frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
惜夏 ~夏の終わり 3~
夏が終わるので、モブの秋人が出るシリーズを終わらせるべく書きました。モブ視点で書いてます。
苦手な方はご遠慮下さい。
2014.9.4 pixiv 投稿
夏休みが終わってしまった。
教室の自分の席から、窓の外を眺める。
この前まで、あんなにうるさかった蝉の声も聞こえない。
空の色も変わってしまった。
廊下から、教室に顔を突っ込んで俺を呼んでいる声が聞こえる。
「秋人ー、先生が呼んでるぞー。」
俺は立ち上がると職員室に向かって行った。
ノックをして職員室に入ると、担任がプリントをひらひらさせながら、俺を呼んだ。
「なんですか?」
「お前、進路変更の紙、出したろ?」
「はい。」
「M大学にするのか?」
「はい。」
俺は、もっと、あの人の近くに行きたい。
じいちゃんが無事に退院して、俺が店番することもなくなった。そして、上條さんと会うことも、なくなった。
じいちゃんから時々聞かされていた、M大学の上條さんを初めて見たのは、じいちゃんの店でだった。
薄暗い古書店の中で、あの人は立っていた。
真剣に本を探すあの人の横顔は、仄かに白く光っていて、茶色の瞳を縁取る睫毛は長く影を落としていて、俺は目が離せなかった。
今まで見たことのあるどんな女の子よりも綺麗だと思った。
この人に、触れてみたい。
じいちゃんのおかげで話すこともできて、メアドまで交換できたのに、、、。
あの人には恋人がいた。
それも男の恋人がいた。
俺の恋は夏に始まって夏に砕けた。
あっという間だった。
気がつくと自分の唇を指で撫でている。上條さんのことを考えるといつもそうだ。
あの時、一度だけした、キスを何度も何度も思い出す。
あの人の唇の感触を、思い出す。
帰りに、じいちゃんの店に寄ろう。
[newpage]
がらがらと引き戸を開けて店に入ると、じいちゃんがロッキングチェアから声をかけてきた。
「秋人、いいとこに来た。留守番頼む。」
「いいけど、どれくらい?」
「今から本の見積もりに行くから、2時間はかかるな、大丈夫か?」
俺は鞄の中を確認した。今日の課題に必要なものは全部入ってる。
「いいよ。学校の課題しながら店番するから。」
「そうか、じゃあ頼んだぞ。」
じいちゃんはそう言うと出掛けて行った。
俺はレジ横のスペースにノートを広げた。
ここは静かだから、課題をやるのには結構快適だった。ひたすら解いていると、戸が開く音がしたから 、顔を上げた。
上條さんだ。
俺は、シャーペンを落としそうになって、慌てて握り直した。
じっと目で追う。
本棚を見ている背中に見惚れている自分に苦笑いした。
男の人なのにな。
腕を伸ばす度につッとシャツが引っ張られて肩甲骨のラインが出るのに、唾を飲んだ。
あの人に、触れてみたい。
俺は自分の下腹部にずくりとした熱がたまるのに焦った。
頭を振って課題に向かったけれど、並んでいるアルファベットはもう頭に全くはいってこない。
溜息をついて顔を上げると、上條さんと目が合った。
「あ、」
上條さんは小さく声を上げると、また本棚に目を向けた。その首筋がみるみるうちに赤くなっていく。
そういえば、俺が告白して、フられてから二人っきりで会うのは、初めてだった。
この前来てくれたときには、あの大男の医者が一緒だったし。
もしかして、上條さん、照れてるのか?
少し垂れ目の目尻が赤くなっている。
可愛い。
本を手にして、こっちに近づいてきた。
「こんにちは。」
俺は立ち上がると、平静を装って挨拶をした。
「あれ、退院したんじゃなかった?」
奥の方を見ながら、上條さんが聞いてきた。
「はい、おかげさまで。今、お客さんに呼ばれて、出かけてるんですよ。」
「そっか。」
代金をもらって、本を包んで渡そうとした時、上條さんからフワッといい香りがした。
俺は何を考えてんだろう。
この人は、男で、歳もかなり上なのに、差し出された白い手を見たときに、もう我慢できなかった。
その手を掴むと力任せに引き寄せた。
「え、、あの、、秋人君?」
俺は何も言わずに、そのまま強く抱きしめて、首筋に顔を埋めた。
やっぱり俺はこの人が、好きだ。
「好きです。」
「あ、あの、秋人君、、」
「応えてもらえないのはわかってます。それでも、どうしても、好きなんです。」
気がつくと、俺の目からは涙がポタポタと上條さんの肩に落ちていた。
上條さんは、俺を押し返そうとはせずに、黙って抱きしめられていてくれた。
「すみません。少しだけ、このままでいて下さい。」
俺は肩口に顔を埋めたまま言った。
「ん。」
そう言うと、上條さんは背中に手をそっと回してさすってくれた。
静まりかえった店の中は、柱時計の針が刻む音しかなく、俺は自分の胸の音がうるさいほど鳴っているのを感じながら、さらに強く抱きしめてた。
驚くほど細い腰に、また自分が興奮してくるのがわかった。
もっと触れたい。
俺は腕の力を緩めて、少しだけ身体を離すと、上條さんの唇に自分の唇を重ねた。驚いたように薄く唇が開いた隙に舌をそっと入れると、柔らかい舌があった。俺はその舌に自分の舌を絡めながら夢中になって貪るように何度も何度も唇を吸った。
気持ちいい。
頭の芯がボンヤリとしてきた。
そのとき、俺の肩がゆっくりと手で押され、唇が引き剥がされた。
「おしまい。」
そう言うと、上條さんは俺から離れていった。
俺は少し荒い息を吐きながら、もう一度手を伸ばしかけて、、やめた。
柱時計が時刻をつげる低い音を鳴らした。
レジの横にさっき包んだ本が置きっ放しになっていた。
「すみませんでした。もう、こんなことはしませんから、店にはまた来て下さい。」
俺は本を渡しながら、下を向いてそう言った。
上條さんは、黙って本を受け取ると
「頼んでいる本が入ったら、連絡してください。」
そう言って店を出て行った。
俺は崩れるように椅子に腰を下ろし、自分の唇に残る、あの人の感触を指でなぞった。
そして、何度も思い出しては、熱いため息をついた。
「秋人。遅くなって悪かったな。もういいぞ。」
じいちゃんと入れ違いに店を出た。
家までの道を歩く。随分涼しくなった。道ばたの草むらからは、秋の虫の声が聞こえている。
本当に、夏は終わったんだな。
俺は月が光り始めた空を見上げた。
俺はこの夏を決して忘れない。
暑くて、切ない、今年の夏が終わった。
秋はそこまで来ている。
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