寝てしまいそうだったから、シャワーだけで済ました。
濡れた頭をタオルで拭いて、ハーフパンツを履いた。リビングに行くと、微かにコーヒーの匂いがする。
朝、コーヒーを飲む時間があったんなら、ヒロさん、ちゃんと起きたんだな。
よかった。
ソファに座ってテレビをつけると、身体中の力が抜けていく気がした。
眠い、、。
あ、、ご飯の支度、、しないと。
ヒロさん、何食べたい、、かな。
瞼が重い。
ヒロさん。
[newpage]
「野分、野分、おい、起きろって。」
俺の肩を揺するこの手の感触。
「野分、そんな格好で寝てたら風邪ひくって。」
俺の名前を呼ぶこの声。
「野分、っわ、、」
俺に伸ばしていた手を身体ごと引き寄せた。
「ヒロさん!」
ソファに座る俺に向かい合わせになって、乗っかるような態勢になったヒロさんの腰に手をまわして抱きしめた。
ヒロさんの匂い。
「おかえりなさい。ヒロさん。」
「、、、ただいま。」
ちょうど俺の顔がヒロさんの胸のところにくっつくような形になったから、そのまま顔を埋めた。
「ヒロさんだ。」
「何言ってんだよ。当たり前だろ。」
「はい。」
黙ってそのままでいると、ヒロさんが俺の頭をそうっと抱きしめてくれた。
え?
俺は嬉しくなって、さらに強くヒロさんにくっついた。
「野分、、どうした?」
頭の上からヒロさんの声が聞こえた。
ヒロさん、あの子は、誰なんですか。
ヒロさんは、あの子のこと、どう思ってるんですか。
聞きたいことは、たくさんあったけど。
「なんでもないです。ヒロさんに会いたかっただけで。」
「アホか。夕飯にするぞ。」
「はい。」
二人きりの大事な時間を、誰にも邪魔されたくなかった。

あの子のことは考えたくなかった。

[newpage]
どっちが当番かで揉めたものの、結局は俺が夕飯を作っている間にヒロさんはお風呂に入るということで、話がついた。
こういうところ、俺にもっと甘えてくれてもいいのに。
ヒロさんは、自分も忙しいのに、最初に決めた食事の当番とかに、割とこだわる。なんでもきっちりとやりたいヒロさんらしいけど、どちらかといえば俺のほうが料理は得意なんだから、頼んでくれてもいいのに、と思ったりする。
病院の帰りに買ってきた材料を使って夕飯を作り、テーブルに並べ終わったタイミングで、ヒロさんが風呂から上がってきた。
「出来ましたよ。」
「わかった、何か着てくるわ。」
頭を拭きながら寝室に入るヒロさんの背中を目で追っていた。
少し、痩せた?
ちゃんと食べさせないと。

「いただきます。」
久しぶりに二人で食べる夕飯。
風呂上がりのヒロさんの可愛らしさは、また格別だ。
「そういえば、この前あの花屋に行ったら、野分のこと、随分と気にしてたぞ。たまには、顔を見せろってさ。」
「本当ですか?そういえば、しばらく行ってないですね。」
「だろ?会いたいって。」
「わかりました。今度、、あれ?ヒロさん?」
「ん?なんだ?」
「なんで、花屋に行ったんですか?」
一瞬ヒロさんの箸を持つ手が止まった。
「ああ。見舞いの花を買いにな。はは。」
見舞い、、。
あの、エレベーターで会ったあの時。
あの子と手を握っていた時。
また。あの子だ。
突然、バラバラバラバラッという音が聞こえたと思ったら、窓に大粒の雨が当たっていた。瞬く間に、外は土砂降りになっていった。
「へえ、誰のお見舞いだったんですか?」
俺は、味噌汁を啜りながら、できるだけ何気なく聞いた。
「あ、ああ、よく行く古書店の人が入院したんだよ。だから、花でもと思ってな。」
「そうですか。」
外の雨は激しさを増している。雷が光っているようだ。
「お前にも、会っただろ、病院で。あの時だよ。」
そう言ってヒロさんは白米を口に押し込んだ。少しだけ、ほんの少しだけ目尻が赤くなっている。
そうか。やっぱり。
俺は気づかれないようにそっと溜息をつくと、食べ終わった食器をまとめた。
「ごちそうさまでした。」
シンクに運んで洗い始めた。
「ごちそうさま、野分うまかったよ。作ってもらったんだから、洗い物は俺がやるって。」
食器を下げてきたヒロさんと、またどっちが洗うかで揉めた。
「いいですよ。」
「俺が洗うって言ってんだよっ!」
「わかりました。じゃあ、お願いします。」
シンクで洗い物をするヒロさんの後ろ姿を見るのは、嫌いじゃない。

こうやって、一緒に暮らしているのに、どうしていつも俺は不安になるんだろう。
ヒロさんが、どこかへ行ってしまうような気持ちになるのは、なぜなんだろう。
「終わっ、っん、ん、」
洗い終わったヒロさんが振り向いたところを待ち構えて、キスをした。
「おいっ、だから、キッチンとかではヤメろって言ってるだろっ!」
「じゃあ、、どこでなら、いいんですか?」
抱きしめたまま、耳元で囁いた。
ヒロさんの白い首筋から耳まで、みるみるうちに赤くなっていった。
可愛い。
「ヒロさん、、。」
「、、やるなら、ベッドで、、」
俯きながら小さな声で答えるヒロさんの唇に、もう一度自分の唇を重ねた。

窓の外の雨は少しだけ弱くなったようだった。
それでも、窓に当たる音は激しい雨を伝えている。
「ヒロさん」
首筋に唇を這わせながら、俺の目はヒロさんの身体の、どこにも変わったところがないことに、安堵していた。
馬鹿馬鹿しい。
一瞬でも、ヒロさんと、あの子の間に、何かがあったように思った自分を嗤いたくなった。
それでもやっぱり、この人に俺の痕を付けておきたい衝動は抑えられない。
首筋を強く吸った。白い肌にはあっという間に紅い印が咲く。
首筋から、胸元にまで、俺は夢中になって吸っていった。
この人は、俺のモノだ。
この人の弱いところも、好きなところも、、全部、全部、全部、愛してあげるから。
「、野分、、、も、、早く」
俺だけのものに。
「ヒロさん、」
もう、雨の音なんて聞こえないくらいに、ヒロさんの声が、息遣いが、俺を包む。
お互いしか見えないこの時間が、永遠に続いたら、どんなにいいだろう。
俺の下で、身体を震わせて求めてくるこの人をいつまでも繋ぎ止めていたい。
誰にも、決して渡しはしない。
そのためなら、俺はなんだってする。

遠くで雷が鳴っている。
雨は朝まで止まなかった。
[newpage]
病院から持ち帰った着替えをボストンバッグから出すと、洗濯機に入れた。
洗剤を入れて、スイッチを入れる。
キッチンに戻って朝食の準備を始めた。
今日は、トーストと目玉焼きだな。
夜の間降り続いた激しい雨も、ようやく止んで、久しぶりの太陽が雲の間から光を射し込んできている。この分だと、洗濯物も乾きそうだ。
ふと見ると、リビングに置いたままのヒロさんの鞄から、着信音が聞こえてくる。
どうしよう。
寝室からは、まだ、出てくる気配はない。
昨晩は、無理させたから、しばらく起きてこれないだろうな。
悩んでいるうちに、着信音は止まった。
誰だろう。


洗濯が終わった頃、ヒロさんが起きてきた。
「ヒロさん、携帯鳴ってましたよ。」
「え?」
鞄からスマホを取り出して、確認したヒロさんは、すぐにかけ直した。
「もしもし、上條です。教授、どうしたんですか?」
仕事の電話なら、仕方ないな。そう思って食パンをトースターに入れ、目玉焼きとサラダを皿に盛った。
「明日必要なんですか、、。わかりました。行ってみます。また、連絡します。はい。失礼します。」
「ヒロさん、朝ごはんできましたよ。」
「ん?あー、ありがと。悪ぃな。」
テーブルについたヒロさんと向かい合わせに座る。
「いただきます。」
ヒロさんは、寝起きが悪い。いつも、朝は少しぼんやりしていることが多い。だけど今朝は何か考えているみたいで、目玉焼きの黄身をつついたまま、箸が止まっている。俺はトロリと流れる黄身を見ながら聞いた。
「宮城教授が、どうかしたんですか?」
「え、、?」
驚いたヒロさんが、目を大きくして俺を見た。俺はトーストにマーガリンを塗りながら聞いた。
「さっきの電話、宮城教授からですよね?違いますか?」
「ああ、そうだけど。」
「何か、頼まれごとですか?」
「うん、、本を探してるんだ。」
本?なんでそんなに困っているんだろう。
「そんなに珍しい本なんですか?」
「いや、置いてある店は知ってるから、悪ぃけど、食べたら行くわ。」
そう言って目玉焼きを食べ始めたけれど、その顔は、眉間に皺が寄っていた。
「俺も一緒に行きましょうか?」
「いや、それはいいって。」
「俺も今日休みですし。たまには、ヒロさんのよく行く本屋に行ってみたいです。」
「いや、本当に一人で大丈夫だから。お前、せっかくの休みなんだから家でゆっくりしてろ。俺も頼まれた本だけ買ったら帰ってくるから。」
なんだか、ものすごく早口でまくし立てると、ヒロさんはトーストにかじりついた。
「ダメですか、、。」
俺はものすごくがっかりした。今日は一日中一緒にいられると思ってたのに。そう思ってヒロさんの顔を見ると、真っ赤になって俺をみていた。
「やっぱり、ダメ、ですよね、、。」
そう言うと、ヒロさんは溜息をついた。
「わかったよ。」
[newpage]
ヒロさんと一緒に古書店に行くのは初めてだ。
少し古めかしい店の引き戸を開けてヒロさんは、奥へと入って行った。俺は物珍しさもあって、一緒に奥には行かずに店内を一人でウロウロと歩き回っていた。そんなに大きな店じゃなかったから、奥の方に行ったヒロさんの様子も伝わってきた。
「上條さん。」
そう呼ぶ声が聞こえてきた。
それは、あの子の声だった。
そういえば、この間、ヒロさんがお見舞いに来てたのは、たしか古書店の人が入院したからって言っていた。ここの店、だったんだ。俺は二人が話している方へと歩いて行った。
「ヒロさん、本、ありましたか?」
奥の板の間に座って、ヒロさんの顔を嬉しそうに見上げているあの子の顔が、俺を見た瞬間、変わった。
射抜くような目で俺を睨みつけてきた。
「ああ、あった。」
そう言って、ヒロさんは手にした本の支払いをはじめた。
「ありがとう、助かったよ。」
そう言うヒロさんに
「いいえ、こちらこそ。お手伝いできて、よかったです。また、いつでもメールしてきて下さい。俺でよければ、相談にのりますから。」
と微笑みながら、言ったあと、俺の方を見て口角を上げた。
落ち着け。
相手はただの子どもだ。
「じゃあ、また。」
ヒロさんがそう言うのを待って、俺はヒロさんの傍に行った。
「行きますよ。」
「ん、ああ、。」
さりげなく、ヒロさんの腰に腕をまわして、出口へと向かった。
後ろを見ると、座ったままの姿勢で眼鏡の奥から俺を見ている視線とぶつかった。
俺は静かに視線を受け止めて、口元だけで笑った。

誰にも、誰にも渡しはしない。
俺の、俺だけのヒロさん。
例え誰であっても。

「ヒロさん、この後どうしますか?」
「とりあえず、宮城教授に連絡いれるから、ちょっと待ってろ。」
「はい。」

空を見上げる。
晴れてはいるけれど、なんとなく風がさわやかに感じる。
一雨ごとに涼しくなってきた。
もうすぐ夏も終わる。


 

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さるり
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自己紹介:
ヒロさん溺愛中

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