frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
愛される人
何度も言いますが、ヒロさんは無自覚です。
2014.9.5 pixiv投稿
「お大事にしてください。それでは失礼します。」
豪華な病室のドアを閉めて廊下に出ると、小さく溜息をついた。
それに気づいた宮城教授が、目だけで俺のことを笑う。
「学部長、たいしたことなくてよかったですね。」
俺は長くて白い廊下を歩きながら宮城教授に言った。
「全くだ。俺にとっては単なる上司ってだけじゃないしな。」
そうか、教授にとっては、義父でもあったんだ。学部長は教授の別れた奥さんの父親であり、今の恋人の父親だったな。
ん?なんだか、ややこしい。
まあ、人のことはいいか。
エレベーターに乗ると教授は3階のボタンを押した。
「教授、帰るんなら1階ですよ。」
俺が言うと、ニヤリと笑った。
「せっかく来たんだから、研修医の彼氏に会っていけよ、上條。」
「はぁ?何言ってんですか。やめてください。」
チン
「お、着いたぞ!降りた降りたー。」
背中を押されてエレベーターから出されると、そこは野分の職場の小児病棟。
「だから、いいですって。本当に帰りますよ、教授。」
「なんでだよー。俺も会いたいー。」
「会ってどうするんですかっ!」
「もちろん、可愛い部下が、いつもお世話になってます的な挨拶をだな、、」
「そんなこと言う必要ありませんから、ほら、早く帰りますよ。」
俺たちがエレベーターホールでもめていると、声がした。
それも、、一番聞きたくない声が。
「あれー、上條さんじゃないですかー!」
振り向くと、そこには津森さんがいた。
「どうも、、、。」
この人はいつも、誰よりも、野分よりも先に、俺のことを見つけて声をかけてくる。
「今日はどーしたんですか?野分に何か用事でもあるんですか?」
笑顔でズカズカと近づいてきた。
「あ、いや、知り合いの見舞いに、、。」
俺はその笑顔に押されて、じりじりと後ずさりしながら答えたが、後ろに立っていた教授にぶつかって、足を止めた。
「野分なら、あっちに、、」
そう言って津森さんが、俺の腕に手を伸ばしてきた。
その時
「上條ー、こいつ誰?」
俺の顔の横から声がした。
気がつくと、後ろから俺の肩口に顔を乗せた教授が、両腕を俺の腰にまわした状態で、津森さんを見ていた。
「あ、あの野分の指導医の、」
「津森って言います。失礼ですけど、あなたは?」
「あ、これは失礼しました。M大学の宮城と申します。」
そのままの態勢で答える教授を、津森さんは、呆れたように見ている。
「へえ〜。大学の教授ですか。お二人は随分と仲がいいんですねー。」
「教授、早く離して下さい、、。」
「えー、なんで、いいじゃん。」
「よかないですよ!」
抱きつかれたまま、押し問答をしていると、また別の、それもよく知っている声が聞こえてきた。
「津森先輩、305号室の裕太くんのことですけど、、」
そう言いながら現れた背の高い白衣の男は俺を見て、正確には、俺と宮城教授を見て、固まった。
「ヒロさん?」
「野分、、」
野分は、俺が言うより早く駆け寄ってくると、教授の腕を解いて、俺の腕を自分のほうへと引いた。
そのまま、宮城教授に向かって、笑顔で言う。
「宮城教授、こんにちは。」
「こんにちは、草間君。」
教授もにっこりと笑った。
「野分、あの、、」
「ヒロさん、今日はどうしたんですか?」
「学部長の見舞いに来たんだよ。」
「小児科に、ですか?」
「ンな訳ねーだろ。見舞いが終わって、帰るところだよ。」
「じゃあ、わざわざ俺に会いに来てくれたんですか?」
「アホなこと言うな!宮城教授がお前に会いたいとか言うからだな、、」
野分はもう一度、宮城教授の方へ行くと、ニッコリ笑った。
「いつもうちのヒロさんがお世話になってます。」
「いやいや、可愛い可愛い部下なんで、世話するのも楽しいですよ。」
なにか、二人でわけのわからない挨拶を始めたのを見ていると、津森さんに腕を引かれた。
「上條さん、ちょっと、、」
「なんですか?」
「あの人、なんなんですか?」
「え?ああ、宮城教授のことですか?」
「随分と上條さんにくっついてるんですね。」
いつものヘラヘラした顔とは違って、宮城教授のことをムッとした顔で見ている。
「ああ、あの人はいつもあんな感じなんで。ふざけてるだけですよ。」
そう言うと、突然津森さんがぐいっと俺に近づいた。
「じゃあ、俺もふざけてもいい?」
「はっ?」
「あの人がいいなら、俺だって同じことをしても、別にいいですよね?」
そう言って、俺の肩に手を伸ばしてきた。
その時
「ダメですよ。先輩。」
津森さんの腕が野分に引っ張られた。
「ふざけ過ぎです。ヒロさんに触らないで下さい。」
「痛いって、野分。」
「それに、患者さんが待ってます。早く行きますよ。」
野分はそう言うと、俺のほうを見た。
「ヒロさん、せっかく来てくれたのにすみません。俺、仕事中なんで、これで。」
そのまま津森さんを引きずりながら、歩いて行った。
「かみじょーさーん、またねー。」
津森さんは、俺に手を振りながら連れて行かれた。
なんだったんだ、あの人は。
俺があっけにとられていると、宮城教授が声をかけてきた。
「行くぞー、上條。」
「あ、はい。」
俺はエレベーターを待っている間に大きな溜息をついた。
宮城教授が、俺を見て笑っている。
「なんですか?」
「いやー、お前も大変だなって思ってなー。」
「なにわけのわからないことを言ってんですか。だいたい、教授が小児科に寄ろうなんて言わなければこんなことにはならなかったんですよ!」
「はいはい。悪かったよ。」
「教授、、悪かったって思ってないですよね、、、。」
「思ってるってー。」
エレベーターがきて俺たちは乗りこんだ。
今度こそ1階のボタンを押す。
宮城教授がエレベーターの壁によりかかって腕を組みながら、俺に言った。
「でもまあ、よかっただろ?」
「何がですか?」
「草間君とここんとこ会ってなかっただろ、上條。」
「えっ?」
確かに野分が忙しくて、ここ一週間ほど顔も見ていなかった。
「お前は、分かりやすいからな。」
そう言って教授は、俺の頭にぽんっと手を乗せた。
「これで、少しは元気出して、明日の俺の資料整理手伝ってくれよ、上條。」
「いや、教授、資料整理はゼミの子にでも頼んで下さい。俺は自分の仕事で忙しいんです!」
「なんだよ、つれないなー。俺とお前の仲じゃないかー。」
「どんな仲ですかっ!誤解されるような言い方はやめてください。」
俺はそう言うと、さっさとエレベーターを降りた。
「じゃあお疲れ、上條。」
「お疲れ様でした。」
教授とわかれて歩いていると、ケータイに通知があった。
野分だ。
『気をつけて帰って下さい。』
アホか。女子供じゃあるまいし。
そう心の中でツッコミを入れつつ、俺は口元が緩んでくるのを手で隠した。
ほんの少し顔を見て、声が聞けた。
それだけなのに。
ここ数日の、何かわからない苛立ちが消えているのに気がついた。
教授の言うとおり、気づかないうちに、俺は不機嫌になっていたんだろうか。
野分に会えなかっただけで。
なんなんだ、自分。
しっかりしろ。
一瞬、強い風が吹き、ザアッという音を立てて街路樹の葉が揺れた。
肌に当たる風の冷たさに、思わず長袖が恋しくなった。
家に帰ったら、持ち帰ってる仕事を終わらせて、秋物を出さないとな。
そして明日は、宮城教授の資料整理でも手伝うか。
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