frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
救済
津森さんの過去を捏造しました。
津森さんの過去はCHUBBYさんに原案をもらいました。ありがとう。
津森さんが大好きなほのりさんへ贈ります。
9/9 ほのりさん、お誕生日おめでとう!!
2014.9.9 pixiv投稿
飲みの席での他愛もない会話だった、
「野分、お前、なんで医者になろうと思ったんだ?」
「子どもを助けられる人になりたかった、、というのが理由の一つですけど、」
「けど?」
「一番の理由は違います。」
酒が入っているせいか、野分はいつもよりほんの少し饒舌になっている。
「で、その一番の理由って、なんだよ?」
「好きな人のためです。」
「好きな人?もしかして例の『ヒロさん』か?」
「はい。」
そう野分は言って、ふっと目を伏せた。
「ラブラブだな〜。」
からかうように言っても、こいつは照れもしない。
俺は野分の肩をバンバンと叩くと、グラスのビールを飲み干した。
「あの、津森先輩はどうして医者を目指したんですか?」
野分が俺にビールを注ぎながら聞いてきた。
「え、俺か?そりゃあ、女の子にモテるためだよ。」
俺はそう言って笑うとビールを一気に飲み干して、席を立った。
飲み会が思った以上に盛り上がってしまい、終電を逃してしまった俺は野分のアパートの部屋に泊めてもらうことになった。
「おっじゃましまーす。」
「静かにしてください。何時だと思ってるんですか。」
「いやー、だって、ヒロさんに挨拶しよっかなーって思ってさ。」
「あ、今日はヒロさんいませんから、先輩、先にシャワーしてください。」
「えー、いないの?残念だなー。」
野分のアパートに来てわかった。
ここに、女の子は住んでいない。
女の子の気配も匂いもしない。
じゃあ、ヒロさんって、?
野分は、誰と住んでるんだ?
次の日の朝、目を覚ました俺が見た顔は、俺の胸の奥にしまいこんでいた記憶を鷲掴みにした。
その衝撃は胸が痛くなるほど。
俺が見たその顔は、俺の初恋の人によく似ていた。
誰だ、誰なんだよ、お前。
「あ、ヒロさん。」
ヒロさん?これが?
それは、野分の恋人だった。
[newpage]
「津森ー、合コンくるだろ?お前がくると女の子の集まりいいからさあ、頼むよ。」
「いいよ。可愛い子集めとけよ。」
大学生の頃から、女に不自由したことなんてない。
彼女も作った。
だけど、忘れられなかった。
俺が本当に大好きだった人。
たった一人の本当の恋人。
小学校からずっと一緒で、いつも一緒に遊んでいた。いたずらするのも、怒られるのも一緒だった。
大好きだった。
中学に入って、俺から告白して、照れ屋のあいつは顔を真っ赤にして、それでも俺を好きだと言ってくれた。
初めてのことは全て、告白も、キスも、、なにもかも、あいつとだった。
夢かと思った。
二人で同じ高校に合格した。毎朝、俺があいつの家に寄って、一緒に登校した。二人で将来の夢を語った。
夢かと思った。
そして、高校生になって最初の夏に、そいつは、いなくなった。
交通事故だった。
夢だと思った。
蝉がうるさく鳴く暑い夏の日に、大勢のクラスメイトや黒い服を着た大人に囲まれて、俺の初恋の男は、煙となって空へと消えていった。
写真の顔は笑っているのに。
大好きだった男はもういない。
それでも俺は毎朝目が覚める。
起き上がり、いつもと同じ生活がある。
毎日、いつもと同じ時間に、あいつの家に行って門の前で待つ。
いつまでたっても出てこない。
学校、遅刻するぞ。
空を見上げる。
玄関のドアがあいた。
「津森君、ごめんね、今日もあの子は行けないから。」
おばさんは、泣いていた。
俺は
泣いていたんだろうか、、。
「わかりました。明日また、」
「津森君、ありがとう。でも、もう迎えに来なくていいから。」
玄関のドアが閉まった。
「津森、俺は医者になりたいんだ。」
あいつはもう学校には来ないから、俺はあいつの夢だった医者を、あいつの代わりに目指すことにした。
そうすれば、俺はあいつと生きていける。あいつは、俺と生きていける。
俺はもう誰のことも好きにならない。
[newpage]
全ては、俺の胸の奥にしまいこんだはずだった。
それなのに、今ごろになって
大好きだったあいつとよく似た顔が、俺の目の前にある。
似ているくせに、あいつじゃない。
似ているくせに、俺を見てくれない。
俺を見ろよ。
「津森先輩、なんでヒロさんにあんなこと言ったんですか?」
俺が上條さんに対してとった態度の理由なんて、野分に話すことじゃない。
俺自身、なんであんなことをしたのか、よくわかってない。
「だって、あの人ってさ、なーんか必死すぎて、笑えてくるわ。」
笑ったんじゃない。
必死すぎるくらい、野分を見ているあの人に、俺は腹を立てたんだ。
どうして野分なんだ。
どうして俺じゃないんだ。
せめて、ほんの少しだけ。その茶色の髪に触れてみたい。
そう思ってそっと伸ばす手も、届かない。
俺が一歩近づくと、上條さんは二歩下がっていく。
俺たちの間の距離は決して縮まらない。
だったら、もう見なければいいのに。
あの顔が、俺をとらえて放さない。
大好きだった、あいつとよく似た顔。
あいつのように、すぐ赤くなる顔。
「かーみじょーさーん!!!」
俺の呼ぶ声に、身体を縮め、怯えたような、怒ったような顔をする上條さんを見て、嬉しくなる。
やっぱり似ている。
けれど、
俺の恋人じゃない。
ねえ、上條さん、俺は、また誰かを好きになれるかな?
そんな思いは口には出さずに、俺はまた上條さんに近づいて行く。
今は、せめてその顔を、少しでも近くで見せてよ。
あいつによく似た、その顔を。
俺が、また誰かを好きになれるまで。
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