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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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恵方

節分のお話

2016.2




「ただいま」
返事がないと分かっていながら玄関を開ける。
今日も冷えた部屋が待っているはずだった、のに。
「お帰りなさい」
「えっ?なんで・・・」
予想していなかった出迎えに、嬉しいと思うより先に驚きの声が出た。
「帰ってくるの明日じゃ」
「予定が変わって、さっき帰ってきました」
「そっか」
何日ぶりだったっけ・・・。
久しぶりに野分の笑顔をまともに見てしまって、顔が赤くなっていくのが分かる。
慌てて靴を脱ぎながら俯いて顔を隠した。
何年一緒にいるんだと自分に言い聞かせても、会えない日が続くと『慣れ』がリセットでもされてしまうのか、未だに野分に見つめられるとどうしようもなく胸が騒ぐ。
玄関先で靴を睨みつけるように脱いでそんな動揺を誤魔化していると、手にしていた鞄とスーパーの袋を野分がすいっと受け取った。
「買い物してきたんですか?」
「ああ夕飯を」
とそこまで言ってから心配になった。帰ってきていると思わなかったから、袋の中には一人分しか入っていない。
「お前、飯は?」
「今から何か作ろうかと思ってました」
「そっか・・・」
「ヒロさんは何を買ってきたんですか?」
そう言って野分が覗きこんだ袋の中に入っているのは細長いプラスチックの容器に入った太巻きだった。
「恵方巻き」
飯とおかずが一回ですむだろ、と言うと野分もそうですねと笑った。
リビングに入りながら持ってもらっていた鞄を受け取った。
「・・・悪かったな」
「何がですか?」
「お前がいるって分かってたらちゃんと二本買ってきたんだけど」
「ヒロさんは悪くないです。俺が連絡しなかったんですから」
そう言って笑顔を見せてはいるが、全身からは連勤の疲れが滲み出ている。
今から飯の支度なんてしてないで、とっとと寝たほうがいいに決まってる。
「それ、お前が食えよ」
「えっ?」
「そんで食ったら風呂入って寝ちまえ」
「そんな」
ショボンとした顔の野分を置いて自室へ入るとスーツを脱いでハンガーにかけた。
久しぶりに会えたのは嬉しいけれど、とにかく野分に足りないのは休息だ。
ネクタイを解きながら、どこか野分と過ごす時間を期待している自分に言い聞かせるようにしながら部屋着に着替えた。
リビングに戻ると袋から出した恵方巻きを野分が皿にのせていた。
「ずいぶんと豪華な恵方巻きですね」
「ああ、小さいのは残ってなかったんだよ。まあお前なら食い切れるだろ?」
「これ、切って二人で分けますか?」
「バカ、縁起物だぞ。切ったら縁が切れるってさ」
「そうなんですか?」
「ちゃんと願い事をしながら黙って丸ごと食えよ」
今年の恵方は南南東だったか、と見上げながら野分に聞くと、そうですね、と手をとられてソファーに座らされた。
「なに?」
「この向きが南南東です」
「は?」
野分が何をしようとしているのか掴めずにポカンとしている間に恵方巻きが運ばれてきた。
「ヒロさんは恵方を向いて食べて下さい」
「だから、これはお前に」
「大丈夫です。俺も食べます、反対側から」
いやいやいやいや、それは違う。それはアレだ、いわゆるポッキーゲームと同じになるだろ。
「なんだよそれ」
「ダメですか?」
子どものようにしゅんとしながら訴えてくる顔をぎりっと睨みつける。
「ダメに決まってるだろ。向かい合わせなんて」
恥ずかしすぎる。そもそも、もっと根本的な問題があるだろうが!
「だいたいそれだとお前が恵方向けねぇだろ。つか恵方の反対向きって意味わかんねぇぞ」
「それは問題ありません」
なんのための恵方巻きだよ、とつっこむと、野分は例によって爽やかな笑顔を見せた。
「俺にとっての恵方はいつでもヒロさんのいるところですから」
どうしてこいつはさっぱりわけのわからねぇことを、いかにも当たり前のように言い放つんだろうか。
疲れているクセに。
そして、そんな野分に俺はやっぱり勝てはしなくて。
ニコニコと笑顔の野分に完全に押し切られ、ため息をついた。
「ったく。ほら、食うぞ」
「はい」
結局、俺がソファーに座り、野分は俺の前の床に膝立ちになっている。
二人で向かい合わせに恵方巻きを頬張る。
恥ずかしさにいたたまれなくなり、やけくそ気味に手にした恵方巻きに大口を開けて噛みついてやった。
やっぱりやめておくんだった。
酢飯とやたら豪華な中の具で口の中がぱんぱんになる。
そして、思った以上に野分の顔が近くに見える。
くそっ、どうしろってんだよ
バカップルな展開に苛立ちながら、野分はどうなんだろうとこっそりと目だけで野分の顔を覗き見ると、バカ真面目に目まで瞑って食べていた。
少しだけヒゲが伸びてんな
つかこいつ睫毛長くねぇか
そんなことを考えているうちに俺は口がとまってしまっていたらしい。野分がどんどん食べ進めて、どんどん野分の顔が俺の方に近づいてくる。
慌てて齧りだすも、もうピントが合わないくらい近くに野分の顔が迫っていて、味なんて分からないまま急いで目を閉じると口の中の酢飯と具をごくんと飲み込んだ。
飲み込んだ後に大事なことを思い出す。
願い事をするの忘れてた
パッと目を開くと、そこには真っ黒な瞳があって、焦って目を逸らすと、野分の唇が触れそうなほど近くにあった。
「近、っつ、んっ、」
離れろと文句を言うその前に、その唇に自分の唇が塞がれてしまっていた。
温かいというより、熱いくらいの舌先に好きなように口腔をかき回されて、頭の中までかき混ぜられたようにぼうっとしてくる。
どうすんだよ
まだ豆もまいてねぇし
風呂も入ってねぇのに
やらなきゃいけないことが浮かんだのは一瞬だけで
どうせ願い事は野分も同じだろうと思い直して、その首に腕を回した。

二人で過ごす時間が増えますように

今年も無事に冬を乗り越えていけますように

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